第15話 戦いは寝不足のまま始まるのだ
一緒に寝る
そんなことをしたのはいつぶりだろうか?
小さな頃に一度だけ?いや、俺の記憶が正しければ一緒に寝るなんて行為をしたことは一度たりともない。
キングサイズのベッドが一つ
なぜここなのかと言えば、シロがじゃんけんで敗北し、角部屋のベッドが一つしかない部屋を引いてしまったせいである。逆にここまで来たら運がいいのかと思うが、日当たりが悪くそこまで広くはない部屋であるので、ハズレである。
沈黙する俺とシロ
時刻は8時を回っており、明日の作戦に向け就寝の時間だ。
作戦が早朝朝の5時から始まる予定なので、できることなら今すぐにでも寝ておきたい。
無言でシャワーを浴び、現実逃避を試みる。
しかしただの時間稼ぎになるだけで、シャワーを浴び終わったシロの姿を見た瞬間思考が爆発した。
想定していても回避できない強烈な一撃
サイズの合わないバスローブを着込み、その下はなにも着ていない。
そのくせ無表情に平然とテクテクと部屋を徘徊し、着替えを忘れたと嘆いている。
あまりの緊張感のなさに俺は豆鉄砲を食らったかのように呆けるしかなかった。
「着替えのパジャマ忘れた」
「下着は?」
「ない」
「そんな張り切って言うなバカ!」
ないものは仕方がないと開き直ったシロは、バスローブのままベッドにダイブした。
柔らかなベッドなのか、シロがダイブすると反発して揺れる。
サイズの合わない服でそんなことをするものだから、肩にかかっていたローブが一部はだけていた。
顔が熱くなるのを自覚しつつ、無言でそっと服を正してやる。
触れる肌は暖かく、シャワー上がりの影響か血色がいい。
「んぅッ……」
「へ、変な声出さないでくれ」
「勝手に出た、驚き」
驚いたと言う割りには無表情なので、本当に驚いているのかはわからない。
「ん、とりあえず寝よう。ユウはベッドで寝て、私はソファーで寝る」
「いや、俺がソファーで寝るよ、明日戦う奴をソファーで寝かせるわけにはいかないしな」
「む、男子をソファーで寝かせるわけにはいかない」
「いやいや、それは別にいいだろ!」
そんな訳で、こんな事になった。
「なんで二人でベッドに寝るとか、バカな考えに至ったんだろうな」
「ユウも同意した、黙って寝るべき」
珍しく顔が朱いシロ、至近距離にいるせいか、彼女の匂いが鼻をくすぐった。
ペースを落とすことを知らない心臓が、早鐘を打つ。相変わらずシロからは金木犀のような香りがして、落ち着く匂いのはずなのに、鼓動はうるさいままだ。
「金木犀の匂いがする」
パンクしそうな頭は、思ったことをそのまま口にした。自分の言ったミスに気づいた時には、シロの顔がさらに朱く染まってからであった。
「クリームを、金木犀の香りに…」
「そ、そうなんだな。その…なんでか聞いていいか?」
「………意地悪」
ボソッと呟いたシロは、俺にさらに近づく。唇と唇が触れ合ってしまうんじゃないかと思うほどの距離だ。
「……秘密じゃ、ダメ?」
お互い無言
時刻は9時を回っており、早めに寝なければ明日に響く。
「そ、そうだな。秘密か、まぁそうだよな。ね、寝ようぜ」
逃げていいのだろうか
押せば、きっと何かが変わったんじゃないだろうか?
このまま逃げて、幼馴染と言う心地よい関係で済ませて、いいのだろうか。
シロの秘密は、一度で諦めていい物なのだろうか?もう一度聞いたら、変わるものがあるんじゃないのだろうか?
