第14話 都市奪還作戦その1
「お前たち、上から司令が入った」
「司令?って本部からですか?」
「そうだ、だから断れん」
会議室のような場所に招集されたと思ったら、ハトの会【日本本部】から指示があったとのこと。
「今回だが、静岡の都市奪還作戦に参加要請が入った」
「え、じゃあ静岡市取り返しに行くんですか?」
「まってそもそも静岡市って奪われてたの⁉」
「「「「……」」」」」
「え…、なんかすみません。俺無知なもんで……」
「ユウは後で私と常識を勉強しよう」
「ご迷惑おかけします」
話がそれたが、作戦内容的には単純なベノムの殲滅
しかし規模がえげつないとのことで、静岡県にいる有力なベノムマギアたちに声がかかったらしい。
「今回は魔女も一人参加するようだが、それでも大いに危険を伴う」
「私たち全員参加ってわけにはいかないっしょ?誰が行くのさ」
「それはシロとハル、お前たちに頼みたい」
「ん、了解」
「え!私ですか⁉シロ先輩はわかりますけど私⁉」
「そうだ、今回の作戦はお前が適任だ、今回の作戦で一皮むけて来い」
「りょ、了解です」
「あぁ、そうだ君も参加だ。もう筆記は合格しているだろう?」
「知ってたんですか?」
「あぁ、当たり前だ。実務経験を積めば一人前だからな、ついでに行ってくると良い」
こうして俺は急遽静岡市に向かう事となった。
「ん、ユウと旅行」
「旅行じゃないだろ、緊張感持ってくれ」
「私がいれば怖いものはない」
「まぁ魔女が来るなら大丈夫なんじゃないですかね、広島の作戦じゃあるまいし」
「世の中ソレをフラグって言うんだぜ」
「ハル、お墓は立ててあげる」
「え~⁉私死ぬの決定してるんですか‼」
「一級フラグ建築士」
「そんな称号欲しくないですって!」
緊張感のない会話が続くが、その会話中もしっかりと彼女たちは武器のメンテナンスや道具の確認をしていた。
俺も渡された作戦の説明が書かれた手帳を読み込んでいく。
俺たちはまず静岡市近くまで軍の車で移動、その間のメンタルケアを俺が担当するわけだが、主な仕事内容として料理やベッドメイキングなどが主である。
中学生なのに専業主婦みたいなことをさせられているが、自分が選んだ道だ。
また手帳には今回参加するシロ班とハル班のメンバーの副作用が羅列されており、俺以外のカウンセラーもいるわけだが、一応すべて覚えなければならない。
ちなみにハルは食欲が副作用のようだ。
「てかなんでヘリ使っちゃダメなんですかね」
「ユウのせいだと思う、ユウは狙われてるからヘイト買いやすい」
「えぇ、人聞き悪いこと言うなよ」
「そんなことない、ほら今もこっちに三体向かってきてる」
そうして指をさされた方を見ると、海岸から黒いナニカが追ってきているのが分かった。俺たちが走る道路は山の側面を走る道路で、すぐ横は海が広がっている。
静岡市方面は人通りがほとんどないらしく、ベノムがこうして普通に出てくるのだ。
「うわ、まじじゃないですか。ユウ先輩クサいんですかね」
「クサくねぇわ!」
嫌そうな顔をしながら、ハルが指を回す。
その動きに連動するかのように、猫型のドローンが二体動き出した。
素早く飛んでいったドローンはベノムの周辺を旋回しながら一体を囲み込み、一撃で核を破壊する。
「はい、まず一体」
「おぉ、スゲェ」
「ふふん、ハルは優秀」
「なんでお前が自慢げなんだよ…」
残った二体は仲間が死んだことに気付くことなく、そのまま走り続けていた。
その背を二体のドローンが通り過ぎ、ベノムの体が両断される。
「私の得意分野は雑魚敵の殲滅です、中型程度なら楽に倒せるんですよ?」
「相変わらずドローン操作が上手」
「えへへ、シロ先輩に褒めてもらえるなんて光栄です!」
顔をだらけさせながらシロの胸に飛びつくハルは、ハスハスとシロの匂いを嗅いでいた。とんだ変態野郎だこいつ…、いやこの世界は女性同士が結婚して子供を作るのが当たり前なので、正しい光景なんだろう。ただコイツの顔は絶対なんか違う気がしてならない、変態の顔だよアレは!
