第43話 シロの装備


べたついた体に多少の不快感を感じつつ、俺は起き上がった。

眠たい瞼をこすりつつ、ふと隣を見る。


そこには毛布にくるまったシロが、一糸まとわぬ姿で眠っていた。

規則正しい寝息をたてながら、むにゃむにゃと寝言をつぶやいている。


そんな姿を眺めていると、昨晩のことが鮮明に頭を駆け巡る。

冷静になれば敵地で何を盛っているのだろうかと、バカな自分を恥じるわけだが、それ以上に良かった。


何と言うか、凄かった。

コレは……あれだ、ガキが経験してはいけないことだ


それぐらいヤバイ


こういう行為に関して、子供がやってはならない理由としていろいろ上げられるが、責任能力の欠如に加え、自制能力も大人と比べてかけているから、よくないのだろう。


それ以外にも倫理的問題なんて山ほどあるが、この世界でそんなことは通用しない。

なんせ人の数自体が少なすぎるのだ。

平和でない世界は数をもとめ、多くの労力を確保しようとするのは生物の摂理である。


今回のは、いろいろ足りていなかったわけだが、シロいわく魔女になってしまった影響で免疫力が増加して、俺の息子たちは誰も到達できないだろうと言われてちょっとショックを受けた記憶がある。


