02.19 :夏の終わりにやり残したざまぁタイム

 残りの夏休みについてはナレーションでお送りしよう。

 父や兄と剣術や体術のトレーニングをした。ルアとアークもそのトレーニングに参加させ、強さの成長を図った。

 バトラーを中心にウンゴーレムも大きくし、強くしていった。ルアとアークの魔法の成長具合も見守った。

 母からの勉強会があった。ルアとアークを巻き添えにし……もとい、一緒に勉強して知識の増強も図った。

 下水処理施設も含めて領都の今の様子を再確認し、改善もしていった。先に挙げた公園についても話を進めておいた。

 俺と同じく、夏の間にゴフジョー辺境伯領に帰っていたユリン嬢と文通も行っていた。

 要は充実したサマー・バケーションを無事送ることが出来ていた。以上、ハッピーエンド!


「キング・キャッスル!」


 夏休み終了後、俺達はまた一家で王都へとやって来ていた。そして、そんな俺は今、何故か両親と共に王城へやって来ていた。イエス、キング・キャッスル。

 そんな羽目になったのは、王都での下水処理施設が存外早く一通りの完成を見せてしまったからだ。俺がいない間もどんどんどんどん進み、現代日本では考えられないくらいの早さで完成させやがった。昔の城なんかも凄まじく早く造られたようなので、それと同じ感じか? 知らんけど。


「下水処理施設が一通り完成したそうだな。ご苦労であった」

「はっ、もったいなきお言葉、ありがとうございます!」


 父が代表してそう言って頭を下げ、俺と母もまたそれに倣って頭を下げた。国王はその様子を見ながら、嬉しそうに笑っていた。

 その様子を見るに、下水処理施設は上手くいっているようだ。俺が関与した割合は少ないが、上手くいっているならばそれでいい。寧ろ、俺が関与する割合はゼロでもいいくらいだ。前世とは違って、この異世界ではウンゴーレムを含めた魔法や冒険など、もっと他にやりたいことはたくさんある。折角貰えた2度目の人生、色々なことに挑戦して楽しまなければ損だ。

 そう思った俺に、国王は言った。


「下水処理施設で働く人材の育成も含めインドール、お前の功績はお前自身が思っているよりも大きい。それに対し、褒美を取らせようと思うのだが、さて……何が良いものか。何かあるか? 申してみよ」

「ほ、褒美ですか?」


 父はその背中でどう答えるべきなのか困った様子を見せ、そうしながらも少し考えはしたのだが、結局俺の方を振り向き、回答を促してきやがった。って、そこは家長が回答じゃないんかーい!

 そう思いながらも、俺は良い機会かもしれないと思って1つ突っ込んでみることにした。


「では、1つ伺いたいことがあるんですけど、良いですか?」

「うむ、良いぞ。訊くくらいはな。ただ、答えるかどうかはその質問内容次第だが。それで良いか?」

「はい」


 じゃあ、訊くが良い。

 国王がそう言ってきたので、俺は遠慮なく訊いてみることにした。あの許し難いことを。


「この、此処の国では、人族のみを優遇する法、もしくはそれに類するものがあるのでしょうか?」

「ないぞ。少なくとも余は定めておらん。人族であろうと、何族であろうと、この余の国に住む民は余の民である。例外はない。だが、そうではないと、何故にそう思うたのだ?」

「この子が最近獣人族の子供を2人拾ってきたのですけど、王都の孤児院に入れてもらえなかったりと、かなり酷い目に遭ってきたようなのです」


 父が話に割り込み、国王へそう申し出た。そして、ルアとアークがされてきたと言っていた酷い話を国王へ聞かせた。そのハマシヲ聞いていく内に国王の顔は段々と不機嫌なものに変わっていった。キレそうなものに変わっていったのだが。

