第42話 バニーガール
シロに連れられ、俺はカジノへと入っていった。
まず目に入ってくるのは広いロビー
金や赤の装飾が施されたカーペットや、高級感あふれる大理石などとても豪華である。
受付に到着した俺は、軽く説明を受けてからコインをもらいカジノへと入室した。
カジノではあるが、貨幣の概念がないこの場所では、コインは貯まったら物と交換できるポイントでしかない。
金にはならないが、娯楽としては最高
定番のルーレットやポーカー、ブラックジャックなど様々なゲームがあった。
店内の様子もゴージャスであり、その場にいるだけでテンションが上がってくる。
周囲には様々な人がゲームに打ち込んでおり、勝ち負けや当たりはずれに一喜一憂している。
シロの絡められた腕は、店内に入ってもずっと変わっていない。
ふと隣を見れば、営業スマイルがごとき表情でニコニコしているシロがいた。
大抵は仏顔の彼女からすれば、珍しい貴重な場面である。
「お前営業スマイルできたんだな」
「余裕、逆にできないわけがない」
何処からその自信が出てくるのやらと飽きれる。
さらに上手いことシロが誘導してくれるおかげで、怪しまれることなく奥へと進めている。
「どこまで行けばいいんだ?」
「とりあえず奥まで」
小声で話し合いつつ、進んでいった俺たちはカジノの最奥までたどり着いた。
そこは何の変哲もないルーレットエリアであり、扉もなければ階段や関係以外立ち入り禁止のような場所もない。
よく考えてみればここを運営しているのは、人ではなく化け物だ。
ここで働くウェイターや客引きのバニーガールたちも、雇われに過ぎない。
「どうすんだこれ」
「壁沿いに歩けば見つかる」
シロがムスッとしながら再び歩き出す。
勿論腕が捕まっている俺は、そのままシロに引きずられる形となった。
店内に流れるゆったりとした落ち着きのある音楽
ほんのり薄暗い雰囲気と、ピカピカと光るゲームがとても大人な雰囲気だった。
「なんか悪いことしてるみたいだな」
「悪いことしてるから、問題ない」
「確かに…ってなるか!」
そんなこんなでわちゃわちゃしていると、俺たちはウェイターが出入りしているエリアを発見した。
あそこからつながる場所は、調理場なのだろうか。
兎に角ばれないように入ってみることにした。
「こういう時は、堂々と入るのがいい」
「もっと隠れなくていいのか?」
「こそこそしてたら怪しまれる」
そういってシロはずんずんと中に入っていく
途中何度か人とすれ違うが、全く気にも留められなかった。
中学生二人が堂々と入ってきてる時点で何かおかしいとは思わないんだろうか……
そんな疑問を浮かべていた時だった
「シッ、足音!」
曲がり角に差し掛かった瞬間、何かに気が付いたシロが壁際に身を寄せる。
今まであんなにも堂々と歩いていたのにもかかわらず、いきなりのステルス行動
「ニンゲンじゃない」
なんで足音でわかるんだい君は…
とてつもない感覚をもつシロに驚愕しつつ、俺も彼女にならって壁際に身を寄せた。
コツコツコツと二人組と思わしき足音が周囲に響く
『あぁやってらんねぇ、なんで俺たちが飯の見張りしなきゃなんねぇんだよ』
『仕方ないだろ今日が当番なんだから』
『でもよぉ、こんなとこまで入ってくるかね?』
『それはないとは思うが……』
『じゃあよくね?カメラ眺めてりゃいいだろ』
『巡回も重要だ、肉の品質が落ちてみろ!上に消されるぞ』
『はぁ~ぁ、かったり~』
コツコツと近づく足跡
俺たちは息をひそめながら、物陰に身を潜めていた。
しばらくの静寂が周囲を満たし始めたころ、ようやく動き出す俺たち
「カメラ警戒、迅速に行く」
短い言葉を小声で伝えてきたシロは、身をかがめながら二人組が通って来た道を走り出す。
俺も隊長から訓練と称して鍛えられたおかげか、ギリギリでシロについていくことができた。
ただ物陰から物陰への移動がまだお粗末で、なんどか危ない場面はあった。
しかしそんな危機を乗り越え、無事管理棟の警備室と思わしき場所に到着する。
「ここからは私が行く、ユウはバレるとマズイ」
「わかった、俺は退路を警戒しておく」
「十秒で終わらせる」
そうしてシロは警備室へと入っていく
俺はその扉の前で周囲を警戒し、いつでも逃げられる体勢を整えていた。
5秒も経っていない時だった。
警備室の扉が開き、鍵の束を持ったシロが出てくる。
「いや早いな」
「寝てたから、感情を抜き取って鍵を取ってきた」
そう言いながら手元のビー玉のような球を見せてくるシロ
その玉は様々な色に輝いているが、何よりはっきりしているのは水色だろうか
「しばらくは起きない、起きてもなにもやる気が出ない」
「いつの間にかにそんな芸当ができるようになったんだ……」
「次使えバレそうだから、早く逃げる」
「お、おう」
そうして鍵の奪取に成功した俺たちは、来た道を帰っていった。
かなりあっけなく鍵の入手に成功したわけだが、この鍵が本当にあの男が言っていた物なのかは定かではない。
とりあえず夜もふけって来たため、一度俺にあてがわれた部屋へと戻ることにする。
管理棟による監視があることを知った俺たちは、鍵を見られないように服の中に隠し、シロはお持ち帰りされる子の演技をしつつ俺の部屋に入った。
夕飯は昼間に食べた場所からテイクアウトして、パンとおにぎりを二つずつ。
夕食を済ませた後は、歯磨きと水分補給を済ませた。
そうして最後にシャワーを浴びようと、服に手をかけた時だった。
服の袖が引っ張られたかと思えば、深紅の瞳が俺を覗いていた。
その瞳は何かを訴えかけるようで、分かっているだろう?と言っているようだった。
「バニーガールは脱がないんだな」
食事から今までずっとバニーガールのシロに、俺はそんな言葉をこぼす
「ユウは変態だから、これで悩殺する」
よくわかってんじゃねぇか…
やはりだてに幼馴染をしていない
俺の趣味嗜好、なにで興奮するかも理解されているようだ。
シロは無言でベッドに横わたると、俺を見つめながら一言
「ばっちこい」
ベッドに散る白銀の髪が、薄暗い明かりに照らされて妖艶に輝いている。
器用に俺を誘導し、鍵はベッドの中に滑らせ隠していた。
「もう気絶しないから、最後まで」
「それで気絶したらどうすりゃいいんだ?」
「それも、怪しまれないように、最後まで」
ベッドの上ではクソ雑魚ナメクジなシロが、少しは成長したのだと主張したところで、それほど期待はできない。
「明日は鍵を渡す、襲ってきたら私がそいつを殺す。協力できるのなら、ここを脱出する」
「了解、それで?今夜は何時だ?」
「あなたが満足するまで」
そうして夜が始まった。
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