第21話 デデン!魔女は仲間を呼んだ!

「ふふ、僕がこの魔法を解いた時、遮断されていた性欲と言う感覚は解放される…!!」

「あぁ…ダメだこの人、終わりだよこの国……」


コトリは絶望し、ついには日本の未来を危惧し始めた。

しかし、この場を支配するのは感覚の魔女であり、この女がそんな言葉で止まるわけがない。不敵な笑みを浮かべ、悪魔の指先を掲げる魔女。


掲げられた指は軽快な音を鳴らす……



そのはずだった


「ちょっと待った!」


ガラリと部屋のドアが開き、白衣姿の女性が姿を現した。

厚底の眼鏡をかけ、背中には大量の荷物と思わしき風呂敷を担いでいる。


「か、カヤさん!!!来てくれたんですね!」


コトリの目に輝きが取り戻され、生きる気力が沸き上がったのか、座席から立ち上がり歓喜の声を上げた。


「あぁ、来ないわけにはいかないからね、魔女様親友のお呼びとあらば!」

「へ…?」

「お、間に合ったんだ!僕はてっきり途中参加なのかと思ってたよ」

「爆速でヘリを飛ばしてきたんだ、赤飯と酒の準備はできているよ」

「な……んで」

「そりゃぁ、殉職率高め、そもそも男子が少ないこのクソったれな世界で可愛い後輩がくっ付くんだ、お祝いするのは当たり前だろう?」


ソレを聞いてしまったコトリは崩れ落ちる。

先ほどの輝きは何だったのかと思うほど、消沈していた…


「ところで酒は何を?」

「いろいろ持ってきたが、黒生や恵比寿とかだね。ワインやチューハイもあるよ」

「おぉ!!わかってるねぇ…さすが私の親友だ!!」

「ふっ、何年の付き合いだと思ってるんだ、君の趣味は理解しているさ」

「おふはいっへしりあひらったんえふね(お二人は知り合いだったんですね)」

「あぁ、僕とカヤは幼馴染なんだよ」

「ほうなんえふか!(そうなんですか!)」

「あんたはいい加減に食べながらしゃべるなぁぁぁ!!!」

「おふぉあないへくらはいおこおりあん(怒らないでくださいよコトリさん)」


参加者が一人増え

なぜか宴会のように食事が並んでしまった。

カヤと魔女はさっそくカンを開けており、乾杯している。


「さぁ~て、張り切っていきましょう!」


パチンと指が鳴らされる。

それと同時にモニターとグラフに変化が起こった。


心拍数が上昇し、感情線グラフが大きく揺れ動く

魔女は片手で目を覆い、何かを覗き込むようなしぐさを取っていた。


「状況はどうかね」

「ん~、凄い精神力だね彼女、まだ襲ってないよ」

「ふむふむ、やはりか。彼女はその精神力で、副作用の苦痛を表情一変えずに二年間過ごしていたからね」


カヤがメモを取りながら解説を挟む、メモの内容はコトリ達からは見えないが、魔女が持ってきた謎の機械が出している数値を記録している様だった。


「まぁ、このまま耐えられて死んでしまってはこちらも大変困るので、このボタンを押す」

「なにそれ?」

「いい質問だアキラ、コレはヘタレでビビりなシロへのプレゼントだよ。彼にも別なモノを持たせてあるが、こっちは単純に体に害がない程度のアルコールだ」

「なるほど、それで判断力を鈍らせるわけか」

「これで何らかの反応は示すはずだよ」

「もうヤダ、もっとカオスですよ…わたし班長のプライバシー守れそうにないです」


カヤがボタンを押す

すると片目を覆っていた魔女が嬉しそうな声を上げ、はしゃぎだした。

と同時にグラフも大きく揺らぎだし、幸福を現す黄色い線が大きく上昇した。


「おぉ!!せ、説明するぜ!」

「たのんだよ」

「君がボタンを押したと同時に、シロがふらついた」

「ふむ、で?」

「ソレを慌てて彼が受け止めて、それを兆しに我慢ができなくなったのか、彼女が彼を床に押し倒したんだよ!!!」

「ゆはあどふあってふんえふ?(床はどうなってるんです?)」

「そこはもうばっちりだ!どこでもできるように床はふっかふかさ!」

「おわってんなその部屋…」

「ほおいさんふひわふい(コトリさん口悪い…)」


段々とツッコミが刺々しくなっているコトリをよそに、二人はさらに盛り上がっていく。


「いまシロが彼をハスハスしてるわ、めっちゃ幸せそうだよ」

「ハスハスって匂い嗅いでるってことですか?」

「うお、いきなりまともにしゃべるね君、もうご飯はいいのかい?」

「えぇ、おかげさまで落ち着きました」

「私は班長が匂いだけでここまで幸せになれることに驚きです」


グラフは停滞することを知らず、ぐんぐんと幸福を現すグラフが上がっている


「ん?快感を現すメーターも上がってますよ?14ぐらいですけど」

「あぁ、それはたぶん彼があのチップを使ってるんだろうね。落ち着いてもらうためにやってるんだろうけど、今の彼女には逆効果だ」

「おおおおおおお!!!!!」


カヤの説明をよそに一人盛り上がる魔女

それはVRヘッドセットを付けて一人はしゃぐ大人のようだった。


「い、いまチューしたぞ!僕だってまだしたことないのに!!」

「え、そうなんですか?てっきり性欲が代償だからヤりまくってるのかと…」


コトリがまたもや毒を吐く


「いやいや、僕全然処女だよ?行為も興味あるけどやりたくはないんだよね」

「じゃあどうやって解消してるんですか?」

「そんなのこうしてデータ取って家で感覚共有して気持ちよくなるんだよ」

「思った三倍気色悪い解決方法ですね…」


さすがのハルもドン引きである


「この前家に行ったときなんかすごかったんだよこの魔女。寝間着姿で廊下に転がって痙攣してたんだ、顔もよだれと涙でひどい顔してたね」

「いや~アレは失敗だった!二人分の感覚を同時に共有すると凄いことになっちゃうんだよね」

「人類の切り札が魔法をそんな使い方してるって知ったら、みんな失望しますよ?」


コトリはもはや魔女に対しての尊敬を失った。

コイツはただの変態である、そんな目で魔女を睨んでいる。


「あ、進展した!脱いだ!!脱いだぞ!!」

「だからいちいち説明しないでください!見ないようにした意味ないですって!」

「体勢はどうなんだい?どっちが上でどっちが攻めなんだ?」

「シロが馬乗りになる感じだね、めっちゃ女の顔してるよ」

「ふむ、私もみたいなそれは」

「だめでーす、コレは私の特権でーす」

「もうやだこの人たち!!!うがぁぁあぁぁぁ」


そんな会話が繰り広げられていた時

ブツンと計測器のメーターがゼロに落ちる

それと同時にカウンターは一気に5になった。


「あ、あれ?」

「状況は?」

「えーと、合体したのは良かったんだけど、奥まで行った瞬間シロちゃんが跳ねて気絶しちゃった」

「なるほど、意識が落ちたから感情グラフが落ちたのか」

「え?なんで気絶したん?僕感覚強化なんかしてないよ?」

「あー、多分それは私のせいだな。以前ベルトでいろいろ…」

「え、あのベルト使わせたの?」

「緊急事態だったんだ、あれ以上放置してたらシロが危ないと思ってね」

「ちなみにどれくらいの期間?」

「……い、一週間ほどだ」

「はぁ…なるほど気絶するわけだ、僕だって4日つけてアレだったんだよ?なんで一週間も…」

「シロの後に君に渡したんだ、調整中なんだよアレは」


酒を口に運びながら、言い訳するように口を細める


「ん~、とりあえず解散!完全に意識飛んでるし、無理だね」

「す、すまない」

「やっと解放されるんですね」

「え~つまんないです!」

「さっさと帰りますよハルさん」


ずるずるとハルを引きずりながら、コトリはさっさと退散してしまった。

その場に残るのは、酒と赤飯をチビチビと食べる二人だけである。


「で、結果はどうなんだい?」

「ん~?何のこと?」

「しらばっくれなくていいさ、彼女の魔法のことだろう?」

「あ、ばれてた?」

「君の悪癖は知っているが、こんな大掛かりな計測器なんて使ってなかっただろう?」

「スパイスだよスパイス!データ取るだけじゃ面白くないじゃん」


ぐびぐびと酒をあおり、頬を少し赤く染めながら魔女は言った

そんな魔女をスルーしたカヤは、真剣な顔で再び問いかける。


「成ったか、成らなかったか。どっちだい?この数値的に魔法は多少発動してそうだけれども」


カヤの表情に、魔女は負けたよと言わんばかりに両手をひらひらと振ると言った。


「なってなかったね、前兆っぽいのは見られたけど。あの魔法も魔法の成り損ない、いわば未完成の魔法さ」

「なるほど、成りかけであってまだ人か、安心したよ…君はどうなんだい?」

「したね、あの子には人として生きて欲しい。せっかくパートナーがいるんだ、二人の命はいくらでも私が守るから、魔女にはなってほしくないね」

「まだ引きずってるのか、彼のこと」

「魔女になっても守れなかった哀れな女の話?僕は…」

「いいさ、言わなくても。私もあのことは悔しいどころの話じゃないさ」

「あのことがあったから、この子たちが気になるってのもあるかもしれないな」


そうやって遠い目をする魔女は、どこか寂し気で、届かない思いがあるような顔だった。


「まぁ、もし次があるのなら、今度は守ってみせるよ」

「その時は私も肉壁でもなんでもなってやろうか」

「それはやめてくれよ、僕は二人も大切な人を失いたくないや」

「それもそうだな、善処しておこう」

「善処なんかーい!」


様々な機器が並ぶその部屋に、二人の笑い声が響くのだった。

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