第38話 選択肢

振り抜かれた一撃

その一撃は巨大な質量を切り裂いた。

ベノムの核を覆う外装、それらをまるで焼き切るかのように切り裂いていく。

台風でも来たのかと思うほどの風が吹き荒れ、辺りの瓦礫やものを吹き飛ばしていった。


周囲が白く染まり

とてつもない抵抗がシロの腕にかかり始める。

刃は赤い核へとぶつかり、ギリギリと音を立てながら争ってきているのだ。


『GOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!!!』


雄たけびと形容できる叫び声が周囲を揺らす。

力と力のぶつかり合い


シロは震える手に力を籠める。

知覚できるすべてから、感情を集めていく。


人々からあふれ出した感情が、シロへと集まり巨大な大剣は重さを増していった。

踏みしめる大地がへこみ、まるでそこだけ重力が数倍になったのかと錯覚するほどの重圧。


「ぐぅ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!」


拮抗していた状況は、少しずつ傾きだした。

激しい火花を散らしてぶつかっていた刃が、少しずつ動き出す。


肥大化した真っ赤な核に、めり込んでいく。

白く輝く光の刃

その存在が今、ベノムの命に届かんと迫っていった。


「いっけぇぇぇ!!!!シロ先輩ィィィィィ!!!!!」


アホみたいなハイテンションで声援を飛ばすハル


「やれ!叩き切れ!!!!!」


拳を握り締め、身を乗り出すコトネ


「ままままって隊長!!危ないってぇ!!!!」


ソレを必死に止めるリン


「やっちゃえぇ!!!ぶった切れぇ!!!!」


鞭を振り回しながら叫ぶ魔女


配信を見る者たちが、シロを応援する人々が

シロに集まっていく。


シロ自身に向けられた感情が凝固し、力へと変換されていく。


「いい加減に、切れろ!!!!!!!」



刹那




世界が弾けた。



今までで一番甲高い金属音と共に、光の刃が振り抜かれた。

暗く曇った雲は晴天へと変わり、周囲には生命の息吹が吹きこぼれる。


シロの魔法が切った場所、そこは勝利を祝福するかのように咲き誇る花が広がっていた。


核を失ったベノムの体が、重力に従って崩れ始める。

ソレを確認した四人はほっと息をなでおろした。


「た、倒したのか?」

「はぁ……っ…はぁ…その……はず」


シロは大技の反動で腕が一時的にマヒし、体への負荷も相当であった。

そんな中、しきりに周囲を見渡し、周囲を警戒する魔女


「何を探して……」


不思議に思ったハルが、魔女に問いかけるも、全く聞こえていないのか地面を睨みつけている。



「いた!!!!」


突然走りだした魔女


「不思議だったんだ、浜辺君の反応。青いベノムが人間を核に保管するなんて来たことがなかった。でも、僕が知る中でソレが可能な個体がいる!!!」


まるで仇を見るような目で、魔女は鞭を振るう


一瞬にして高速へと達した鞭が、大地にぶつかった。

それと同時に、なにか小さなものが視界の端へと消えたのを、シロは見逃さない。


「追って!!!黄色は逃げ足が速いだけじゃない!転移かナニカか、とにかく長距離移動の手段を持ってるはずなだ!!!」


シロはそれで何かを悟ったのか、ふらつく体を再び動かし、駆け出した。


コトネやリン、ハルもとにかくと言った形で走り出す。




その時



魔女の胸から針突き出る。

ポタポタと針の先端から液体が滴り、魔女の口からは真っ赤な血が吹きこぼれた。


「こふ…っ……ぇ?!」

『ダメじゃないか、その肉はテイクアウトなんだ。横取りはいけないよ』


真っ赤に染まっていく布が異様なほど残酷に見えた。


「だれ……君……」


魔女は口から血をこぼしながら、背中の人物にそう問いかける


背中の人物の風貌は、ハルたちにははっきりと映っていた。

見た目は190cm以上、細身な男性

髪は白く、乱雑に切りそろえられたような髪型

顔は異様なほど整っており、瞳は暗く濁った黒

