02.17 :ルアとアークをつれて領地まで
「一辺6mの正方形の土地と一辺2mの正方形の土地、合わせた面積は?」
「40㎡」
「正解。では、次の数列はある規則に従って並んでいるわ。1・3・6・11・18・29、次の数字は?」
「42」
「正解。……できるわね」
1問目は6×6+2×2=40
2問目は1を始まりとして、順に素数が加算されていっている。なので、11の次の素数は13なので、答は42。なお、13の次の素数は17なので、42の次は59だ。
と、何故いきなり算数(数学)の時間になっているのかと言うと、貴族学園が夏休みとなってバウルムーブメント伯爵領へ馬車で帰るその道の途上にて、母から「勉強はちゃんとしてますか?」からのテストモードになってしまったからだ。
HAHAHAHA、その程度は勉強していると言うか、前世記憶というチートでどうにかなる。寧ろ、それが通じない地理や歴史の方が怪しい。
母は俺を少しじーーーーっと見ると、軽く1つ溜め息をついてから俺の頭を撫で、そして言った。
「これからも色々と学び続けるのよ? 知識は生きていく上で武器となるのだから」
「ウェエエエエイ♪」
「あ、その言い方はやめなさいね。馬鹿みたいだから」
母はニッコリそう言ったが、そう言ったその瞬間に俺への撫でがアイアンクローに変わった。イテテテテテテテ!
と、そんなやりとりをルアとアークは不思議なものを見るような顔をして見ていた。ルアはボソッと言った。
「こう言うと失礼かと思いますが、意外と勉学も優秀なんですね、インドール様は」
本当に失礼だな!
そう思わなくもなかったが、俺がどうすれば抱腹絶倒なリアクションになるか考えたその一瞬、母が先んじて答えてしまった。また、溜め息をつきながら。
「そうなのよねぇ、この子は意外と勉学も出来てしまうの。さっきの2問目はこの歳でやるような問題ではなかったんだけどね」
ああ、そう言えばそうだよなぁ。素数なんて小学校算数でやるようなものではなかった筈だ。しれっと出しやがって。
とは言え、此処で面白いリアクションは文句を言うことじゃない。面白いのは……
「その通り、俺は優秀なのだ。歌って、踊って、戦って、勉学も出来る……謂わば4刀流よ!」
「歌と踊りは別に上手ではないけどね」
母はサラッとそう言うが、それは心外だ。俺はバウルムーブメント伯爵家のシンガーソングライターであることを証明する為、新曲を披露することにした。
バウル、ムーブメント 遥かなる我が家ー♪
バウル、ムーブメント スタスタと帰ろう♪
「あ、もう少しお腹から声を出すことを意識しなさい。そうすれば、より安定するでしょう。こうね」
母はそう言って、手本を見せてくれた。バウル、ムーブメント 遥かなる我が家ー♪
ふむ、悔しいが俺の歌より良いな。学習しておこう。腹からの声出しだな、ウェエエエエイ!
そんな俺の脳天に、母からのチョップが降りてきたのは言うまでもない。
「って、その歌は何処から出て来たんだって指摘はないんですね」
俺の斜め向かいでルアがボソッと何か言ったようだが、俺が気になったのはそれよりも俺の隣で声を出さないアークだった。相変わらずキュートなメイド服を纏ったアークは、穏やかな表情ではあったが、非常に無口でもあった。
それは良くないね。声は出さないとファミリーになるのは難しい。俺はアークの肩を抱き寄せて言った。
「さぁ、アークも声出してみようか。俺の後に続いて言ってみよう。腹から声出してみよう。ウェエエエエイ!」
「うぇえっ? なんで、ぼくが?」
「一緒になって声を出すことで1つのチーム、ワン・チームになれるからさ」
ライヴのコール&レスポンスやスポーツの応援なんかがそうだ。昔話だと、戦の時の勝鬨なんかもそれにあたるだろう。
さぁ、やってみよう!
「ウェエエエエイ!」
「う、うぇええええいっ!」
「オッケー!」
俺は惜しみない拍手をアークに送った。レスポンスを受けたアーティストのような気分で。そう、俺はシンガーソングライターだ。
では、歌いましょう。
バウル、ムーブメント 遥かなる我が家ー♪
バウル、ムーブメント スタスタと帰ろう♪
現代日本だとパワハラだと言われるかもしれないが、此処は異世界。そのような言葉はないので無問題。俺はアークだけでなくルアも巻き込んで、馬車の中で歌い続けた。実に愉快で楽しい時間だった。
なお、馬車は最大4人乗りだったので、この馬車には俺と母、ルアとアークしか乗っていない。兄は自分の側用人であるアノスと共に別の馬車である。メイド長もそちら。そして、父は王都への行きの時と同様に単独で馬である。
そんな感じで、俺達はバウルムーブメント伯爵領へと帰っていった。カラカラカラカラ……
ただ、数ヶ月前の王都への行きの時とは違って、今回は森の中で魔物に襲われることはなかった。
「それでは、これから選定の儀を執り行います。やり方は分かっておりますかな? 一人一人祭壇近くへ行き、祈りを捧げるのです。さすれば、神様が天から何かしらの能力を授けて下さるでしょう」
バウルムーブメント伯爵領の領都の教会にて、ルアとアークの選定の儀が行われることとなった。今回は2人だけの特別版。そして、それをやってもらえたのは領主パワーによるものだ。クックック、越後屋。お主も悪よのぅ?
