第16話 都市奪還作戦その2
すみません諸事情により短めです。
来週のは長めにとるので勘弁してください。
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開戦
一斉に走り出すマギアが駅の線路側から飛び込み、ホームを徘徊していたベノムに切り掛かる。
俺はその様子をモニター越しに見つめながら、自然と拳に力が入るのを自覚した。
モニターに真っ黒な髪をした少女が映った。
その少女は背格好に合わない大きな斧を持ち、苦戦している場所に突っ込んではベノムを蹴散らし、怪我人の治療をしてからまた動き出す。
その少女に付き従う少女たちも、襲いくるベノムを気にすることなく、怪我人を治療していた。
彼女らが走る場所は必ず戦況が改善し、崩れかけた攻撃的な陣形がなんとか保たれていた。
さらに、戦場には100を超えるドローンが飛び交っており、閃光が駅のホームを照らしている。
ベノムは着々と駆逐され、辺りには物言わぬ液体金属が散乱していた。
激化する戦場、飛び交う閃光の中を走るマギアたちが、ベノムにぶつかり敵を蹴散らしていく。
このまま何事もなく終わるものだと、誰もが思っていた。
瞬間、血飛沫が飛び散る
ゴム毬のように転がる少女
名前も知らない金髪の髪をした少女が、血だらけで転がっていた。
息はある、助かる命だ。
しかし戦場のど真ん中で処置をすればの話だ。未知の敵はそれを知ってか知らずか、確実に殺すための攻撃を伸ばす。
一般のマギアは反応することすらできずに蹴散らされ、鋭く尖った触手が瀕死のマギアへ伸びていった。
そんなハプニングに瞬時に反応した者達がいた、シロ率いる衛生部隊である。
灰色の髪が宙を舞い、誰も反応できない攻撃を弾く。
「赤いベノム三体、オレンジの個体も発見、未知の個体なため注意して」
「「「了解」」」
激しい金属音が駅のホームに響く、音の途切れが無いほどの乱撃。
四方から迫る触手や針を全て弾くシロは、汗ひとつかかず、逆に反撃までしていた。
周りのマギアは赤いベノムに恐怖し、それに平然と対応するシロに一種の希望を抱いていた。
『ハル、赤の情報共有は?』
『事前に告知していましたが、どうやら末端にまでは届ききっていないようです。他エリアにも同様に赤が出現していますが、隊長レベルがおらず苦戦しているようですね』
『魔女、オレンジは私も知らないから。対応しかねる』
『うーん、広島に居た青に似てるから私が出るよ。何体いるかハルちゃん分かる?』
『ホームに一体、バスエリアに二体、他は目視できません』
『なるほどね、じゃあ僕はバスの方を先に始末するよ。ホームは悪いけど耐えててくれ』
『……ぶつかってから十分以上は死人が出る、なるべく早くして欲しい』
『りょーかい、僕も頑張るとしよう』
通信が切れたことを確認したシロは、周囲に目線を泳がせ、人の数を確認した。
「赤いベノムは通常よりスペックが高い。焦らず対応して、必ず五人以上で戦って、オレンジには絶対近づかないこと」
透き通るような声で指示を飛ばす。
珍しく大きな声で味方を動かすシロを見た班員は、ことの重大さをなんとなくだが理解した。
瀕死のマギアは大方治療され、一命を取り留めている。班員の一人がその子を担ぐと、一度戦場から離れていった。
シロの指示に初めは困惑するマギアたちだったが、シロが戦う姿と気迫が説得力を持たせていた。
「ここからは、全力」
シロの戦いが今始まる。
伸びる触手を絡め取り、巻き上げて引っ張った。
グンと引き寄せられたベノムは、まるで軍隊のように連携の取れた動きでシロの拘束から抜け出した。
しかしその頃にはもうシロは接近しており、斧を構えている。
振り抜かれた一撃は大地を砕き、風圧で空気が押しのけられる。
改札口まで吹き飛ばされた三体は、形を変えながらシロに襲いかかった。
ダンゴムシのような形態、カマキリ形態、そしてムカデ形態の三体だ。
カマキリの速度は先ほどの三倍、ダンゴムシは遅くなった。ムカデは天井を移動し、通り過ぎたあとは赤い液体金属が張り付いている。
まず迫り来る鎌を斧の持ち手で弾く
シロの瞳がより一層赤く輝くと、彼女の体がブレて爆音が鳴り響く。
後に遅れてカマキリが横一文字に切り飛ばされ、露出した核をシロが噛み砕いていた。
「シロ班長!行儀悪いです」
「両手が痺れて使えないから、コレが最善」
先程のシロがブレたように見えた最速の一撃もノーリスクとは言えず、使うと数秒腕が使えないのだ。
「連携がとれている、オレンジは動かない。あれがボスか…」
睨みつけはするが、こちらから攻撃することはない。ぶつかれば勝てない可能性が大きいと、本能でわかっているようだった。
「ダンゴムシは硬そう、ムカデは痕跡から針で攻撃してくる」
大きな声で情報を周囲に伝達し、警戒を怠らない。
「大変です!!地下街から赤いベノムが追加で来ます‼︎物凄い数です!!!」
その報告を聞いたシロは理解した。
あぁ、やられた……と
「オレンジは司令塔であり、目印。バスエリアの二体にもベノムが行っているなら、魔女の助けも期待できない」
「どうしますか、班長」
「交戦しながら、撤退する」
苦しい撤退戦が今、始まろうとしていた。
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肉と野菜が焼ける匂いが周囲に漂い、包丁のトントンと物を刻む音が鳴り響くここは、簡易拠点の厨房だ。
シロが戦う中、俺こと浜辺ユウもまた、戦場にて貢献していた。
副作用によりオーバーヒートしたマギアの処置をするべく、俺は厨房にて料理を作り続けている。
また、厨房を出た先にあるのは簡易的な病院であり、ベノムとの戦いで負傷したマギアの治療が行われている。
ここに来るマギアはあの戦場で治療できないと判断された重症者が殆どであり、優勢に戦えていた戦場でもこういった負傷者が絶えないのだといやでも理解させられる。
自分と同年代の少女が、血を流し痛みに苦しむ姿はなんとも言えない嫌悪感があった。
片腕を飛ばされた子や、足がおかしな方向に曲がっている子、さらにはベノムによって腹に風穴を開けられた子もいた。
血生臭いとはまさにこのことで、乱戦とベノムの恐ろしさを再確認できる。
負傷した原因のほとんどは突如として出てきた赤いベノム。
バスエリアからの負傷者が尋常ではないほど多く、街もとんでもないことになっているらしい。
幸い死者は出ておらず、進んだ医療設備のおかげで処置が始まれば数分で怪我は治っていた。ただその処置を施すまでの時間は、苦痛に耐えなければならない。こんな時に何もできない自分に腹が立った。
そんなわけで少しでも役に立つべく、厨房の料理を手伝いながら、副作用や怪我で戻ってくるマギアたちのサポートに俺は徹していた。
「五番の食欲の子、副作用強い!大盛りなるはや!!!」
「はい!ただいま向かいます!!!」
副作用が強い子はつまり適合率が高く、強いと言うこと。
そういった子をできるだけ早く回復させ、戦える子を増やす。残酷だがそれで少しでもあちらの戦力が確保されれば、怪我人も減るだろう。
俺は猫の手も借りたいほど忙しい厨房で、ひたすら皆の無事を祈りながら働くのだった。
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