魔女を貫く腕が、肘から真っ白な針状に変形していることから、明らかに人間ではない。


その男から放たれる雰囲気は、ねっとりした湿った雰囲気だ。


その姿をとらえたシロの心臓…いや核が大きく反応した。

まるで怒りをあらわにするように、心臓のように鼓動を刻んでいる。


「なる……ほどねぇ。君が侵略者か」


胸を貫かれたというのに、ニヤニヤと笑う魔女


「僕は幸運だ、今最高に…かはッ……ついてる」


魔女はシロを指さし、一言


「いけ、黄色を追って。ここは僕の舞台だ」


そういうや否や、魔女を突き刺していたはずの男が瓦礫にぶつかった。

その距離ざっと100mはあっただろう。


シロの視界の端で砂ぼこりを上げる場所、そこに奴は弾き飛ばされたのだ。


魔女を貫く針は半ばでへし折られており、今まさに魔女が自ら引き抜いている。

ぽっかり空いた胸を眺めながら、魔女は鞭を握り締めていた。


「ギリギリ心臓はやられてないね、これなら治りそうだ」


腰のポーチから紫色の小瓶を取り出し、口に含む

すると瞬き一つの間に傷がふさがっていた。


「さ、散った散った!君らは黄色いのを追う。僕の舞台を邪魔しないでくれ」

「で、でも!」


ごねるハルの手をコトネが掴み、走り出す。


「ここに居ても邪魔なだけだ、行くぞ」

「うん、いい子だ」


その姿を満足そうに確認する魔女の視線は、とてもやさしい瞳だった。


「アキラ先輩、死んじゃだめだよ。まだ、教わりたいこともたくさんあるから」


シロはそう一言残すと、瞬時に姿を消した。


「死んじゃダメ…か。可愛い後輩を持つのもつらいね」

『お別れは済んだかい?』

「君こそ故郷にお別れはしたのかなぁ~?ふふ、お別れは済んだかだって?そういうのって負けフラグなんだよ?」

『癪に障る、生命としての格が違うのがわからないみたいだね』


端正な顔を醜くゆがめた男が、魔女を睨みつける。

対して魔女は、精一杯の誇りを刃に敵を睨みつけるのだった。


___________________


シロは目の前を走る黄色いベノムを追いかけていた。

全速力で追ってもなかなか追いつけず、小さいのも相まって余計に追いずらい。


ハルがドローンで先回りをするが、それもあっけなく破壊されて突破される。


焦りが増していく。

あの男は明らかにヤバイ存在だ。


一刻も早くこいつを仕留めて、援軍に向かわなければならない。



凝縮


負の感情を押し固めて、形作る

押し固められた感情は、ビー玉サイズになってシロの目の前に現れた。


ソレをつかみ取り、大地を大きく踏みしめて投擲

空気を切り裂きながら、真っすぐ飛んでいったその玉は、ベノムに直撃して吸い込まれていった。


直後、ベノムの速度が落ちる。

負の感情はマイナスの力

押し固められた負の感情によるデバフだ。


一気に加速し短刀を振り抜く。

しかし、目の前から消えるベノム


シロの十歩先にワープしたのだ。


「ちッ」


再度踏み込む

対するベノムは空間に裂け目を出現させていた。


ここから予測されるもの

1,空間からの攻撃

2, 長距離転移

3, 触れるといけないトラップ


色々な憶測が浮かぶ中で、最も最悪のパターン

ソレが長距離転移


安堵の感情を燃やす

安堵の感情が形作るのは真っ白なブーツ


そのブーツは大地をガッチリとつかみ、布のように引っ張った。

地面の層が一枚まるでカーペットのようにクシャリと歪み、ベノムを引き寄せる。


両足に力を込めて、全力の跳躍

前方へと飛び上がり、最速でベノムに接近した。


しかし逃げられる


ヒラリと身をかわしたベノムは、黄色のベノムは空間の裂け目へと潜りこんでいった。

ベノムが通過した後の裂け目は瞬時に閉じようとしている。


その隙


そこが最大のチャンス

持てるすべてで加速し、ギリギリで体を滑り込ませたシロ





空間の先、シロは暗闇の世界を落ちる感覚を感じながら、意識を手放すのであった。

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