 国王は1つ深呼吸をして、自身を落ち着けてからこちらへ確認してきた。


「お前達が嘘をついているとは思わぬが、何処かしらで誤解が生じていた可能性もゼロではない。裏付けるものはないか?」

「選定の儀を受けていなかったようなので、王都の教会にそのお願いをしに参ったのですが、その際に代表の方に言われました。選定の儀は人の子のみが受けることを許されたものであり、畜生の子が受けるのは許されないと」

「獣人は人の出来損ないで、関わると民度が低下して神の怒りに触れるのだと。それが教会の総意だと言ってましたね」

「「そして、そう言った者は陛下から信頼されているので問題ないと言っておりましたね」」


 俺と父の声が重なった。

 俺達の話を聞いて、国王は再度大きく息を吐いて深呼吸した。それから国王の隣で静かに控えていた人にちょろっと確認した。


「リシュリューよ、今の王都の教会の司教は誰であったか……?」

「ジョゼフ様が年老いて引退されてからはネショ侯爵家のブルット殿ですね。ブルット殿はジョゼフ様に随分可愛がられていたようですので……」

「よし、そのブルットとやらを呼べ!」


 深呼吸はされていた。しかし、国王の声には怒りが満ちていた。

 その様子を見ながら、俺は察していた。察してしまっていた。あのハゲ、陛下に信頼されているとかぬかしていたが、ほぼ面識なさそうだなと。






「お招き頂き、誠にありがとうございます! 私が王都教会司教のブルット・O・ネショでございます!」


 次の日、あのハゲは呼び出しに応じて王城の玉座の間へやって来た。要件は伝えられなかったのか、非常に誇らしげで嬉しそうな様子でやって来た。だが、玉座の間の様子を見てその表情はすぐに固まった。

 玉座の間ではハゲが入って来るよりも前に人が入っていた。国王の座る玉座へと続くレッドカーペットの横にズラッと並んでいたのだ。並んでいたのは俺達ハウルムーブメント伯爵家とハゲの実家であるネショ侯爵家、そして孤児院の院長やその他教会の面々である。

 その中心の玉座で国王は笑う。嗤って出迎えた。


「ブルット・O・ネショと申したか。よくぞ参ったな」

「は、はい! お招き頂き、誠にありがとうございます!」


 国王の言葉のニュアンスは完全に、どの面下げてやって来た? というものだったが、ハゲは気付かずに笑顔で返した。……気付かない振りをしたのかもしれないが。

 国王はその様子を見て、さらに深く嗤った。


「余は敢えて理由を言わずに呼び出した訳だが、お前は何故この場に呼ばれたか分かるか?」

「司教としてのこれまでの功績をお褒め頂けるのでしょう?」


 ハゲは並んでいる面々の内の教会の関係者へ目を向け、自分より位が低いであろうことを確認した上でそう言った。その様子はもう、下手なことぬかすとブッ殺すぞと部下に脅しをかけるパワハラ上司の目線そのものだった。

 国王はそれを分かった上で放置し、まずは穏やかな口調で話し……


「功績、功績か。まあ、あながち間違いではないな。……だが、それは賛辞などではなく、事実確認という尋問であるがな!」

「くっ!」


 視線に殺気を込めて放った。超絶ハイパー鈍いであろうハゲが気圧されるレベルで。

 国王はすぐさまハゲへの尋問を始めた。


「お前は知っておるか? この我が国では王族・貴族・庶民という身分差は確かにある。だが、それだけであると」

「は、はい……それが?」

「人族と獣人族を分けるような法律など、何一つ定めてなどおらぬと」

「…………は、はい」


 そこで何の為に自分が呼び出されたのか気付いたのか、ハゲの返事が少し遅れた。

 国王はそこへさらに追撃した。


「では、何故に王都の孤児院には人族の子供しかおらんのだ?」

「ま、真ですか? そ、そんなことが行なわれていようとは、ゆ、夢にも思っておりませんでした! そこの者共にそんな邪な意図があろうとは!」

「hdjhrjfっkdkdld……!」


 何を言っているんですか。それは貴方でしょう? 貴方が自分の言うことを聞かないと、ネショ侯爵家の力で潰すと脅したのでしょう?

