第8話 亜種

季節は巡り…と言っても夏休みに入っただけでいまだ夏である。

これはもう巡ってないね、ごめん


中学生の夏休みと言えば部活で消えるわけだが、俺はあいにく文化部であるので活動がほとんどない、シロも俺と同じ部活であるので暇である。


「暇」

「そうだなー」


当初の目的である宿題はとっくに飽きてしまった俺達、もう半分ほど終わらせてある俺とは違い、シロは全くやっていなかった。そこから4割ほど進めただけでも今日は収穫だ。


あの怪我以降何故か俺の部屋に入り浸るようになったシロは、夏という暑さのせいか、際どい服装を恥ずかしげもなくさらしながらソファーでゴロゴロしていた。


「ゲームしよう」

「モンハンでいい?」

「了解」


そんな平和を満喫しているときだった。

突然シロのスマホがけたたましく鳴り響き、街の放送からは緊急アラートが流れ始めた。


シロは一度深い溜め息をつくと、いそいそと荷物をまとめ始める。


「今日も平和だと思ったんだけどな」

「ベノム最近多い」

「頑張ってくれよマギア様」

「ご褒美はプールでも行こう」


俺も避難所である小学校へと向かうべく、まとめてある荷物を手に取ろうとした。


「待って、ユウは私の家のシェルター使って」


そう言ってシロは俺に合鍵を渡す。

不用心だなとは思いつつも、信頼してくれている証だと思うことにした。


「ん?なんでだよ、てかシェルターなんかいつ作ったんだ」

「ついこの前作ってもらった。確かめたいことがあるから、そこにいて」

「まぁ近いし、お邪魔するとしようかね」

「うん。それでいい、行ってきます」


そう言ってシロは窓を開けると、俺の部屋を出て行った。


「ちゃんとドアから出ていってくれ」


そう口にしてみたは良いものの、シロはもういない。


「はぁ、移動するか」


家を出た俺はシロの家へと向かった、と言っても向かいの家なので歩いて数歩である。彼女からもらった合鍵を使い、玄関のカギを開ける。

教えてもらったシェルターの場所は階段裏にあるらしいので、靴をもって家へと上がった。


階段裏に着くと、そこにはいかにも地下室ですみたいな扉が床に設置してあった。両手で慎重に蓋を開けると、思ったよりもポップな階段が姿を見せた。

モコモコのカーペットが敷かれており、ご丁寧に手すりまで完備されている。照明の形も猫の肉球で、しかもLEDなので明るい。

ダウンライトまであるので足元もばっちりだ。


豪華すぎる…


俺の想像する地下室とはかけ離れた見た目のインパクトに驚かされた。

地下室と言えばコンクリートの壁や冷たそうな床、薄暗い部屋などのイメージであったが、階段から覗く景色だけでももう快適そうだ。


これは靴を履いて降りるのは失礼だと思いなおし、靴を玄関に置いておく。

再びシェルター前に戻ってきた俺は、さっそく階段に足を踏み入れた。


モコモコした感触としっかりとした安定感が感じられ、実用性にも重点が置かれているようだ。よく見ると壁が二重構造になっており、木造の壁の裏は鉄の壁が仕込まれているようだ。わざわざわかりやすくアクリルの看板が設置されていて、安全性をうたっている。


換気設備もばっちり、食料備蓄も三ヶ月分、電気水道ガスも通っているようだ。


「いやハイテク過ぎない?」

階段を降りた先の廊下を出ると、広めの部屋が用意されていた。

まず一番に目に飛び込んできたのは壁一面のモニターだ

近くにリモコンがあるのでテレビかなんかだろう。


モニターから少し離れた場所には高そうなソファーが鎮座しており、テーブルもガラス製のような透明な奴だ。


モニターの反対側にはキッチン、冷蔵庫やレンジもある

地下室の階層はそれでとどまらず、、広いベッドやお手洗い場、二人が寝そべっても問題なさそうな浴槽、最近CMで宣伝されている高性能トイレ。

PCやPSなどが設置された男子が憧れる施設なんかもある。


「いやコレ地下何階まであるんだよ、しかもエレベーターあるし…って5階まであるんだ」


エレベーターによって階層の数を知った俺は、あまりの光景を前に困惑するのだった。



___________________


「なんですかね、あのベノム」

「わからん、赤いベノムなんぞ見たことないぞ」

「ビームうってる」

「私たちの到着待たずして町を破壊するとはいい度胸ですね」

「まぁ川の向こう側は別の隊の区域だ、まだ手出しできん」

「救援要請は?」

「確認しているがないそうだ」

「隊長、こっちくる」

「あぁ、一直線だな」


ふっとシロが目を細める

赤いベノムの進行方向を確かめるように視線を向け、振り返った。


「進行方向的に、私の家がある」

「ソレはなおさら止めなくちゃいけませんね」

「大きさはギリギリ中型だが、油断するなよ」

「「「了解」」」


今回は敵が一体のみ

そのため隊全員で迎え撃つことが可能であり、彼女らの背後には覇道隊全員が終結していた。


赤黒い色のベノムはまさに異彩を放っており、体から光線を出して攻撃しているのが観測されている。威力はとてつもなく、その一撃で周囲一帯が大きな爆発と共にチリとなった。


