第34話 魔法
機能はサボってしまいすみません
土下座します(_;´꒳`;):_
______________
そこは真っ白な場所だった。
青いベノムに弾き飛ばされ、壁にぶつかった時
敗北を悟ったシロは、壁を越える決意をする
水面ギリギリでも勝てない、だから越える。そんな単純な理由
海から陸へ
その決断を下そうとした時だ。
どこまでも続く真っ白な空間
そこにお婆さんが立っている。
シロには見覚えがあった。
そのお婆さんは、ペンダントを買った店の店員をしていたお婆さんだ。
『なんだい、もう……人を辞めるかい?』
相変わらずニヤニヤした顔を浮かべながら、シロをじっと見つめていた。
『うん?その顔、まさか気づいてないわけじゃないだろうね』
「……?なんでお婆さんがいるの」
『あんたの頭がお花畑だってことはよくわかったよ』
深くため息をつくお婆さん
『じゃあこれでわかるだろ』
そういうと、お婆さんの姿がぐるぐると渦巻くように歪んだ。
その服装は白を基調としたカラーリングの和服にかわっていた。
「あ、あのときのお婆さん」
『顔がおんなじなんだから普通気づくだろ』
「姉妹かなって」
『まず同一人物を疑いな!』
ジトっとした目でシロを睨むお婆さんは、完全にあきれた表情で頭を抱えている。
『で、このままだと負けるよ』
「だから、私は陸へ上がる」
『人魚は足を手に入れたらヒレを失う、それは海に戻れないってことだよ』
「承知の上」
『人を辞めることに躊躇はないのかい?』
「躊躇はあった、いままでこの先に行くのが怖かった。水面から覗く景色で私は十分満ち足りていたから……」
自分の手を眺めながら、シロはつぶやく
「でも…足りなくなった。力がいる、もう失うわけにはいかない」
『あんただけ逃げれば助かるじゃないか、別に逃げるだけじゃあ力はいらないだろう?』
「ソレは、ユウの命を愚弄することになる。私が吐いた言葉を、自分ができずに逃げるわけにはいかない」
その瞳には決意が宿っていた。
決して折れない執念とも呼べる、人を守ることへの決意
「はじめは、死ねばユウに会えると思った。でも、ハルに頼まれたから、私はもう一仕事してから死ぬことにする」
『ひゃっひゃっひゃ、あんたら人間は本当に面白い。いいだろう、感情に任せた行動原理、わしが知りたい最高の原理だ!!!いいか小娘、陸に上がったらそこが終わりじゃねぇ!まだ世界は遠いぞ?それに意地でも食いついていけ、感情で世界が変わることを、このワシに証明してみろ!お前たち人間の力を、教えてくれ』
両手を広げ、声高々にそう叫ぶお婆さんは、とても楽しそうに笑っていた。
瞳はギラギラと輝き、鋭い眼光はシロの奥底を覗いているかのようだった。
『ワシはクウハク、お前たちが言うところのベノム、そのお弾き者の老婆さね』
その声と共に、シロの意識は現実へと戻される。
まるで顔に水をかけられたかのように、意識がはっきりと覚醒した。
首を絞める触手の感触が、体を貫く針の痛みが、ユウを殺された怒りが、街を壊された憎悪が、何も守れなかった自分への怒りが……
自分の感情が言葉として吐き出されていく
言葉にするほど、この怒りは熱量を上げていった。
「人間を辞めるくらいの……覚悟がないと」
心が、爆発したように燃え滾る
燃え上がるボイラーに燃料を投下するように
全身の端から端まで、感情と言う名の力が駆け巡っていく。
あれほど痛みを訴えていた体が嘘のように軽い
まずは邪魔な触手を握り潰す
「この世界は、感情でどうにかなる世界じゃない。物語のように、奇跡も起きない。でもその常識は私が……覆す」
全身を包む黒炎
復讐の炎が燃え上がる
腹を貫いていた針は、その黒炎に当てられると塵になるかのように消え去った。
血を吐き出していたはずの傷口はふさがっており、破れたスーツから覗くおへそは真っ白な白磁の肌である。
「【
まずは復讐心、これを燃やす
憎悪と言う感情が今、炉にぶちまけられた。
その対価に対し魔法は力を与えてくれる。
憎悪の感情が今、黒き黒炎となる
言ってしまえば厨二臭いその炎は、揺ら揺らと揺れ動き、ベノムを今か今かと待ち望んでいるようだ。
