02.16 :ルアとアークの予定

「ルア、インドール様、お客様もいらっしゃい。こんな格好ですみません。ぼくがルアの双子の弟、アークです」

「「「!?」」」


 ルアの弟であるアークの見舞いに来て、改めてアークの姿を見た俺達は驚きを隠せなかった。絶句せざるをえなかった。

 アークの姿はまるで、儚げな美少女のようだった。しかし、あくまでアークはネコミミ・ボーイ、そう、ボーイなのである。

 とは言え、驚いていては話が進まないので、俺はその驚きをひとまず置いておくこにした。具体的に言えばちょっと右側前方30cmくらいの位置に、という閑話休題はどーでもいいとして。

 俺はアークに訊ねた。


「調子はどうだ? 昨日よりは随分マシであるように見えはするが」

「ああ、はい。まだ動くのは少ししんどいですが、それでも昨日よりはずっと良いです。本当にありがとうございます」


 ( ̄ー ̄)bグッ!

 俺は良いぞという意味を込めて拍手した。ユリン嬢とシアもそれにつられて拍手した。パチパチパチパチ……

 そんな俺達を横目で見ながら、アークはルアにジト目を送った。そして、問い掛けた。


「で、ルアはそんなカッコで何をしているの?」

「側用人! 要はこのインドール様の執事みたいなものだね!」

「はぁぁぁぁ……、スラム等で暮らしていた頃は身を守る為にというのがあったのは分かるけれど、今はそれもないでしょ? それなのに、どうしてそういうカッコを?」

「こういうカッコの方が仕事をするぞって気になれていいからだね」


 ドヤ顔で言うルアと、そんなルアを見ながらまた大きな溜め息をついたアーク。何か知らんが、ルアに呆れたらしい。ただ、それもまた何処かに置いて。

 アークは俺の方を向いて、訊ねてきた。


「では、ぼくはどのような仕事をすれば良いのでしょう? ルアのように側用人として働けば良いのですか?」

「ああ、完全無欠な元気になってからだが、基本的にはそうなるな。ただ、これはルアにも訊きたいんだが、どういうことが出来る?」


 俺はルアとアークにそう訊ねたところ、2人は首を傾げた。具体性がなくて、どう答えればいいのか分からないようだ。

 俺は質問に補足した。


「2人は選定の儀でどういう能力を手に入れたんだ?」


 ユリン嬢には近接戦闘の能力がないので後方で、シアにはあるので前方。能力を知れば、どう動かせるかがある程度は分かるのだが……

 ルアもアークもまた俺の質問に首を傾げた。ルアは言った。


「インドール様の仰った選定の儀がどういうものなのか存じ上げないのですが、何らかを選んで頂けるような儀式のようなもの、僕達は受けたことがないです」

「!?」


 マ!?

 声に出しそうになったが、俺は飲み込んだ。ゴックン。

 2人の経歴をよくよく考えてみれば、そうなる可能性が考えられなくもなかった。2人は3年前に家族を失っている。その失った時が選定の儀を受ける歳より前だったのだろう。そして、それ以降は受けるどころではなかったのだろう。それどころか、知らずにいたのだろう。

 じゃあ、元気になってから最初にやってもらうことは確定だ。俺は2人に言った。


「うん、2人にはまず完全無欠パーフェクト元気になってもらったら、まずは選定の儀を受けてもらおう」


 どんな能力が出るかな? 言いながら俺は、ワクワクする気持ちが強くなっているのを感じていた。wktkwktk!

 それから一週間後、アークも元気になった。






「………ル様、…さで……。イン………」


 俺の意識は深い暗闇の中にあった。その暗闇は暖かく心地の良いもので、俺はソファーにもたれるようにまったりしていた。嗚呼、これは人をダメにするソファーやぁ……

 そんな俺を遠くから呼ぶ声が聞こえた。それと共に遠くで光が灯り、その光は少しずつ広がり、暗闇を消し去っていった。

 俺を遠くから呼ぶ声が聞こえた。インドール様、朝ですよ? イエス、モーニング! モーニング・グローリー!


「A・S・A!!」


 俺は瞼をバチコーンッと開いて目を覚ました。右手の動きを確認、OK。左手の動きも確認、OK。両足の動きも確認、OK。エヴリシング・OK、ファンタスティック!

 ベッドの横にメイド服姿の人間がいるようだが、細かいことは気にしない。それより朝だ、朝朝朝! FUFFUー!

 俺は勢いをつけてベッドから飛び起き、それと同時にウンゴーレム召喚を行った。部屋の床に魔法陣が現れ、ぬっとグアノが登場、そしてグアノの肩にはニュー・ウンゴーレムも乗っている。尚、そのニュー・ウンゴーレムの名前はバトラーだ。

 さあ、朝一でやることはもう、決まっている。


「モーモー体操第一! モーモーモモッモッモモ、モーモーモモッモッモモ、さぁそこのアークもご一緒に!」

「ぼ、ぼくは遠慮しておきます」


 おおっと、元気になったと聞きはしたが、モーモー体操第一ハイテンションVer.についていく程のものはまだなかったか。残念だ。

 まずは大きく腕を伸ばし、背伸びのUNDOから、モッモー! と、そんなハイテンションなままに、俺はグアノとバトラーと共にモーモー体操第一ハイテンションVer.を完走した。グアノさんとバトラーさんはもうお帰りです。ミョンミョンミョンミョン……

 グアノとバトラーが帰り、俺の部屋には静寂が戻った。俺が改めてアークの方へ向くと、アークはペコリと会釈をしながら挨拶してきた。


「インドール様、おはようございます」

「ああ、アーク。おはよう」


 俺もアークへ挨拶を返し、そして少し首を傾げた。確かアークはルアの弟でネコミミ・ボーイだった筈。

 俺はアークへ疑問をぶつけた。


「ところで、その格好はどうしたんだ?」

「い、今更ですね!」


 そう、今更ではあるのだが、アークはフリッフリのメイド服を身に纏っていた。ホワイ・ネコミミ・ピーポー?

