第33話 13番目の白キ魔女
金属がぶつかり合う音と、ドローンが騒がしく飛び回る音が戦場を支配している。
そんな戦場のど真ん中、青いベノムと対峙している三人の少女がいた。
そこでは紙一重の攻防が続き、シロはコトネの攻撃に合わせて大剣の一撃を差し込む。
しかし、その一撃をベノムは両方とも受け止めてくる。
粘性の液体金属が武器に絡まり、異様なほど重さが加わった。
大剣は地面にめり込み、刀は強制的に地面へと切っ先が下がる。
「ぐッ…重すぎる……ッ!」
「バルエーション、多すぎ」
青いベノムはあらゆる角度からの攻撃を防ぎ、体の特性をこれでもかと活用した攻撃をしてくる。あきらかに知能を感じる行動に、彼女らは苦戦していた。
シロは斧に付着した金属を、補助ドローンで焼き切りとっさに飛び退く
その瞬間大地が裂け、天高く伸びる大きなハリが突き出てきた。
そのハリはシロを追従するように高速で飛来し、どこまでも追ってきそうな勢いを持っている。
全力でスラスターをふかせ、逃げ惑うシロ
瓦礫のや建物の隙間を縫うように飛び、ドローンでできる限り撃ち落としていった。
「シロ!前!!!!」
コトネの声が耳に届く頃には、ベノムはシロの眼前まで迫っていた。
鈍い衝撃が左脇腹に走り、シロはゴム毬のように弾き飛んでいく。
倒壊しかけている建物をいくつか貫通し、三個目の建物にぶつかってやっと停止する。
「ごふっ……う゛ぁ………」
口から赤い鮮血がこぼれ、ボルト二式の繊維を赤く染め上げる。
蹴りを受けた左脇腹はとくにひどく、装備を着ていなければ胴体が泣き別れしていただろう。
血がどくどくと流れ落ちるのを確認したシロは、すぐにドローンから筒状の回復瓶を受取り、脇腹にぶちまける。
シューッと煙を上げながら、傷は再生した。
ただそれなりの痛みがあったのか、シロは顔を歪めて瓦礫を振り払った。
視線を前に向けたシロは、瞬時に横へ飛ぶ。
それと同時に、間隔をあけることなくその場に光線が突き抜けた。
赤熱した建物は、ものの数秒で形を歪め爆発する。
風穴が空いた建物の背景はよりひどく、閃光弾でも打ったのかと思うほどの閃光と爆発が起こっていた。
それほど規模は大きくないが、数十メートルが吹き飛び、クレーターを形成する。
また衝撃波などのせいで更に被害は拡大し、火の手はどんどんと燃え進んでいった。
「クソッまだ避難は終わってないというのに……」
「戦うのが精一杯で、避難が難しいよぉ」
「ハルが全力で動いている、私達はこいつをできる限りこの場に拘束するんだ」
「それが難しい…と思う」
建物から脱出したシロがリンとコトネの隣に並ぶ
三人は再び武器を構え、青い化け物を睨みつけた。
ゆらゆらと揺れ動くベノムの姿がブレたかと思えば、リンがとっさに動いて盾を構える。
金属音が響いたときには、大きく弾かれたリンが宙を舞っていた。
それを理解したコトネは刃を振る
見えてはいない、感に頼り切った一撃
しかしそれは運良く触手にあたり、傷を付けた。
ぶつかったことで速度を失った触手は、彼女たちでも認識できる速さに減速する。
シロは斧を振るって触手を巻き込み、それをレールにしてコトネが走る。
どんどんと適合率の深度を増すコトネの髪は、紅く燃え上がるように輝いていた。
「土壇場こそ私の本領、後輩におんぶされるほど私は弱くわない!!!」
100%
この絶望的状況下で到達したコトネの髪は、紅く輝いている。
切れ味が増したのかと思うほどスパスパと触手を切り飛ばすコトネは、火花をちらしながらどんどんとベノムに接近していく。
それに並走するように跳躍したシロは、重心移動を駆使した変則的な動きで触手の弾幕をくぐり抜けていく
シロが露払いをし、コトネが突き進む
後方から迫る攻撃はリンがはたき落とし、背中は任せろと言わんばかりの目を二人に向けていた。
シロが砲撃でベノムをひるませ、コトネが前宙しながら大技の大勢に移行する。