「そろそろ目標地点に着きます」
車の運転をしてくれていた軍の女性が声をかけてくれた。
「ん、じゃあみんなに教える」
そう言って耳につけていたイヤホンに手を当てて、通信機能をオンにしたシロは、後方に続くメンバーに指示を飛ばした。
作戦内容のベノム殲滅開始地点は、静岡駅から始める。
線路から少し離れた場所に拠点が設営されているらしく、そこへ集合し魔女の指揮下のもと、作戦を実行するらしい。
「その、指揮をとる魔女って誰なんですか?」
「えー、ちょっと待ってくれ」
パラパラと手帳をめくり、解説ページから参加予定の魔女の名を調べる。
「えっと、多分【感覚の魔女】って人だな」
「あー、三年前くらいに新しく魔女になった御方ですね」
魔女、ベノムの核に適応したマギアが到達する人外の領域
それぞれ特徴的な異能が扱え、身体能力も100%のマギアと比べ物にならない。
永遠の肉体を持ち、老化することができない時間の牢獄にとらわれた者
あくまで歳をとらないだけで、死なないわけではないのだが、人を完全に超えていることは言うまでもない。
日本のハトが保有する魔女は12人
アメリカや中国などは魔女の保有数で完全に独走しており、やはり世界の覇権を争っている。
たしかアメリカが38、中国が40だったはずだ。
「感覚の魔女…あってみたい」
「いや魔女ですよ⁉恐れ多いにもほどがありますって!できれば私は会いたくないですね、怖いんで!!!」
すると突然視界が真っ暗に染まる
「誰が誰に会いたくないって?」
横だ、横から声がする。
見えない、目は開いているはずなのに、何も見えない
「ふーん、この部隊男の子のカウンセラー連れてるんだ。贅沢だね」
「だれ?」
「誰だと思う?」
「え、はぇ?ななな何事ですかシロ先輩!攻撃ですか!!!」
「落ち着くべき。さっきから嗅覚と、触覚の一部、そして視覚が機能していない。これはあり得ないこと、つまりあなたは…魔女」
この状況下で冷静でいられるシロに感激しつつ、言われてみれば鼻も聞かないし、触覚というか手触りがおかしい。こんな些細な変化に気付けるとは…
「おぉ!せ~かい!!僕こそ感覚の魔女、
パチンと指が鳴らされた瞬間奪われていた感覚が戻ってくる。
見えなかった視界は嘘のようにクリアになっており、なんならいつもよりも調子がいいくらいだ
「今度は感覚が鋭くなった、いつもの1.2倍ほど」
「正確に倍率を当てられたのは初めてだよ!君凄いね、僕の部下にならない?」
「遠慮しておく、ここが私の居場所」
スパっと淡白に魔女の勧誘を断るシロ
そして横でガクブル震えているハル
「あわわわわ、私なんてことを!すすすすすみません!」
「あはは…、嫌われるのなんて私たち慣れてるから気にしなくていいよ」
思ったよりカラッとした返事に安心したのか、ハルはその場にへなへなと崩れ落ちてしまった。
「ま、とりあえず移動しよう!こんな場所でしゃべってたら日が暮れちゃうからね」
そう言って魔女と共に、簡易拠点へと移動した。
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いくつかの建築物と、ガレージが建てられた拠点は簡易拠点にしては豪華だった。
これも技術の進歩を実感させられる光景だ。
白を基調としたコンクリートのような壁の建物
ガラスのようでガラスではない透明な板が、窓に設置されている。
周りを忙しそうに走るのは少女や軍の女性ばかり
看護師のような恰好をした女の子や、スーツ姿の女の子もいる。
「ユウ、よそ見しちゃダメ」
「あ、ごめん。なんか男子全然いないんだな」
「当たり前、ただでさえ数が少なくて貴重な男子をこんな危険な場所に連れてくるわけがない」
「あ、そういえばユウ先輩がここに居たらばれちゃうんじゃないですか?」
「あ、そうじゃんヤバくね?」
「多分大丈夫、この拠点に入る瞬間魔女の力みたいなものを感じだ」
「え、シロってそんなの分かるの?」
「さっきの感覚を奪われるのと同じ感じがしたから」
「私全然気づかなかったんですけど」
「ユウはともかくあなたがわかってないのは問題だと思う」
どうやらマギアならではの感覚のようで、ほかの班の子たちもなんとなく感知しているらしい。俺は全く分からなかったが…
「ここ、私たちの拠点」
話をしているうちについてしまったようで、大きめのシェアハウスが目の前に立っていた。
中に入ると部屋が用意されていて、二人で一部屋を使うようになっているとのこと。
さっそく俺に割り当てられた部屋に向かい、荷物を置きに行こうとした時だった。
「ユウは私と寝る」
とんでもない爆弾発言が投下される
「は?」
こうして作戦前夜が幕を開けた。
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