第26話 リハビリを兼ねた休暇

なんだか風邪をひいて、治ったと思ったらシロが病院で入院中と聞いて俺は腰を抜かした。


すぐにハトの病院に行き、無事を確認したが、なんだかいつもより大人しいシロに違和感を覚えたのが印象的である。


なんと言えばいいか、淡く脆い…触れたら壊れてしまいそうな雰囲気で、とても庇護欲をそそられる。


聞くに色々あって身体が疲れやすいようで、歩いたりするのも大変なようだ。


「じゃあ俺が面倒見ますよ、俺が肩怪我した時コイツ支えてくれたんで、お返しができるいいチャンスですし」

「そんな、昔の事……別にいい」


いつもよりテンションが若干低いシロは、普段より低い気の抜けた声で答えた。


カヤさんからお世話の注意事項を聞き出し、さっそくシロを引き取ることにした。


点滴もあと数分で終わるそうなので、俺は荷物をまとめておき、椅子に座った。

シロは点滴が終わるまで動かずじっとしていた。


点滴が終わり、帰る支度も完了したため、俺たちは受付に向かう。

受付では軽く挨拶を交わし病院を出た。


隣り合う形で歩くこと数分


「ふぅ……はぁ………」


段々と足元がおぼつかなくなってきたシロ

倒れてしまっては元も子もないので、俺はシロの前で背中を見せながら屈んだ。


「ほら、乗れ」

「……わかった」


少しばかり不服そうな声で返事をしたシロは、仕方なくといった形で俺の背に体を預ける。


「なんだ不満か?」

「女の私が、ユウにおんぶされるのはちょっと恥ずかしい」

「まぁ、お前体力ないししょうがないな!我慢したまえ」


ここでも貞操逆転の影響が出てきていることに少し感心しつつ、重さを感じない軽さのシロが少しばかり心配になった。


家に着いた頃には顔を真っ赤にして俺の背中でうつむくシロの完成である。


「どうしたんだよ」

「見られた……クラスメイトに」

「あぁ佐々木さんか、そういえばこの辺に住んでるんだっけ」

「私の学園生活終了」

「あと数ヶ月の我慢だ」


だいぶ回復したのか元気が出始めるシロに俺は少しばかり安堵する。

靴を脱ぎ、荷物を床に置いたシロは着替えるべく自室へ向かう。


俺はソファーに腰かけ、スマホを見ながら時間をつぶした。


「ん、着替え終わった」

「お前今冬だぞ、それ夏に着てた服じゃん」

「問題ない、暖房が効いている」

「そういう問題じゃねぇって、まさかお前……」


無言で立ち上がる俺

何かを察したのかシロは俺の行く手を阻むように立ち上がる。


「どけ、これは確認せねばならないことだ」

「プライバシーの侵害」

「いつも俺の家に入り浸ってくつろいでいる奴がよく言うな、そういえば俺の部屋にいるときも最近は制服が多かったな」

「そ、それは着替えるのを怠っていただけ」

「なるほど、なら服自体は持ってるんだな?」

「…………もっている」

「よし確認しよう」


ずんずんと突き進む俺に対し、縋りつくように俺を止めるシロであったが、素の筋力で俺に勝てないシロは抵抗むなしくずるずると引きずられるだけであった。


シロの部屋のドアを開け、壁側の大きなクローゼットを開く。

服が数十着入るはずのそこには、制服と夏用の服が三着ほどしかなかった。


パジャマも同様、冬服は存在しない。


「シロ、いくら制服と戦闘服が保温性があるからと言って、コレはいただけないな」

「か、買う暇がないだけ」

「ほーん、なるほどな。確か今は力が使えないわけだし、暇だな?」

「か、体がもたない。中止を提案する」

「まかせろ、おぶってやる」


こうしてシロのお買い物が決定した。


___________________


「よし、ついたぞ。いつまで背中でうずくまってる気だ、さっさと服を選ぶぞ」

「今までで一番の屈辱を味わった」


ショッピングモールの服屋に到着した俺は、死んだ魚みたいな目で悟りを開くシロを床に降ろす。


おぶられてここまで運ばれたシロは、道行く人々に見られて精神を破壊されていた。

羞恥心が限界を超えるとこうなるのだろうということを俺は学んだわけだが、これもシロのためである。


「あったかくて着れればなんでもいい」

「わかった、じゃあ店員さん呼んで見繕ってもらおう」


そういって見繕ってもらったわけだが


