02.14 :続・俺ん家、来ないか?

「マ!?」


 ネコミミ・ボーイ、ルアに案内してもらった彼とその弟の家は俺の想像した最低を軽くぴょい〜んっと飛び越えていた。

 王都外れのスラムのさらに酷い所かもと思ったら、そもそも王都内にすら家はなく、王都と出会った森の間に広がる草原の、人目につきづらい場所だった。家もまた、旧石器時代の棲み家のような……ボロいボロくない以前に、家と言っていいのかさえも怪しい代物だった。

 嗚呼、心の奥底から訊きたい。マ・ジ・で?


「済みません、こんなボロボロの家で」


 ルアは恥ずかしそうにしたが、ルアが恥ずかしがることはないと思った。寧ろ、恥ずべきなのはルアのような子供にこんな暮らしをさせる為政者、王侯貴族や俺達のようなその子供達だと。俺達なのだと。

 俺達は気にするなと首を横に振り、家の中を案内してもらった。家の中も想像以上に酷く、簡易的なベッドが2つある他は、食事用の粗末な器が2人分あるだけだった。他には何もない。そんな家だった。


「あ、ル、ルア。おかえり。ご、ごめんね、こ、こんなぼくで」


 弟らしきネコミミ・ボーイはルアの帰りを感じ取ると、ベッドから頑張って上半身を起こし、謝った。その様からは衰弱は見られるものの、具体的な病気や怪我までは分からなかった。

 ルアはその弟にスッと寄り添うと、俺達のことを紹介した。


「アーク、今日はお客様が来ているの。貴方も自己紹介しなさい」

「あ、ああ……ああっ! こ、これは失礼しました。ぼくはこの、ルアの弟で、アークと言います。こんな、状態で、すみません」


 ペコリ。アークは俺達に頭を下げた。彼もまた、礼儀正しいらしい。

 そんなアークに、シアが無言でスッとよった。それからまじまじと様子を見、少し考えてから2人に訊いた。


「つかぬこと訊きますが、前に食事っていつ頃しました?」

「「……………………」」


 ルアとアークは2人顔を見合わせ、考え込んでしまった。か、考えることなのか? 俺達の前の食事は今日のランチなので、おおよそ3時間くらい前。普通ならば即答で答えられるものだ。そう、普通ならば。

 そんな俺達に対し、ルアは考えた末に答えた。最悪な答を。


「3日くらい前に、森で採った木の実を少しずつ食べました。それ以降は水くらいですかね?」

「「「…………」」」


 俺達は絶句した。絶句せざるをえなかった。

 その上で、彼等の状況を把握した。病気の有無は不明だが、ひとまず栄養失調であることには間違いがないと。ルアもまた、栄養失調であると。

 シアは眉を顰めながらルアとアークを見、そして独り言のように言った。


「急に固形物を食べさせるのは良くなさそうですね。まずはスープのような消化に良い物から食事させていくのが大切かと。とは言え、そのスープを作れるような材料の持ち合わせがありません。しかし一旦王都へ行って、市場で野菜類を買って、此処へ戻ってきて……といった時間はあまりかけたくありません。では、どうすれば……」

「このまま俺の家へ来ればいい」


 俺はシアの方を振り返り、迷わずに言った。

 元気になったら俺の所で働いてもらうんだ。このままバウルムーブメント家に連れて行ってしまえばいい。

 俺はそう考えて言ったのだが、シアが首を横に振った。


「ルアさんはともかく、この状態でアーク君は動けません。王都まで歩かせられません。かと言って、私達3人には彼をおぶって王都へ行ける程の力はありません。ある程度元気になってもらい歩いてもらうか、一旦王都に戻って助力を求めるしかないのです」

「その必要はない」


 俺はシアに即答でそう断言した。俺達3人にはアークを運ぶ力はない。それはそうだろう。だが、1つ忘れていないか?

 俺はグアノを召喚した。そして、両手の爪武器を取って運搬モードのウンゴーレムにした。

 グアノは軽々とアークをお姫様だっこした。


「何の問題もない」






「え、此処ですか?」


 俺達はバウルムーブメント家のタウンハウスの門へ到着した。すると、ルアがタウンハウスを見てビビった。完全に腰が引けていた。

 そんなチキン・ネコミミ・ボーイに残念なお知らせだ。此処はあくまでも王都にあるタウンハウスでしかない。バウルムーブメント伯爵領にある本邸は此処よりもっと大きいし、俺が婿に行く予定のゴフジョー辺境伯家の本邸はさらに大きい。うん、頑張って慣れてくれ。