 何か知らんが、どーでも良さそうな下らない理由が出てきそうな予感がありながらも……いや、予感があるからこそ俺は訊いた。そう、草への確信だ。

 その予感は的中した。アークは言った。


「ダイアリア様が仰ったのです。子供用の使用人服は今、男性用と女性用で1組ずつしかない。ルアが男性用を取ってしまったので、ぼくにはこれしかない。ごめんね、と」

「wwwww」


 草だった。草原を通り越して、ジャングルになるレベルで草だった。

 1組ずつしかないなんてある訳ねーじゃん。元気になるまで1週間のタイムラグがあったんだから、なかったらないで準備くらいは出来るに決まっているじゃん。それは用意出来なかったのではなく、用意しなかったと言う。

 俺は母の考えを読んだ。その方が面白そうだから、だろうと。だが、俺はそれを言葉にはしなかった。理由は勿論、その方が面白いからだ。

 それはそうと、今日はルアとアークが選定の儀を受ける日。どのような能力が授けられようとも、その結果を大切に受け止めよう。

 そう思ったのだが……






「その者達に選定の儀を受けさせることは出来ません。選定の儀は人の子のみが受けることを許されたものであり、畜生の子が受けることは許されませぬ」

「ほぅ…………」


 そう来たか。そう来やがったか。俺達バウルムーブメント家の面々はイラッとした。父も、母も、俺も、ついてきた従者も……皆、イラッとした。イラッとさせられた。

 その俺達の後ろで、ルアとアークは俺達以上に敵愾心の籠もった目をそのハゲ、もとい王都教会の代表者へ向けていた。その様子を見た瞬間、俺の脳内パズルのピースがカチリと嵌った。

 俺はルアとアークの間に入って肩を組み、2人に訊ねた。


「……アイツか? アイツだったか?」


 7歳程度の孤児の兄弟を不当な差別で救いもせず、孤児院へ入ることも許さず、追い詰めた鬼畜生は。

 王都での暮らしを難しいものにさせ、スラムでの暮らしを難しいものにさせ、王都から出ざるをえない選択をさせ、死の間際にまで追い詰めた鬼畜生は。


「「…………はい、あの人です」」


 2人は絞り出したかのような声でそう言い、頷いた。

 俺はそのまま父母に目を向け、伝えた。


「父上、母上、その人のせいらしいです」

「やはり、そうか」

「やはり、そうだったのね」


 そうじゃねぇかって予測は、確定事項となった。ハゲ、貴様は今から正式にバウルムーブメント伯爵家の敵だ。とりま、教会には下水道引かんぞ?

 そんな俺達を、特に俺を見ながらハゲは嫌らしいニヤニヤ面で言った。


「おやおや、そんな人の出来損ないと関わっていると民度が落ちますぞ? 神の怒りに触れますぞ? 良いのですかな?」


 よし、殺そう。キルだ、キル。プチッと葬ろう。ゴー・トゥ・ヘェエエエエル!

 そう思った俺とハゲの間にスッと父が入り込み、訊いた。


「それは我が国の教会の総意と受取って良いのですかな?」

「ええ、儂は陛下に信用されておりますからな」


 ハゲはそう言って、ワハハと笑った。1人だけで。

 ホントかぁ? このクソハゲを信用しているのが本当だとしらならば、その人を見る目は節穴を通り越してただの穴だし、このクソハゲに同調しているのだとしたら人間性がクソ過ぎる。とても信じられるものではなかったが。

 父は少しニヤリと笑みを見せ、俺達の方へ振り返った。


「では、私達は失礼します。インドール、ルアにアーク、ひとまず我が家に帰るぞ」

「了解です」


 なーるほどねぇ、言質は取った! ということなのだろう。これでざまぁへの種蒔きは完了した訳だ。

 いずれ、見ておけよ?

 そう思いながら俺達はタウンハウスへと戻った。そして、その日のディナーの時に父は言った。


「あの頭のおかしい司祭はとりあえず置いておいて、まずはルアとアークの選定の儀なのだが、我がバウルムーブメント伯爵領の領都で行ってしまおうと思う。そろそろクリスターも夏休みに入るので、その時に戻ろう」

「!」


 分かりました。畏まりました。

 他の人がそんなリアクションをする中で、俺は驚きを隠せずにいた。そんな俺を兄はじーーーーっと見て、そして訊いてきた。


「インド、何をそんなに驚いた顔をしているの? ひょっとして、僕が貴族学園に通う為に王都に来ていて、もう3ヶ月半通っているってことを忘れてない?」

「ソ、ソンナコトナイデスヨ?」


 そう言えば最近、昼間にタウンハウスで姿を見掛けないことが多いなぁ……って、思いはしていた。ちょろっとだけ。

 ああ、今日教会へ行った際に兄がいなかったのは学園に行っていたからだったんだねぇ、てへぺろ。


「あ、や、し、い、なぁ?」

「インちゃんが雑なのは今に始まったことじゃないでしょ? さぁ、夏休みの帰郷に向けて準備を進めるわよ」

「はいっ!!」


 母がそう言って話を締めにかかり、使用人達が良い返事をして、話を終わりにされた。

 何かさらっと俺が雑でいい加減であるかのようにされてしまった。風評被害だ!

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