ただ、嫌な顔もせずやってくれた越後屋、もとい教会には大いなる感謝、感謝カンゲキ雨嵐だ。そして、重ねて思った。やはりあのような酷い差別意識を持っているのは、あのハゲだけだったのではないかと。王都の孤児院のシスターからはそのような差別意識はないように見えたので、その説は有力であるように思えた。あのハゲ、ネバー・フォーギブだ。
その一方で越後屋、もとい我がバウルムーブメント伯爵家領都の神父は素晴らしい対応をしてくれていた。やっていることが同じというだけなのだが。
「君達が頂く能力はもしかしたら君達自身が望んだものではないかもしれない。だが、それは神の思し召し。悪い気持ちになるのではなく、その能力を良い方向に持っていけるよう最大限に頑張るのじゃ。それが君達のこれからの使命なのだから」
言うことが変わらないのか、神父は過去の原稿をコピペしたかのような、以前俺も聞かされたであろう話をルアとアークにしていた。まあ、ネコミミ・ボーイズにとっては初耳だからいいのか。
こちらからすれば、もう流れさえも分かり切ったものだ。次はいつもの女神像に向かって祈りを捧げるのだろう? で、ルーラー(効果音)って能力を頂く訳だ。
「では、ルアさんから順にどうぞ」
神父のエスコートでルアから祈りを捧げることとなった。兄・俺と続いて3・4回目なので、後はナレ祈だ。
ルアは祈りを捧げた。何か能力を授かった。
アークは祈りを捧げた。何か能力を授かった。以上!
「では、これにて選定の儀を終了致します。お疲れ様でした」
決まり文句を言って締めにかかった、NPCのような神父の挨拶が終わらぬ内にルアとアークはこちらに来て、各々結果報告をしてきた。
「僕は氷魔法Lv.1でした」
「ぼくは炎魔法Lv.1でした」
「マ!?」
俺はルアとアークの顔を交互に見ながら再確認した。顔が近かった俺に少し困った様子を見せながらも、2人は「マです」と頷いた。尚、ルアが氷魔法で、アークが炎魔法だ。
よしよしよしよし! 俺は2人の頭を乱暴に撫でてから拳を天に向かって掲げ、思いのままに叫んだ。
「魔法、キターーーーーーーーー!!」
こうしてファンタジーな異世界に転生したのだから、やはり魔法らしい魔法を使ってみたい。使えないのならば、使っているのを見てみたい。そんな想いが叶った。DREAMS COME TRUE、ドリカムだ!
俺はグアノとバトラーを召喚して、一緒にそのことに対する喜びの舞を踊った。歌って踊れるシンガーソングライターなのでね。そして、愉快なパリピなのでね。愉快な歌と踊りのご披露だ。FUFFU~♪
そんな俺を見て、ルアとアークは苦笑いを浮かべた。
「まあ、インドール様に喜んで頂けたならば良かったです」
「ぼく達、力になれるよう頑張りますねぇ」
苦笑いではあるが、2人は笑顔を浮かべた。それに対し俺は、グッと心の中でサムズアップした。少しでも笑えるようになったならば、それはそれで素晴らしい。そして、その内に腹の底からワハハと笑えるようになれればもっといい。
愉快にワハハ! 楽しくワハハ! ワハハ! ワハハ! た・の・し・い・ねぇ~~~~♪
と、頭の中で子供向けのEレテ番組で流れそうな歌を思い描き始めた間に、ウチの父母は神父へのお礼の挨拶をし始めていた。あの子達の為に急なお願いを有り難うとか、対応してくれて非常に助かったとか、そんな感じ。五月蠅くしてしまい申し訳ないというのもあったが、それは置いておこう。
俺はその挨拶が一区切りするタイミングを待ってから、神父に向かってガバッと頭を下げてお礼を言った。心からの感謝を込めて。
「神父様、今日は本当にありがとうございました」
「「ありがとうございました」」
俺に倣って、ルアとアークもお礼を述べた。その態度に、俺の家族は驚きの表情を見せた。まあ、それだけ典型的な魔法が欲しかったとでも思ったのだろう。
それも間違いではない。だがそれ以上にルアとアーク2人のSmile againにありがとう。その気持ちが強かった。彼等が無くしてしまった大切なものを取り戻す、今日は確実にその最初の一歩に違いないのだから。うん、やはり感謝カンゲキ雨嵐だ。
……嘘じゃないよ?
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