「あったかいけど、へそ出しじゃないからヤダ」

「さっきお前なんでもいいって言っただろ!」

「へそ出しは私の魂」

「なら自分で選んでこいやぁ!!」


結局シロが自分で選ぶことになり、俺は別で似合いそうな服を探す。


「見つけた」


ズイっと見せつけてくるその服は、セーターのように見える。

手に取ってよくよく見てみると


「これDTを殺すセーターじゃん、こっちにもあったんだな」

「コレはへそが露出している、ポイント高い」

「背中もがら空きだよアホ、却下だ」

「ユウは童貞じゃないから死なないし問題ないと思う」

「そういう問題じゃないな」


それ以降もちょくちょく服を選んでくるが、どこかセンスがとがっているというか、なんというか…


そんなこんなで四苦八苦しながら服を買い付けている時だった。

シロの端末からけたたましい警告音が鳴り響く。


ベノムが出現したことを知らせるマギア専用の通信デバイスだ。


瞬時に動き出そうとしたシロの手を掴み、冷静になれと目線で忠告する。


「今お前は一般人とかわらないんだぞ、みんなに任せろ」

「……でも」

「言ってどうするんだって話でもあるしな」


その時だった。

吹き飛ぶような爆発音とともに、ショッピングモールの壁が破壊される。

同時に侵入してきたのは大型のベノムであった。


三階にいる俺たちの前に現れた15m級の中型ベノムは、周囲の人々を狙って攻撃を仕掛けてくる。


「ベノム出現ってここかよ!」


すぐに避難するべく走り出そうとした俺だったが、隣にいるはずのシロがどこにもいないことに気付いた。


辺りを見渡しシロを探すと、親とはぐれたのかその場でうずくまって泣いている子供に駆け寄るシロを発見した。


「バカッそっちはベノムが!」


案の定見つかったシロにベノムの触手が迫る

とっさに子供をかばう姿勢を取ったシロは、触手に叩かれ付近の本屋へ吹き飛んだ。


「あのベノム見境なしかよ!相当興奮でもしてんのか?」


シロのもとへ走りながら、ベノムを視界にとらえ観察する。

今も暴れるベノムは周囲の人間を片っ端から攻撃し、建物を破壊している。


このモールには男性も少なからずいたわけだが、積極的に襲うそぶりは見られない。まさに視界に入ったやつを攻撃しているようだ。


一階にいる人たちはもっとひどく、小型のベノムに虐殺されていた。

まさに血の海と化しているショッピングモールはまさに地獄


ちらりと見た限り二階まで小型が闊歩している。

三階に到達するのも時間の問題だろう。


「シロ!大丈夫か!!!」


本棚がクッションになったのか、息はあるようでもぞもぞと本の山が動いている

山になった本棚をかき分け、シロを探し出して引き上げた。


かばった子供は無事のようで、気絶はしている用だが怪我はしていない。

ソレを確認したシロは安堵するが、攻撃を受けた右腕はだらりと垂れさがっている。


「子供は無事、ユウはこの子を連れて屋上へ逃げて」

「何言ってんだよ、お前も逃げるぞ!」

「私はベノムを引き付ける」

「腕折れてんじゃん、それにお前体力以前に力が使えないだろ」

「囮くらいにはなれる」

「意味がない、無駄死にするだけだ」

「それでも私は行く」

「ふざけんな、死にたいのか?」


片腕は折れ、足を引きずりながらも戦おうとするシロの手を掴んで止める。


「あぐッ……放して」

「俺に捕まれた程度でこのありさまなのに、行かせるわけないだろ」


キッと俺を睨むシロだが、何も怖くない

貧弱な体で、力もなく、怪我をしている奴なんか、何も怖くない。


無事な方の手を掴みなおし、無理やり引きずる。

片手で子供を抱え、もう片方の手でシロを掴みながら俺は屋上を目指した。


それに抵抗するように暴れるシロは、俺の手を捻って拘束を抜け出し走り出していく。当然追おうとした俺であったが、近くの棚を倒されゆく手を阻まれた。


その隙にシロはベノムが暴れる二階へとすでに走っている。


走れば追いつけるが、子供を抱えている分リスクは冒せない。

俺は舌打ちしながらも、回り込む道を選ぶのだった。

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