第24話 下水道の戦い
「うぇ…くっさぁ!」
リンが鼻をつまみながらそう呟いた。
ここは下水道、なぜこんな場所にいるのかと言えば、ベノムのせいである。
覇道隊長に呼ばれたいつもの三人は、下水道に生息されているとされるベノムの処理を指示された。
作戦は、四方向に分かれ、駆除ポイントを転々と移動し、外周から内側にどんどん移動する流れとなっている。
事前にハルのドローンでベノムの生息するポイントは把握されており、一か所に約10体ほどいることが確認されていた。
リンが鼻をつまんだように、下水道はいくら治安がましな日本であってもあまりいい匂いとは言えなく、そこに生息するベノムも当然不潔であった。
「ベノムってよりヘドムだよコレ……、いつもの光沢じゃない謎の光沢がもうキモイ」
金属による光沢ではなく、生物的な……そう、全世界共通の嫌われ者のGと似たようなテカり具合だ。さらに体からは枝やゴミと思われるものが突き出ており、下水の物を体に巻き込んでいるだろうことが容易に想像できた。
そいつらが下水道をカサカサ動くのだ、キモイと誰しもが言うと思う。
リンは意を決してベノム改めヘドムを剣で叩き切り、顔をしかめる。
ベノムから腐ったような鼻を刺す臭いがするのだ。
あまりの臭さにリンは顔をしかめ、ベノムを倒した武器をしきりにふき取った。
「もうこの空間に私の体を置きたくないって本能と理性が訴えてるわ」
「いやそれもう班長の総意じゃんか」
「う~るさぁい班員どもぉ!私はこんな薄暗くてGが出そうな場所は嫌なんじゃぁ!」
「はんちょ虫にがてだもんねー」
「あ、ゴキブリ!」
「うえ!嘘!?!?無理無理無理!!!!」
部下は上司に似るのか、リンが率いる班員は皆ノリが良く活発であった。
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「この角を曲がった先10m目標地点です」
「ん、了解」
鼻を厳重に守った完全装備のシロが武器を構える。
ガスマスク、その下にフィルター、さらに布で覆われた口元
はたから見たら完全にヤバイ奴でしかない防御具合を誇るシロは、狭い通路用の小太刀を構えて前方を睨んでいる。
その後ろを困惑気味に班員がぞろぞろと続き、最低限のマスクをつけた副隊長が最後尾を警戒したいた。
「あの……、いくら臭いって言っても厳重すぎじゃ?」
「あ~、あなた新人だからしらないっけ?」
「えっと……すみません」
「適合率が高いと五感が鋭くなってるからここの匂いも相当キツイのよ、でさらに班長は匂いに敏感だからあんな厳重なわけね」
「そ、そうなんですか…!お強い方もそれなりの弊害があるんですね、私もその域に達せるよう頑張ります」
「まぁ、あとは単純にシロ班長が匂いフェチだからってのもあると思う」
「私シロ班長にあこがれて入ったから、なんか聞きたくなかったその性癖」
「シュコー…シュコー…、合図で殲滅開始する」
「「「りょ、了解」」」
小声でのやり取りと共に、シロが左手を上げた。
壁に背中を近づけて息をひそめ、ベノムが集まると同時に降り下げ合図を送る。
一斉に駆け出したシロ班は、それぞれの武器を巧みに使ってベノムを攻撃した。
下水道は長物が振り回せず、ブースターなどの移動も難しい。
そういった状況下でよく運用されるのが壁を使った高速移動
ブースターではなく、手足の装甲についているバーニアで、姿勢制御を補助しながら重力に逆らって壁を走る。
ワイヤーなどをドローンで張り巡らせ、足場を複雑にしていくこともあり、トリッキーな動きで狭い空間を素早く立体的に使って戦う。
一番先頭を走るシロは班員と比べて手際がよく、一撃で核を破壊しながら一瞬で5体のベノムを仕留めた。
手際が良いと表現したが、班員たちも2、3撃打ち合って的確に核を破壊している。
下水に生息するのは中型未満小型以上の比較的弱い個体が多かったため、そもそもてこずりはしない。
赤いベノムや静岡市での敵が異常なだけなのだ。こういった日々の積み重ねや、見えない仕事が壁の中で生きる人々の平和を守ってきたのだ。
「ん、討伐完了……のこり3ポイント…………うぇ」
「締まらないです我慢してください」
「くぇ……むり、クサい」
何とも締まらない班長であった。
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「うむ、あらかた片づけたな」
「隊長、鼻栓しながら言われてもかっこよくないです」
鼻声でキリっと周囲を見渡す覇道コトネ
彼女もまた適合率高さゆえに匂いにやられている。
「眠気も吹き飛ぶ悪臭だな諸君、そろそろ私は上に殴り込みに行きそうだ」
「たしかにここまで増えるまで放置したハトの会が悪いですけど…」