ベノムは突然の変化に対応が遅れている。
反応が遅い、今がチャンスだ。
武器はない、なら作ればいい
手に力を籠める
すると燃える炎が集まっていく
黒くどこまでも執念深いその炎は、一本のナイフを形作った。
真っ黒な刀身と、黄金色の柄
刃の形は何の変哲もない通常のナイフ
されどそこからは恐ろしいほど重苦しい重圧が放たれている。
高速でベノムに接近し、動こうとする腕らしき部分を切り飛ばす。
切られた断面は黒い炎が吹きこぼれ、ベノムを燃やし始めた。
ベノムも負けじと数百を超える触手の雨を降らせた。
対してシロはすべてを薄皮一枚でよけきっている。
伸びた触手の針からさらに針が伸び、枝分かれのように広がっていく。
それらに向けてシロが短剣を投げつけると大本の触手にぶち当たる。
すると大きな音をたてて触手がはじけ飛んでいった。
綺麗に足を折り曲げたシロは、地面を再び蹴って前に出る。
蹴られた地面は特に影響なく、砂ぼこりすらまっていない。
ブースターを使った回転、その凶悪的な一撃を、まず核がある頭に全力でたたきこんだ。
衝撃波と音があとからやってくるほどの一撃は、ベノムの体を残して核を弾き飛ばし、数軒の建築物を貫通して飛んでいく
しかし死んでいない
敵はまだ生きている
手に再び短剣を握り締め、排熱を繰り返すブースターをふかせる。
一瞬の溜めの後、シロの姿が掻き消えたかと思えば彼女はベノムを切っていた。
ただ弾かれる
今回は核ではなく別の何か
硬質な何かに攻撃を防がれた。
視線を向けると、姿が変わった青いベノムがたたずんでいる。
原型は細身の人型、頭に核が露出しているのは変わらない。
ただ液体ではなく完全に個体へと姿を変えている。
手足の先端はまるで刃物もしくは針のように鋭くとがっており、腕の部分には盾と思われる膨らみも確認できる。
「形態変化、赤がそうならあると思ってた」
しかし淡々とシロは武器を持ち直し、姿勢を変える。
対人戦に近い戦闘方法へと変えたのだ。
刹那
ベノムの姿が消えるかと錯覚させられるほどの速度で接近してくる。
シロは多少驚いたようだが、きちんと打ち合っていた。
ガンッガンッッガガンっと金属同士がぶつかり合う激しい戦いが繰り広げられている。
衝突のごとに衝撃波と風、そして火花と音が辺りに響き渡っている。
時に地面が割れ、時に壁が壊れる激しい戦いが巻き起こっていた。
見る者が見れば惚れ惚れするほどの刃捌きで、シロは善戦をしていた。
力で負けていても、体の使い方から武器の使い方まで、工夫はいくらでもできるのだ。
そんな永遠にも思える打ち合いは、唐突に終わりを迎える。
短剣で弾いた触手が砕け、それを隙とみたシロが追撃する。
しかし、壁にたたきつけられたのは意外にもシロの方であった。
単純な力負け
力量では覆せない壁にぶつかったから?
違う、ただ単純にエネルギー切れなだけだ。
シロの魔法は、感情を燃料に燃やすことで、膨大なエネルギーを生み出している。
それはつまり、感情を燃やせば当然その感情もへっていく。
そして燃やしきってしまった感情は、また生み出さなければならないのだ。
しかし、それは一瞬のことだ
なんて言ったって、恋人が殺されたのだ。
感情を燃やしました、だからもう怒りませんではないのだ。
許せるはずがない
その怒りという記憶がシロの感情に再び火を灯す。
消えた感情は、エネルギー切れからほんの一瞬にして回復する。
再び再稼働したシロの魔法は、黒炎を揺らしながら力を生み出していた。
鈍くなった反応も一瞬で回復し、すぐに反撃へでる。
しかしその一瞬は戦いにおいてあまりにも大きい
攻めから一転防戦に傾く戦況
「負の感情はもちが悪い」
なんとなくの感覚でそうつぶやくシロは、自分の魔法について手探りで使い方を模索しているようだった。シロ自身どんな魔法かは、あやふやなイメージ程度の知識しか知らない。
自分の力がどういったものなのか
ソレを今、シロは見つけ出そうとしていたのだった。
戦いはまだまだ続いていく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます