02.11 :子供達と大人達、そして薬草

 昔々ある国の王都に、スンテレラというお嬢さんがおりました。スンテレラはまだ小さい子供なのに父母は既に亡く、父の後妻である義母とその連れ子2人を合わせた4人で、小さな家で暮らしておりました。

 スンテレラは大人しく真面目な子でしたが、義母と義姉にはどうにもこうにも合いませんでした。悪い人ではないのですが、皆パリピだったのです。


「スンテレラ、元気してるぅ? お姉ちゃんと一緒にギャルピして、声出してみようか。ウェエエエエイ♪」

「ウ、ウエイ?」


 この人は突然私の肩を組んで、何を言っているのだろう? そして、何がそんなに楽しそうなのだろう?

 スンテレラは義姉に対してそんな疑問を持ちましたが、特に回答は出て来そうにありませんでした。そんな感じで頭がグルグルしたスンテレラに、義母も言い出しました。何故か目元でピースサインをしながら。


「スンテレラ、義母であるこの私が人生とはどういうものなのかを教えましょう。心して聞くのです。そう、人生とはパーティーであると! 生きとし生ける者全て、パリピであると! さあ、スンテレラ。幸福になる為の第一歩として、まずはこの古典の舞を身に付けるのです。そう、パラパラを! レッツ・カモン・ミュージック!」


 Let'sの使い方おかしくないかとスンテレラは思いましたが、その疑問は電子音のノイズで塗り潰されました。

 モモモモモーモモー♪ モモモモモーモモー♪ モモモモモーモモー♪ モモモモモーモモー♪

 ※前奏






「って、その話は止めてもらっていいですか?」

「ええ、何でぇ?」


 俺の話を、シアが唐突に止めた。スンテレラのパラパラへの目覚めと、そのパリピとしての成長、そして王城で行われるレイヴへの道程を描いた感動巨編であった筈ですのに。

 ほら、子供達も俺の話の続きを待っているじゃないか。それなのに、シアは首を横に振った。シアの隣にいたシスターもまた、首を横に振った。


「あの、私には内容がよく分からない所も多々あったんですが、頭悪い内容だということだけは分かってしまいましたので」

「インドール様、子供への悪影響があるお話はしてはいけないんだよ?」


 俺の近くにいたユリン嬢もまた、俺にそのようなことを言った。君もそう言いますか。

 ただ、ユリン嬢はそこからさらに蛇足も付けた。


「って、シアが昨日お母様に言われてた」

「おおおお、お嬢様!?」


 見事に暴露されたシアは慌てた様子を見せた。草である。もう、ジャングル・シアと言ってもいい。どうせまた、いつぞやの悪役令嬢的な話でも懲りずにユリン嬢へ披露したのだろう。

 と、今更ながら俺達が今何をしているのかと言うと、慰問である。王都にある孤児院への慰問である。貴族としてもよくやることではある。

 その中で子供達への対応の一つとして何かお話を聞かせてあげようとなり、すわ俺が披露して進ぜようと出て、パリピ版シンデレラである『スンテレラ』を披露し始めたところだった。……シア・ストップを食らったが。


「申し訳ないのですが、子供達の学びになるお話を頂きたく存じます」


 学びになるじゃないか。世界の真実を教えたではないか。人類皆、パリピであると。ヒューヒュー!

 子供達もまだ、俺の話の続きを待っているようだZE。そのように見えたのだったが。


「では、私からお話をしましょう」


 シスターがそう言うと、子供達の目はすぐシスターの方へと向いてしまった。もう、俺の話のことなど誰も覚えてなさそうだ。瞬殺だった。……解せぬ。

 シスターの話は俺も聞いた。その話はこの世界についてのもので、世界には色々な人がいる。人だけでなく、亜人や獣人や魔族といった別種もいるが、種族による差はあっても優劣はない。皆、神様の子供であるといった、内容としてはつまらないものだった。

 ただその中で一つ、興味深いものがあった。そう、亜人や獣人や魔族といった別種がいることである。

 今までそういうものに会ったことはない。前世でも漫画やアニメでしか見たことがない。そんなのが現実にいるならば、この目で見てみたいものだ。


「うん、冒険したいね〜♪」


 未だ見ぬ景色、未だ見ぬ種族、せっかくこんな新しい世界に生まれ変わったのだから、前世の世界では見れなかったものをたくさん見たい。俺は改めてそう思った。

 そんな俺の隣りで、ユリン嬢はぽそりと言った。首を傾げながら。


「もう、あたし達は冒険者だよ?」


 ああ、そうだけどそうじゃないんだよなぁ。上手く言葉には出来そうにないが。

 ただ、そうやって俺に目を向けるユリン嬢がバチクソ可愛いのは間違いなかった。そして、そんな色々なものを見ている俺の隣りに彼女がいるのもまた、間違いないだろう。






 孤児院の慰問を終えた俺達は、そのまま冒険者ギルドを訪れた。依頼でも見ておこうという考えだ。

 孤児院でも側用人候補はいないか一応見てみてはいたのだが、正直言うとピンとは来なかった。子供達が皆小さかったからか、自分と合うのかどうかさえも分かりそうになかった。あと、小さい内に孤児院から離して働けというのが可哀想というのもあった。

 しゃーない。気分を変えて依頼を見ていくとしよう。


「これなんてどうかな?」


 貼り出されていた依頼の一覧を見ていたユリン嬢が、いち早くその中の1つを指差した。その依頼は、王都すぐ外にある森での薬草採取であった。

 ファンタジーもので、大体序盤辺りで受けるであろう、定番の依頼だ。いいね。


「俺はいいと思うが、シアはどう思う?」

「いいんじゃないですかね」


 シアはサラッと肯定した。無問題であると。

 俺達は頷き合って、その依頼を受ける旨を受付嬢へ申し込んだ。その時に受付嬢から聞いたのだが、薬草は常に必要とされているようで、薬草採取の依頼もまた常時貼り出されているものだったそうだ。その為か、依頼受諾は引っ越しの手伝いの時よりも早く終わったくらいだった。

 その時受けた注意事項は3つ。森の奥へ行き過ぎるなど、危険は冒さないこと。薬草を採り過ぎないこと。採る際は根を残しておくこと。まあ、どれも納得出来ることで、俺達はその注意事項に頷いた。


「じゃ、とりあえず行ってみようか」


 冒険者ギルドの建物を出て、俺は空を見上げながらそう言った。空は青空が広がっていて、まだ陽が沈むまで時間はたっぷりありそうだ。

 今日中に終えられるかどうかは分からないが、とりあえずやってみるといい。常時依頼なので特に〆切等もないので、気楽にやれるのがいい。


「行ってみよう。やってみよう」

「そ、そうですね」


 薬草は王都の西門から出て、徒歩で1時間程度の距離にある森の中に群生している。そして、特別少なくなっているといった、ネガティヴなニュースも特にないらしい。

 そんなGoodな情報を冒険者ギルド内で掴んでおいた俺達は、てくてくと西門へと向かった。愉快に歌いながら。


「西ヘ行こうよ、にっしっしー♪ 東じゃないよ、にっしっしー♪」

「西ヘ行こうよ、にっしっしー♪ 東じゃないよ、にっしっしー♪」


 シアを挟んで俺とユリン嬢の歌声が響いたが、王都は人がいっぱいいて、西門へ行く道もまた人がいっぱいいて、俺達の歌声をちゃんと耳にした人は殆どいなそうだった。

 それでもシアは、俺達に挟まれたセンター・ポジションで恥ずかしそうにしていた。歌声も出さぬままに。歌えよ。


「周りの迷惑になるので、歌は止めてもらっていいですか?」


 冒険者ギルドの建物から西門までは意外と近かったようで、シアがそう言葉にした頃にはもう、俺達は西門へ到着していた。西門には門番がいて、出入りする者達をチェックしていた。……初めて王都に入った時もそうだった。そんなチェックがあった。答たのは勿論、俺ではなかったけれども。

 出門側の列に並ぶと、俺達の番はすぐにやって来た。番になると、門番がテンプレ通り俺達に訊いてきた。


「出門の目的は何だい?」

「冒険者の、依頼なのです!」


 ユリン嬢が代表して、冒険者ライセンスを見せながら門番へそう答えた。何か得意気な、めっちゃドヤ顔をして。

 門番はそんなユリン嬢を見て、微笑ましいものを見る目をして笑った。まあ、確かにドヤ顔のユリン嬢は微笑ましい。と言うか、別にドヤ顔するとこじゃないしね。

 門番は笑顔のまま、俺達に言った。


「じゃあ、オッケーだ。ただ、夕方には閉門になってしまうから、安全の為にもそれまでに戻って来るように」

「「は〜い」」

「危なくないように気を付けてなー」

「「は〜い」」


 俺とユリン嬢は声を合わせて返事をした。良い子ですのでね。ええ、良い子なのでね(大切なことは2度言うスタイル)。

 そうして、俺達3人は王都から外の街道へと足を踏み出した。固く踏み固められた広い土の道路の周囲には緑の草原が広がっていて、所々に低木がポツポツと立っていた。鳥の鳴き声もまた、何処からか聞こえた。

 実に広く清々しく、そして綺麗な光景だった。ビューティフル・ネイチャーだった。


「うぅん、良い景色だ。良い景色だねぇええええ」


 俺はこの感動をユリン嬢やシアと共有しようと思っていたのだが、2人はノーリアクションだった。

 ユリン嬢は俺の感動に見向きもせず、視界の先にあった森を指差した。


「薬草があるのは、あの森みたいね。じゃ、行こうか」

「そうですね」


 シアもまた、俺の感動には見向きもしなかった。2人共、ただ先の目的地だけを見ていた。Why?

 と、これは後になって知ったことだが、2人が普段いるゴフジョー辺境伯領は此処とは段違いの大自然らしい。めっちゃ大自然らしい。それ故、この程度の草原如きに感動するものではなかったそうだ。

 その時の俺はただ、拍子抜けでガッカリしただけだったのだけど。

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