「敵が育って対処できないのだから私たちが駆除しろと言われたら、私も怒りがわくと言う物だ」
隊長が不満を垂れるのも仕方がない
なぜなら下水道のベノムの処理は本来町を取り仕切るハトの役割
大きくなって一般人の手が及ばなくなる前に、あらかじめ下水に侵入したベノムを処理するのは町の役割であるのだ。
彼女たちベノムマギアが動員されるのは壁の外にいるベノムの対応、もしくは町に侵入してきたベノムの対応なのだ。
「サビ残だぞこれ」
「隊長今すぐ町のハトを訴えましょう」
コトネの一言に班員の心が一瞬で一つになった。
「諸君ら社会人と違って私は学生だぞ?しかも大学受験がある」
「いやいや、社会人とかいうおばさんなんてここには6人しかいないって」
「自虐ネタか?おばさん、私はまだ24でーす」
「二歳年下が調子乗んなよぉ?」
「喧嘩はやめてくれ、一番若い私の肩身が狭い」
「隊長もあと数年で…」
「シワが増え、シミができて……」
「言ってる私が悲しくなってきたわ、20代なのに先が怖いよぉ」
コトネが率いる班は比較的年齢層が高めであり、古参が多い
それでもしっかりとコトネの指示に付き従い、尊敬の念をもって接せられているのは、ひとえに彼女のカリスマ性が成していることだろう。
「20代からシワが増えるのか?肉体の全盛期は20代と聞いたが」
「いや~それがねぇ…」
「若いと思って油断してると……」
「気づいた時にはシワが増えてるもんなんだよねぇ」
「私たちより年上の世代が聞いたら怒られそう(笑)」
「お前たちはまだまだ若いだろ!って?」
「それでこの間姉さんに怒られたわww」
そんな楽し気な会話がワイワイとされている中、その手足は的確にベノムの死骸を処理している。楽しげな雰囲気の中でも気を抜かずテキパキと仕事をこなす様子はまさに、古参の風格そのものであった。
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フワフワと浮かぶドローン
それに腰かける人物こそ、陽月ハルである
彼女の率いる班は比較的新人が多く、若いものが多い
そうなってくると比較的にまとまりずらいとされているが、彼女の明るさと指揮能力がその点を補っていた。
的確でわかりやすい指示、パニックになった時の対応など
それらを多くのドローンを駆使しながらこなしていた。
「今回の作戦はマップ右上の4か所です、ほかの班より3か所少ないですがその分ベノムの数が多いので、孤立せず固まって戦っていきましょう」
班員一人一人に補助ドローンを飛ばし、並行して周囲の警戒や情報分析
今まではここまでの並列処理は行ってこなかったが、訓練もかねてつねに負荷状態を経験していた。
ただ新人達の教育も、ハルがおんぶに抱っこと言うわけではなく、致命的なミスややってはいけないことをした時以外は叱らない。
彼女曰く
『むやみやたらの説教は無意味であり、自ら進んで反省し考えるようにしなければ人は成長しない』
とうい中学一年でたどり着いたとは思えない境地に達しているのだ。
「さっそく付きそうですね、数は小型12、小型大きめが9です。作戦通りに行きますが失敗したら各々の判断でうごいてください」
人は失敗から学ぶ
されどベノムとの戦闘で失敗は許されない、失敗は死に直結し、反省と反復を繰り返す前に死んでしまう。
ただ彼女の場合はその常識は通用しないのだ。
「私のドローンがある限り、思う存分失敗し、反復していいですよ」
ハルの背中はまさに、新人マギアにとってまぶしい太陽のようであった。
また、中にはハル班結成初期からいる者もおり、そういった慣れた者たちが新人をサポートすることで、彼女たち新人は戦い方を学んでいくのだ。
「相変わらず頼もしいわぁハル班長」
「私は初期からいるからわかる!あの子は天才よ」
「黒星さんがいて霞んでるけど、ちゃんと天才なんだよね」
「天才だったらより努力しますって言ってたもん」
「ほぇ~、頼もしすぎるww」
「じゃあ私たちも迷惑かけないようにやりますか」
「適合率弱者は集団戦法よ!」
「よっしゃオラぁ!万年底辺の攻撃をくらえー!」
若木は着々と地盤を固めていく
ハルと言う日差しを浴びながら……
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あとがき
今回は各班のモブちゃんズにしゃべってもらいました
各班の雰囲気や関係を深堀しつつ、次章にむけて感情移入を深めていただけたら幸いです。
これにて第一章完結とします。
第二章でも引き続きベノムマギアをよろしくお願いします。
以上作者からでした!
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