 孤児院や教会の関係者の面々からそんなクレームが上がった。だが、その内容は今日あのハゲを入れる前に予め聞いておいた内容でもあった。

 国王はその面々を手で制して、ひとまず黙るよう命じた。それからさらにハゲへ問い詰めた。


「貴様の言葉、余が信じられると思うておるのか? 信じるとでも思うておるのか?」

「ええ、下賤な身分な者共と上位貴族である私、信じるに値するのは圧倒的に私でしょう?」


 ハゲは胸を張ってそう言った。自分が間違ってないと心底思っているような面だった。奴はこれまでもそうやって生き続けてきたに違いない。実に、クソだった。

 ネショ侯爵家当主であるハゲの兄がスッと出て来て、ハゲに告げた。


「いいや、兄である私からしてもお前の言うことは何一つ信じられんよ。そもそもブルット、お前は教会の一員になった時点でネショ侯爵家ではなく、上位貴族でもないからな?」

「……………………」


 ハゲだけでなく、玉座の間にいた全員がその当主の言葉に絶句した。あまりにもハゲが自然に振る舞っていたので忘れてしまっていたのだ。教会の人間はどの地位であっても貴族ではないと。貴族とは貴族として働いているからこそ貴族であると。

 貴族でなくなったとしても、実家の力が影響することは少なくない。だが、ハゲの兄は此処で明言してしまった。こんな弟なんかの後ろ盾ではないと。

 国王はニヤリとし、ハゲに告げた。


「貴様の言動については、実は内外で既に問題視されておった。この貴様の兄とも話し合いはしておったのだよ。その上で、尻尾を出すのを待っていた状態であったのだ。そこでバウルムーブメント伯爵家からのクレームがちょうど良く来た。さて…」

「って、バウルムーブメント伯爵家? 伯爵家風情が何故玉座の間にいる!?」


 ハゲは俺達が並んでいるのを見て、いきなりそう喚いた。国王の言葉を遮って。……不敬罪の追加であろう。

 国王はもう、ニヤリから苦笑いである。


「バウルムーブメント伯爵家には余が依頼した仕事を完遂してくれたからな。此処にいるのは何ら問題ないぞ、庶民のブルット君」

「し、しかし! しかし!」

「話を逸らすな。遮るな。此処ですべきは貴様の話だ。まあ、今更何を申そうとも貴様はお終いだがな」

「…………」


 ハゲは何も言えなくなった。






 残りのざまぁについてはナレーションでお送りしよう。

 ネショ侯爵家はハゲに対し、改めて無関係であると告げた。その上で、今回の1件でネショ侯爵家からの完全追放を宣告した。通常ならば貴族家子息は、家を離れても当代に限って元の名字の名乗りを許される。しかし、その完全追放によってそれすらも許されなくなる。

 教会からは司教のさらに上位である教皇が出て来て、ハゲに破門を告げた。獣人族への迫害は教えに背を向けるものであり、ハゲの言動は教会を貶めるものと判断されたからだ。

 それらと併せて不敬罪を追加し、ハゲは遠い辺境の地にある鉱山で鉱夫になることを命じられた。下っ端としての勤務で、期間は死ぬまでで、恩赦もなし。要は無期懲役であった。

 そんなざまぁシーンを、俺達バウルムーブメント伯爵家は静かに見守っていた。予想はしていたが、特にやることもなかった。

 ……それはちょっとだけ残念ではあったが、そこに拘りはなかった。ルアとアークを酷い目に遭わせたハゲはその報いを受ける。それだけで良かったからだ。それ以上は興味もない。

 それ故か、そのハゲの名前を俺は次の日には忘れるのであった。

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