 アークはグアノにお姫様抱っこされたまま、そんなルアを見て笑っていた。度胸はこちらの方がありそうだ。

 そんな俺達の姿を見付け、門番が話し掛けてきた。


「おや、インドールおぼっちゃま。お返りなさいませ。そちらの方々は?」

「栄養失調で体調悪そうだったのでね、拾った」


 俺は門番にしれっと答えた。ネコミミ・ボーイズの家を出てから此処までは大したことがなかったので、ナレーション形式で記しておこう。

 アークをグアノにお姫様抱っこさせ、ミアには歩いてもらい、俺達は王都に戻った。2人には防寒と面倒を避ける意味を込め、ネコミミと尻尾を隠しつつ上着を着せた。

 王都の西門は、堂々と進んだらあっさり入門許可が出た。存外にちょろかった。

 王都に入ったら俺とグアノ、そしてネコミミ・ボーイズはユリン嬢&シアと別れた。ユリン嬢&シアには依頼の薬草を冒険者ギルドへ納品に行ってもらい、俺は彼等を連れていち早くバウルムーブメント家のタウンハウスに帰宅とした。彼等の保護をいち早く行う為に。

 そうして俺達はバウルムーブメント家のタウンハウスに帰宅した。それが今、以上!


「そういう訳なのね?」

「そういう訳なのです」


 帰宅した俺はソッコーで母に捕まり、ああだこうだと話を聞かれる羽目となった。その場では父と兄もいたが、とりあえず不快そうな顔はしていなかった。

 ネコミミ・ボーイズは2人共、バウルムーブメント家精鋭のメイド隊によって綺麗に洗われ、消化の良い野菜スープを与えられた。

 俺達は通常の夕食だ。そして、その2人の話となったのだ。


「変わった子を連れて来るだろう予感はしていたけれど、何か想像の斜め上を行かれた感じだったよ。猫人族の子供達なんて何処で会ったの?」

「森で薬草を探していたのです。そしたら何か飛んで来たのです」

「またまたぁ、嘘ばっかり」


 兄は俺がネコミミ・ボーイズに何処で会ったのか訊いてきて、俺はちゃんと正直に答えたというのに、それを信じなかった。荒唐無稽だとでも言いたいのだろう。

 そんな彼は知らない。俺は前世では隕石らしきものの直撃に遭い、バキュームカーの糞尿をぶちまけながら死ぬというミラクル・エンドだったのだ。荒唐無稽の1つや2つくらい、軽くやって来るわ。

 どーでもいいけれど。


「少々話を聞いただけなのだが、酷い暮らしを強いられていた割りに、物腰がとても柔らかい、礼儀正しい子達だな。その事情は訊いたのか?」

「いいえ。体力を大きく落としていたので、今すぐ必要なこと以外は喋らず、体力の低下を防いでおこうと思いまして」


 まあ、その辺りはどーでもいいしね。

 父の質問に対し、俺はそう答えた。父は軽く溜め息をついてから、そうかと言って頷いた。そして、言った。


「まあ、こちらでもたまには見ておくことにするよ」

「ありがとうございます?」


 何をしてくれるのかは分からないけれど。俺はとりあえず、親に礼を言った。悪くは扱わないでくれるってことに間違いはないだろうからだ。

 ただ、母は念押しで言ってきた。


「とは言え、貴方が連れて来た子供達ですからね。貴方がちゃんと面倒を見るのよ?」

「はい」


 それは当たり前田のケンタですな。拾ってきたペットの面倒はちゃんと見なさいよ的な母の言葉に、俺は即座に頷いた。

 夕食が終わると、その話もまた終わりとなって散会になった。俺は自室に戻る途中、ネコミミ・ボーイズの様子を見に行ったが、2人共疲れていたのだろう。見事に爆睡していた。

 俺は彼等を起こさずそのまま寝かしておいて、自室に戻った。その俺にその日の最後、とても嬉しいニュースが入った。



 能力:ウンゴーレム、Lv.アップ

 効能:2体目の作成と操作が可能



 1体目のグアノはクマ、ピンク色の暴れん坊をモチーフとした形にしている。もっと言ってしまえば、ユリン嬢の好みに寄せている。じゃあ、次は俺だな。

 俺のマイブームは、まだ牛である。にっしっしーならぬ、うっしっしーである。で、戦う牛と言ったならば、ミノタウロスだろう。じゃあ、そんな感じで2体目を創っていくとしよう。

 そんなことを、まだ材料もないのに俺は考えたりしていた。想像と期待は大きく膨らんでいた。それ故、その日の晩は中々眠れなかったのはご愛敬だ。

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