「あの川を渡り切った瞬間から一斉射撃、各班あのビームに注意を払いながら削っていけ」

「私たち四人はベノムと近接でダンスだ」

「味方の演奏で死んじゃわないか不安だよ~」

「その程度で死んだらお前たちは班長失格だ、後方の指揮は副班長主導のもと協力して対応しろ」

「うひゃー、シロ先輩任せましたよ!」

「ハルも行くんだよ?」

「じゃあリン先輩の無駄にでかいおっぱいを肉壁に!」

「私に追いつけたら守ってあげるよ後輩ちゃん?」

「無駄口はここまでだ。皆の者、準備はいいか?」

「「「はい」」」


赤いベノムが川を渡り切った瞬間

覇道隊は動き出す。


一斉に発射された弾丸の雨は正確にベノムに降り注ぐ。

上手く貫通するものもあればあっさり弾かれるものもあり、妨害としては満点の動き出しだった。


降り注いだ弾丸の雨により砂ぼこりが舞い上がる

ドローンなどからも放射状にライフルが降り注ぐ中、四つの弾丸が砂ぼこりを突っ切りベノムへと迫っていた。


先頭を走る少女は身の丈に合わない大剣を担ぎ、背中に目でもついているのか降り注ぐ弾丸を一切気にせずに走っていた。


そんな少女の背中を追うのは軍帽子を被った長身の少女である。

こちらは一本の刀のような武器だけを装備し、残りはすべて加速するための道具だ。

降り注ぐ弾丸を切り飛ばし、あらゆるブースターを駆使しながら減速を知らない動きでベノムへと接近していた。


そんな二つの弾丸から少し遅れて走る二つの弾丸


一人は大きな盾と剣を持ち弾丸を盾で防ぎながら弾の間を縫うように走っていた。

もう一人はその少女の背にぴったりとくっ付いて走る小柄の少女だ。

武器は最低限の短剣以外持たず、デフォルメされた猫のドローンを駆使しながら、降り注ぐ弾丸を正確に打ち抜いていた。


一時的に弾丸の雨が止み、砂ぼこりだけが辺りに舞っていた。

いきなりの歓迎にベノムも驚いたのか、防御姿勢をとって鎮座している。


そこに、一人の弾丸が衝突した。

防御姿勢を取っていたにもかかわらず、硬化した体を砕く大剣がそこにはあった。

大きくのけぞるように弾かれるベノムは、続けざまに大剣とは思えない速度で連撃が叩き込まれる。まるで反動を知らないかのように、舞のごとく踊る少女は時には斧、時には大剣、砲台にしたかと思えばあらぬ方向に発砲し、気づくとベノムの死角へと消えていた。


シロは決して怪力ではない。

一般のベノムマギアが80%相応の力を出したなら、同じような握力であるだろう。

ではなぜこうも重たい武器を振り回せるのか?


ソレは狂気的な重心移動にある。彼女は自身の武器を使った重心移動により、獣のような高速移動や、本来不可能な体勢からの攻撃を実現させているのだ。

少女だけを見れば訳の分からぬ無茶苦茶な動きでも、武器と言う一点に注目すると重心がぶれていない歪な戦闘方式。



例えば彼女が斧を上段から振り下ろしたとしよう。

振り抜かれた斧は当然円を描きながら下を向くのだが、そのタイミングで体を前に飛ばす。ブースターによる補助と、斧の重さで重心は斧側に存在し、持ち手の位置が手前に回転しただけで、斧の位置はたいして動いてはいない。


体を前へ回転させたその次は、斧を変形させ重心を移動させる。

変形の際に一度分解されるのだが、その分解から変形の工程で破片は空中に浮かびながら変形していく。

その一瞬だけ、武器が軽くなる瞬間が生まれる。


その瞬間次への攻撃へ体勢を変え、残るは振り切るのみ


つまり彼女の攻撃動作は、彼女中心に見てはいけないのだ。

彼女の動きに翻弄され、ありえない体勢を隙であると勘違いした者は等しく





叩き潰されるのだ。





横なぎに降られた触手の刃を、高跳びのように体を空中で横に倒して避けたシロ

その時にはもう斧は大剣へ、不可能と思われた体勢からの超重量級攻撃


叩きつけられるは渾身

弾ける火花と共にベノムが抉られる。


『ギィィィィィィ!!!!!!!』


けたたましい叫び声が響くと、赤いベノムの一部が発光しシロめがけてビーム状の攻撃が放たれる。


しかしそこには彼女はもういない

代わりに来るのは軍帽子を被った第二の弾丸


ビームは一本の刀によって切断され、分裂したビームはあらぬ方向へと散った。

隊長に気を取られたベノムに地面を滑るようにしてシロが

隊長との連携、上と下からの同時攻撃


背後に撤退しようとするベノムであるが、猫型のドローンによって砲撃をくらい足止め…


無差別に伸ばされた触手の棘は盾を持った少女とドローンによってすべて防がれる。


「「せーの」」


ドギャンッッとうい重々しい金属音が響くと、ベノムは大きく弾かれたのだった。


「今ので仕留められると思ったんだがな」

「核周辺だけ逃げられた」

「脱皮みたいなんですけど、ウケるわ~」

「こいつ硬いだけじゃなくて、学習能力も高いです。先ほどからドローンで計測してますが、どんどんアップデートされて強くなってます!」

「早めに仕留めた方がよさそうだな」


赤いベノム

突如現れたそれとの戦いは、まだ続いていく。

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