また、魔女ではなくとも、マギアは皆似たようなことが任意でできてしまうのだから、とても強かであると再認識させられた。


こんな生々しい話はこの辺にしておこう。


ちょうどシロが起き上がり、瞼をこすってあくびをしている。


「ふぁ……おはよ」

「おはよう」


くるまっていた毛布がずり落ちて、シロの膝に落ちる。

上半身を起こしたのだから、当たり前の物理現象であるので、とうぜん毛布によって隠れていたものも見えてしまう。


これぞ何かの奇跡なのか、先端だけはギリギリ髪の毛で見えていない。

なにかデジャブを感じるこの光景に、俺の息子が朝から暴れそうだ。



あくまで先端が見えないだけで、シロが身じろぎをするとチラチラと桜色の肌が見え隠れしていた。


見てはいけない光景なのに、ついつい目が行ってしまうのもまた、男の性だった。

それに気が付いたシロは、何とも思っていないのか、俺の下半身を見つめながら一言つぶやいた。


「もう一回する?」


コレが貞操逆転してしまった世界のネックな点だ。

女の子側が体を見られることに対してさほど抵抗を見せず、逆に男側が隠さねばならない状況が当たり前の世界。


シロの性格という面もあるとは思うが、多少胸を見られた程度では動じない。

俺は逆に見られたら高い声だして叫んだ方がいいのだろう。


もしくは毛布で体を隠すとか…


「遠慮しておく、さっさと飯食って私に行こう」

「残念、ユウは性的概念がおかしいから、ワンチャンあると思ったのに」

「ナチュラルに俺をバカにしたな?」

「してない、ユウはチョロいだけ」

「してるじゃねぇか!昨日あれほどにゃんにゃん言ってた分際で!!!」

「ユウだって三往復で限界になってた」

「は、は!?あ、アレはその……しょうがないだろ!!!」


なんて卑猥な会話だろうか

所詮中坊の俺たちの浅い会話、それがなんだかとても懐かしい気がした。


「ふふっ……」

「なんだよ」

「ん、なんでもないよ」


シロもどこか満足そうな顔だ。


そうして身支度を整えた俺たちは、俺は朝ご飯を取りに行き、シロはこの部屋で待機となった。

シロはなにやら別で準備があるらしく、装備の調整に時間が欲しいとのこと


「ん、朝ご飯はパンがいい。柔らかい白パン」

「了解、卵とかはいるか?」

「ユウと同じのでいいよ」


そうして俺は朝ご飯を取りに、食事場へとむかった。


食事場はかなりの人数がいたが、その人数が平気でさばけるほど、この食事場は広いので問題はないだろう。


そんなわけでご飯を頼んで、持ち帰り用のボタンを選択していた時だった。


「ん?そこにいるのはあの時の坊主じゃねぇか!元気にしてたか?」

「グラン、たった一日ぶりだ、そんなはるか昔にあったような反応はちがうだろ」

「バカ言えお前!俺はいつでも全力で交流を深めるんだよ」

「何言ってんだお前……」


なんだかとても元気な二人組がやって来た。

グランとジョンである。


「朝から元気ですね」

「あたりめぇよ!昨日は最高にいい夜だったからな!」


なんと、あっちの事情が絡んでいたららしい。


「そういえば坊主は飯持ち帰りなんだな」

「俺たちはココで食べるんだが、君もどうだ?」

「あぁ、いや僕は遠慮しておきます。待ってるやつがいるんで」

「お、もう女囲ったのか?お前も隅に置けないぜ」

「そういうんじゃないですって」


他愛のない話をしながら、俺はその場を離れた。

彼らのような人々が、あの化け物どもに肉として利用されるなんて絶対にさせたくない。


そんな決意を固め、帰路につく。

自分に配置された部屋に到着すれば、大きなベットに腰かけながら、装備の点検をしているシロを見つけた。


短刀やドローン、補助シールドにスーツ、サブの銃や、ポーチなど、いろいろなものが並んでいる。唯一見当たらないものと言えば、シロのメインウエポンである大きな斧だけだ。さすがに隠し持てなかったのだろう。


そう思い、斧はどうしたのかと聞くと普通に折れたと言われ、俺はあっけにとらわれる。メインの武器がないのに、あそこまで平然とできる彼女に俺は驚愕した。


こうしてシロの装備がベッドに散らばっているわけだが、この部屋は大きめのベッド一つしかなく、左右に居ある扉にも狭い洗面所があるだけだ。本当にでかいベッドしかないので、広いとは全く言えない。

そんな唯一のスペースはシロによって占領さててしまった。


つまり俺は部屋の端で縮こまることしかできない。

そんな中、疑問に思ったことを俺はシロに質問した。


「ソレどんな武器なんだ、てか監視とか大丈夫なのか?」

「今朝カモフラージュした、カメラの位置はあそこ」


そう言って指さされた場所は、部屋の角

しかしそこにはシロの物と思わしきドローンしかない


「何もないぞ?」

「ある、小さいだけ。この部屋全域を監視されている、高性能にもほどがある」

「ドローンは何のために?」

「監視の目を欺くための360°の動画を流している、監視の目自体は甘いからごまかせる」

「ホントか?」

「今日限りなら問題ない」


そう言いながらスーツについているスラスターやブースターをカチャカチャといじるシロは、部屋のベッドを堂々と占領していた。


「パンは?」

「へいへい、こちらですよ女王様」

「まだ女王じゃない、それと後20分で終わるから、先食べるべき」

「了解っと」


そんなわけでシロが作業する間に俺はパクパクと朝食を食べていった。

とは言いつつ、俺の食事時間は十分程度なので、暇になった俺はシロの作業を眺めることにした。


こういった装備の点検や補填は、俺からすれば無縁に等しく、当然訓練内容にも含まれていない。

教わったと言えば装備の脱がせ方だけだ。

そのためこうして、シロが作業をする光景が新鮮に映ったのだ。

シロ自身もここまで自分の手でいじったことはないらしく、装備の点検は本来工房のサポーターが行う仕事なのだとか。


ただ長期戦や、こうした孤立した状況下で装備が使えなくなったなんぞ言い訳にはならない。そんな状況を打破できるように訓練は受けている用だ。


「そういえば、ブースターの動力源ってなんだ?」

「窒素、それと私たちの力。私たちの因子を一定の量で反応させると、小爆発と共に大きな推進力が確保できる」

「へー……じゃあ宇宙空間とかだと使えないのか」

「使えない、その時はその時に考えればいい」

「投げやりだな…」


水中でも多少は動けるらしいが、やはり空中が一番よいのだろう


「最新のは水素や別のものが動力源だから、もっといろんな場所で使える」

「その服よりいいのがあるのか?」

「コレは古いほう、最新鋭のものはもっと高性能」

「じゃあなんでそれ使わないんだよ…」

「へそ出しコスチュームが導入されていないから」



すっぱりと言い切ったシロであるが、今着ているスーツもへそ出しはない


「それもないじゃん」

「来年度に導入される」

「お耳が早いねぇ」


現在シロが着用している装備は、マギア四式

去年あたりまでは二式を使っていたらしいが、ボロボロになりすぎて使えなくなったから変えたはずだ。


今日年に比べれば性能は上がっている。

ただ地上での戦いで、四式もボロボロだ。


腹の部分は丸い穴が開いてしまっている


「その破れたとこはどうすんだよ」

「へそ出しできているから、むしろこのまま」

「お前なんでへそ出しに命かけてんだよ……」


へそ出しファッションに命を賭けるシロに、俺はため息を吐くことしかできなかったのだった。


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