02.** :俺達の戦いはこれからだ

 ドッグラン・ダンジョン、そこは犬面のコボルト達が大量に巣食う洞窟。それはモフモフ・ワンワン・パラダイス。そう思っていた時が俺にもあった。

 ドッグラン・ダンジョン、そこは犬面のコボルト達が大量に巣食う洞窟。キュートなワンコがぞろぞろ出て来たら戦えるのだろうか。そう思っていた時が俺にもあった。


「杞憂だったけどねぇええええっ!」


 グアノの爪がコボルトに炸裂し、コボルトは軽々と吹っ飛んでいった。古の言葉に出てくるお布団のように。

 コボルトは犬頭の人間のようなモンスターで、可愛げというものは何処かに行方不明。そんなお布団コボルトは狂犬病を拗らせたような醜悪な顔をさらに歪め、呪詛のような呻き声を上げ、パンッと肉も骨も残さず消え去った。残ったのは魔石と呼ばれるパワーを秘めた石ころだけ。

 どーいうこと? 何故魔石なんてものがポンッと出てくる? 死体は何処へ行った? 人に訊いたこともあったが、ダンジョンはそういうものです、といったNPCのような一律回答しか来なかったので諦めた。

 そんなことを思った俺を他所に、ユリン嬢が俺の所にやって来て。


「はい、インドール様」

「あ、ああ」


 ジャラジャラとその魔石を俺に渡した。そう、魔石運搬はいつの間にか俺の役目となっていた。それは俺が男だからというのもあるが……

 ユリン嬢はメインが弓兵なので、戦う為の荷物がある。シアは遊撃戦士兼斥候なので身軽にしておかねばならない。ルアとアークは執事見習いとしての荷物もあるので、これ以上持たせるのは忍びない。結果、俺しかいないという話。不満はないさ。

 さて、今はドッグラン・ダンジョンの……


「んっ!」

「?」


 思考に入ろうとした俺に向かって、ユリン嬢は頭をグイッと寄せてきた。もう頭突きでもしてくるんじゃないかってくらいに距離を詰めて、グイッグイッと。

 ああ、頭を撫でて欲しいのか。俺はジェントルマンの心意気を胸に抱き、ユリン嬢の頭を撫でた。

 俺の撫で方はプロの撫ーディストに比べればヘタクソなものだったが、ユリン嬢の顔は何かとても嬉しそうなものに見えた。

 婚約者として正解だったらしい。


「…………」


 俺がユリン嬢とそんなやり取りをしていると、アークがピトッと俺の腰辺りに抱きついてきた。アークは赤いドレスを纏った非常に可愛らしい俺の従者だ。……男だけど。

 そんなアークが俺にひっついて、黙って俺のことを見上げている。何をして欲しいとかは言わない。黙っている。

 どういうことか。俺はちょっと考えて答を導き出した。


「あ、アークも撫でて欲しいのか?」

「!」


 アークは頬を赤く染めた。何だ、このカワイイ生物は? ……男だけど。

 俺はご要望に応じてアークの頭を撫でた。良い働きには報わねばならない。これもまた、主人としての務めだろう。


「…………」


 その様を青い執事服を着たルアが黙って見ていた。じーーーー…………

 ルアは何を求めているのか、何も言わない。何も言わず、俺がルアの方に目を向けるとサッと目を背けもするのだが、俺のこの慧眼にはルアが何を求めているのかなどまるっとごりっとスリッとお見通しだ。


「ルア、ちょっとこっちおいで」

「な、何です?」


 俺がルアをおいでおいですると、ルアはちょっと怪訝そうな顔をしながらも、俺の方へとやって来た。まあ、俺は仮にもご主人ですから。

 そうしてやって来たルアの頭も俺は撫でた。全てを愛したムツ〇ロウさんの魂でもって。


「よーしよしよしよしよし……」

「なななな、何をするんですかぁああああ!」


 ルアは顔を真っ赤にして、バッと俺から距離を取った。距離を取って、髪が乱れると言いながら髪を整え直し始めた。特に乱れているようには見えなかったが。

 アークも俺の腰からぴょんっと離れ、ルアの方によった。そして、少し困ったように微笑みながらルアへ言った。


「ルアは素直じゃないなぁ。損するよ?」

「な、何のことかしら?」


 アークへそう言いながらも、ルアはまだ自分の髪を直し続けた。もう一度言おう。特に乱れてはいない。

 シアはそんな兄弟の様子を見ながらニヤニヤし、そして俺の方へとやって来て言った。


「私の頭も撫でます?」

「撫でないよ?」

「あ、差別ぅ。ぶー」


 シアはそう言って口を尖らせた。ああ、俺のような慧眼の持ち主は分かっている。シアは悪乗りをしてみただけなのだと。と言うか、俺はシアの主人ではない。シアが頭を撫でてほしければ、撫でるのはユリン嬢の役目だ。まあ、そんなシーンはなさそうだが。

 そのユリン嬢はこのグダグダな雰囲気の中でも先を見ていた。そして、凛とした雰囲気になって言った。


「では、先に行きましょうか」

「ああ、そうだな」


 俺達の前には大きな扉があった。そう、此処はドッグラン・ダンジョン最深部。俺達は此処までやって来ていた。

 トレーニングを積みながら俺達はダンジョンへ入れる年になるのを待っていた。その間に冒険者のランクもしっかりと上げた。そんな経験を積み重ねた俺達にとって、コボルトしか出てこない初級冒険者向けのドッグラン・ダンジョンは、正直言ってソッコーで攻略出来るレベルでしかなかった。

 だがそれでも、此処は何年も前から攻略しておきたいと思っていた場所だ。油断しなければ問題はないとは言われても、気合いは入る。全力を尽くしたいくらいの気合いは入る。


「よし、このドッグラン・ダンジョンでの最後の戦いだ。準備はいいか?」

「ええ、大丈夫」

「はい」

「問題ありません」

「はーい♪」

「オッケー、行こう!!」


 俺は皆の声を聞きながら、ボス部屋の扉を思い切り開け放ち、その中へ仲間達と共に足を踏み入れた。これが此処での最後の戦い。そして、これから飛躍する俺達の最初の大きな戦い。

 そう、俺達の戦いはこれからだ!



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終わりです(;''∀'')

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ウンゴーレム無双 橘塞人 @soxt

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