ウンゴーレム無双
橘塞人
Chapter.0 フロム・前世・トゥ・5歳
00.00 :ネタバレしちゃうけど、ウ〇コ撒き散らしながら死ぬ前世の最期
マンホールの蓋を開け、車から引っ張ってきたホースをその穴の中へ入れる。溶けていない紙を吸って詰まらせないように、ここでは端の方を意識して入れるのがコツだ。そして、汲み取り。ズゴゴゴゴゴゴゴゴ……
汲み取りが終わったら綺麗にし、メーターを確認して伝票を作り、お客様へ伝票を渡したら撤収だ。後はし尿処理場へ行って、中身を片付ければOK。
「いつもいつもありがとうねぇ」
「いえいえ、毎度ご利用ありがとうございます」
「…………」
俺と後輩の二人はお客様に挨拶と会釈をして引き上げた。ただ、お客様と会ってから引き上げるまで、その後輩は終ぞ口を開くことはなかった。いたの? って感じ。
俺より若いのに動きの機敏さはないし、やる気の無さは目に見えていた。だが、残念ながらやる気がない人はその後輩に限ったことではない。仕方なしにやって来て、やる気の無さを遺憾なく発揮して、すぐ去っていく。そんな人を俺はたくさん見てきた。見せられてきた。
俺、下水流守(シモズル マモル)はこの仕事に誇りを持っているというのに、周囲にいるのはそんな奴ばかり。正直、俺は最近じわりじわりと絶望してきていた。嗚呼、口に出して言ってしまいたい。FとUとCとKだと。
「御手洗君はこの仕事、不本意か?」
「え?」
処理場への帰り道でその後輩、御手洗清(ミタライ キヨシ)にそんな話をしてしまったのは、そんなフラストレーションが溜まっていたからなのだろう。
御手洗君はそんな俺を少し驚いた目で見て、その直後一瞬だけフッと笑い、それからとてつもなく不満であるという顔を見せた。そして、吐露した。
「ああ、不満です。不満ですよ? こんな仕事、やりたくもない。僕がニートだからと言って、ウチの親が無理矢理この仕事へ放り込んだんですよ? 絶対採用されないと思ったのに、今でも悪い夢を見ているようですよ」
「まあ、慢性的な人手不足なのに間違いはないからな」
臭い、汚い、きつい。悪のKが青丹のように三つ揃っているこの仕事は、役所からの委託であるにも関わらず忌避されることが多い。それ故か、入ってくる新人も明らかに訳ありな連中が多い。御手洗君のような若いとは言ってもニートだった人は良い方で、俺の父親と同年代くらいの新人が来たりもする。そして、そんな連中は去るのも早い。御手洗君もそうなるのだろう。
それは非常に残念だ。ただ、それでも。
「御手洗君、君のご両親は君の将来を心配した上で、この仕事に入れたのだろう」
「最近僕の両親、僕のこと避けますけどね。臭いって」
「あーーーーーーーー」
御手洗君のその話に対し、何と言えば正解なのか俺は分からなかった。我々は仕事の後シャワーを浴びることは出来るが、どうしても残り香は出てしまう。それが職業病と言ってしまえばそれまでで、それ故に忌避されているのも事実で。
御手洗君は再び言う。
「だからこそ、僕はこんな仕事やりたくない。出来れば今すぐ辞めたい。で、先輩もそれは同じでしょ?」
「いや、俺は」
「僕、見たんですよ。先輩、下水道についての勉強してるじゃないですか。それって、転職を考えてのことですよね?」
「…………」
見られていたか。まあ、確かに暇を見付けては下水道関連の本に目を通していたし、隠すつもりもなかったのだが。
俺は一つ息を吐いてから御手洗君に話す。
「さっき、最後に行ったお客様のとこ、覚えているか?」
「ああ、あの背の低いお婆さんのとこですかね? それがどうかしました?」
「あの近辺な、下水道設置の話が進んでいる」
下水道が整えば、バキュームカーによる汲み取りは不要になる。そして、下水道の整備が広がることはあっても、狭まることは絶対にない。だから、この仕事はゼロにはならなくてもずっと右肩下がりを続けていて、上がることはない。
そんなことを、御手洗君はザックリ言ってしまう。
「ああ、オワコンっすね」
そこまで言う程じゃないだろ。もうちょっとマトモな、もとい素敵な言い方があるだろう?
そう言いたかった俺はその瞬間、目の前に光のような、炎のような何かを見た。あれは何だ? 道路をバキュームカーで走っていただけだというのに、唐突に何なのだ?
光? 光は良いものだろう。そうは言っても、あの光は何となく嫌な感じがするなぁ。避けた方が良いかもしれない。ただ、どう避ければいいのやら。どうにもこうにも避けようがないよなぁ?
なんてことを考えられる程、その瞬間はまるでスローモーションのようだったのだが、そこで何かをすることも出来ないまま。何も知りえぬまま。
……俺の意識はそこで潰えた。
そうして俺と御手洗君は死んだ。バキュームカーで運転中、突然落ちてきた隕石にぶつかって、糞尿を爆散させながら死んだのだと知らぬまま。
嗚呼、知らないままで良かったのに。
そんな前世を思い出した俺は異世界で、インドール・S・バウルムーブメントという名前の伯爵家次男に転生していた。
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