納刀された刃からは燃えるような熱が放出されていき、切っ先が陽炎で歪むほどの熱が集まっていた。
「死ね」
技名はない
土壇場の全力抜刀
自分の体から出せる最大の攻撃と、全体重を乗せたまさに渾身の一撃
キィィィィィっと甲高い音が鳴り響き
白く輝く刃が振り抜かれる。
しかし、その一撃は衝撃音とともに停止した。
確実にあたった
だが切れない
「まだまだぁ!!!!!」
それでも止まらない
全力で切れないなら、その倍の力で切り込むまで
さらに、シロの斧が核へと伸びる
二人の全力
抵抗するようにベノムが膨張し、むちゃくちゃな攻撃が周囲を破壊していった。
シロとコトネに伸びる刃のように鋭い攻撃
それは当然分かっている
それでも防がない
防いだら勝てない
「私がいるっつーの!!!」
盾で弾くリン
対の刃は赤黒く赤熱し、膨大なエネルギーを蓄えていた。
「今まで受けた分全部帰してあげる!!!」
エネルギーブレードが吹き出し、一気に放出された力が吹き荒れた。
「いっけぇぇぇ!!!!!」
ぶつかった刃が核にめり込んでいく
『GYAAAAAAAAAAAAAAAA』
けたたましい咆哮を上げるベノム
さらに踏み込む三人
拮抗した状況
それが傾いたのは突然だった。
赤い鮮血をこごしながら、シロが膝をつく
髪は元に戻っており、灰色に輝いていた髪が力なく散った。
限界点
激しい戦闘を常に100%で戦ってきた
限界はとっくに超えている
それでもなお、休息を訴える身体を気合いで動かしていた。
しかし、怪我の影響と、その後の攻防がシロを追い詰めた。
回復薬を使っていても、その負荷は蓄積されていたのだ。
その負債が今、全てを出し切るはずのこの瞬間に訪れた
それでも倒れない
震える足にムチを打って、ブースターを全力でふかして刃を押していた。
それでも、一度崩れた均衡は戻らない
隙となったシロが重点的に責められ、三人は弾かれた。
それぞれ壁や床に叩き付けられ、地面を赤く染める。
体に突き刺さった大きな針が、彼女たちを吹き飛ばした原因であることは一目瞭然であった。
ギリギリまで追い詰めたはずのベノムは落ち着きを取り戻し、核に突き刺さったままの刃を、ベノムは強引に抜き取った。
瞬きする間に核は再生し、今までの苦労は何だったのかと思えるほどの無傷
戦闘前より一回りほど小さくはなったが、それでも目に見えて弱っていない姿をみると、心にくるものがある。
全力を投じた一撃ですべてを吐き出した三人は、動けない
コトネは地面にうつ伏せに倒れながら、悔しそうにベノムを睨み
リンは片膝をついて立ち上がろうとするも、崩れ落ちる。
シロは虚ろな瞳で壁にもたれかかっていた。
頭から血を流し、手はあらぬ方向に曲がっている。
腹部に刺さった針からは、血が流れていた。
そんなシロにベノムは近づいていく
首を触手で締め上げ、ゆっくりと持ちあげる
シロは表情を変えず、意識が朦朧としているのか虚空を見つめていた。
その風貌は、生きることを、抗うことを諦めた用に見えた。
「……死んだら、ユウに会えるかと思った」
かすれた声
「……でも、違う。死んだら……そこで終わり」
虚ろな瞳にはいつの間にか光が灯っていた。
首を掴んでいた触手を折れた手で掴み、ぎりぎりと握りつぶす
「覚悟が足りてなかった、自分の未来を捨てるっていったのに」
瞳は再び紅く輝き、髪は白く染まっていく
「人間を辞めるくらいの……覚悟がないと」
握られた触手は完全に握りつぶされ、首を縛る触手は燃えて消える。
「この世界は、感情でどうにかなる世界じゃない。物語のように、奇跡も起きない。でもその常識は私が……覆す」
【感情を力に変える魔法】
それが第十三番目の魔女 黒星シロの魔法だ。
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