でもそんな勇気は俺にはない。
シロと関わり始めたのも打算と欲望から。
俺は臆病だから、死にたくない。
ベノムに食われて死ぬなんてごめんだ。
死にたくないから、より安全な場所を求める。死にたくないから、強いシロのそばにいる。
でも、それでも
俺はシロと過ごした時間が好きで…
どうしようもないほど放っておけなくて
今だけは、小さな勇気が欲しい
「ん、寝よう。おやすm…
小さな勇気で、シロの額にキスをおとす。
一瞬の出来事でシロは固まって、動かなくなった。
「おやすみのキスだ」
「なんでか……、聞いてもいい?」
「……秘密だ」
「そう、秘密」
俺は恥ずかしくて仕方がなくて、いつもはかけない毛布をかぶって、顔をかくした。
寝なければいけないのに、いくら目を瞑っても睡魔が襲ってこない。
10分、20分と時間が経つ
「ユウ、寝てる?」
「………」
「そっか、寝れたんだね。私は今日、寝れそうにないよ」
俺も寝れそうにないよ、そんな言葉を俺は飲み込んだ。
_________________________________________
「くぁあ…、眠い」
「ユウ先輩寝れなかったんですか?」
「あー、なんか寝たような寝てないような」
あれから正直一睡もできなかった。
しかしそんなことを言っている暇はない。
「んゆ、私も、眠い」
「寝不足の男女、何も起きないはずもなく…って奴ですか」
「全然違う奴だわボケェ!」
「なーんだ、シロ先輩ヘタレですね相変わらず」
「元気なハルは、今日のノルマ3倍」
「え⁈ひどいです横暴だぁ!!」
「上官命令、それとも4倍がいい?」
「いつ上官になったんですかシロ先輩!」
「私は覇道隊をある程度指揮することを許されている」
「うわぁ〜特権の乱用ですよ」
「つべこべ言わない、ハルならできる」
シロによる無茶振りと言う名の上官命令が、ハルを襲った。ある程度の権力を持ってしまったが故に、シロはその命令を実行できてしまっている。
「お、朝から元気やなぁ」
何処からか声がすると、別の隊であろうマギアが来ていた。
「君ら東の方の部隊やろ?ウチら西の方出身のマギアや。小夏隊の副隊長
深緑色の髪を肩口で切り揃えた髪型で、狐のように切れ長の瞳と、薄桃色の唇がどこか妖艶さを出している。
身長は高校生くらい
凹凸がはっきりしていて、大きめのスイカを胸に搭載していた。
「ん、よろしく。覇道隊の黒星シロと言う、よろしく。巨乳は敵」
視線が胸にいってるぞシロ…
ガン見しすぎだよ、もう人殺してそうだよ本当に…
「えと、陽月ハルです」
互いに握手を交わす。
「おい、カナミ!何処ほっつき歩いているんだ!」
「いったいなぁ、殴んなくてええやろ」
先程カナミさんをぶん殴った人は、水色の髪を一纏めしたポニーテールの女性だ
。
吊り目の怖そうな顔だが、どこか凛とした雰囲気がある。
シロが気にしている胸の装甲は薄い。
「お前がすぐにいなくなるからだろ!ったく副隊長なんだからしっかりしろ!あとエセ大阪弁もやめろ」
「キャラ付けやん!いいじゃん!なんか大阪弁の強キャラ感出したかったんや!」
「ウチのバカがすまない。私は小春隊隊長の
「ん、よろしく。あなたは味方」
「よろしくお願いします。あと先輩、胸の大きさで関係変えないでください」
「ハルは貧乳だから許す」
「わー貧乳でヨカタナー」
その後軽い挨拶を交わしたシロたちは、朝の集会に出席し、それぞれの仕事場に移動する。
「さっきの、カナミって人。強いよ、99%くらい出せそう」
「へ?そ、そんな化け物なんですか⁈」
「ん、魔女を除けば参加者の中で最強」
「シロより強いのか?」
「私はまだ第二形態を隠している」
「第一形態じゃ負けてんじゃねぇか」
「ぐうの音」
「それわざわざ口にするものじゃないですよシロ先輩……」
そんなこんなで作戦は着々と開始へ近づいていった。
俺は治療所にて待機、副作用が出た子たちにすぐ対応出来るように準備をしておく。
シロは衛生兵部隊として戦場を駆け回り、ハルはなんと突撃部隊の指揮系統部に回された。
指揮系統部には魔女もいるので、比較的安全ではあるが、戦場を見極め的確に指示を出せることが求められる。
「みんな、準備はいいかい?僕がいるんだ、今回の戦いで負けはないよ」
今、戦いが始まる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます