02.08 :テンプレで始まり、テンプレで終わる……そんなお話

「おぅ、姉ちゃん。そんな所でちんまいガキ共のお守りなんざしてねぇで、俺の酌でもしろや。その後は俺がたっぷり可愛がってやるぜぇ。ぐへへへへへへへへ……」


 髭面の熊みたいな容姿をしたオッサンはシアの肩に手を回そうとしたが、シアはそれをひらりと避けた。もう一度シアの肩に手を回そうとしたが、シアはそれをひらりと避けた。ひらり、ひらり、ひらり。

 こんなクソオヤジは殴り飛ばしてもいいような気もしたが、避けたい気持ちも分からなくはなかった。男である俺から見ても、このオッサンはキモイ。触れたくもない。だって、シアはまだ10代の少女だぜ?

 それを思うと俺はさらにイラッとし、剣をオッサンの首筋に付けた。鞘からは抜かないでやったが。


「失せろ」


 キッカリ&ハッキリ言ってやった。遠回しな言い方だと通じなそうだったので。

 オッサンは状況把握すら出来ないのか、苛立たし気に俺の剣を手で払うと、敵意の籠もった視線を俺に向けた。嗚呼、真正面に立たれ、そこで改めて思う。最悪だと。

 酒臭いというのもあるが、それ以前に元々が臭い。息が臭く、体臭が酷い。清潔感の「せ」の字もない。冒険者じゃなくて、ホームレスじゃね? ってレベル。


「あぁあ? クソガキィ、今のはこの俺に言ったのか? ぶっ殺すぞ?」

「言ったね、一応。ゴミに言葉が通じるとは思えなかったけれど」


 よく酷い奴のことをクソッタレとか言うけれど、ウンゴーレムという能力を持ち、下水道に関与している俺からすると、それは排泄物に対する侮辱である。俺は言いたい。一緒にするなと。

 それを言うと、ゴミも同じだったか。ゴミも循環の輪の一部と考えれば役に立つが、コイツは役に立つことはないだろう。以上。


「ギルド内でのケンカはやめて下さぁーい!」


 さて、次はどう言って煽ってやろうかと考えていると、早々に俺達を止める者が出て来た。ギルド職員、フラグメイカーことさっきの受付嬢である。

 ……やはり煽り運転はダメか。


「あぁあ? 止めるんじゃねぇ。このクソガキが生意気なことぬかしやがったから、この俺が教育してやるっつってんだよ!」

「この子は止めようとしくれただけです。私、この人にお守りなんてやめて、自分に酌と嫌らしいことをしろって言われましたから」

「…………」


 受付嬢は完全にドン引きしていた。周囲の人達もドン引きしていた。

 ないわー。キモイわー。犯罪じゃね? 周囲からそんな声も聞こえた。うん、俺もそう思う。

 そんな周囲の声を聞いて、オッサンは逆ギレした。


「うるせぇ、うるせぇ! うるせぇええええっ! 俺はより良い提案をしただけだっつーの! もう、我慢ならん! このクソガキ、フクロにしたるわっ!」

「ソー・ダイゴミさん。そんなに処分されたいのですか?」


 受付嬢はオッサンに向かってそう言った。その口調は平淡ではあるものの、驚く程に冷たいものだった。

 それだけで俺は、彼女がオッサンを足切りするつもりで、それが出来るのだと気が付いたが、オッサンは気が付かない。愚者のまま、受付嬢すら見下す。


「あぁあ? 冒険者歴35年になろうとしている俺に向かって何言ってんだ? あぁん? 俺の積み上げた信頼とガキ共、どちらに信用があるかは火を見るより明らかだぞ!」

「……………………」


 それは勿論、ガキ共の方が信用あるに決まっているよね?

 この場にいる、オッサン以外の心の声は一致した。このオッサンの何処にも信用足る所はないと。

 受付嬢は大きく溜め息をついた。それから言うことは俺にも察しはついたが、そんな受付嬢を俺は止めた。


「ああ、いいですよ。止めなくて。相手してやろうと思います。鍛錬場、使えるんですよね?」

「え? ええ。しかし……」


 受付嬢はそれでも迷った。俺に相手させて良いのか考えたのだろう。

 まあ、普通ならばありえない。見た感じ、俺とオッサンの肉体年齢の差は40歳くらいあるように見える。9歳の子供相手に、49歳が戦う。実にありえない。ただ……

 負ける気はしなかった。






 鍛錬場は言わば闘技場であった。そこそこ広い円形状のスペースに、それを簡易的な客席が取り囲んでいた。

 此処は昇格試験等でも利用されるのですよ。周囲を見渡していた俺に、受付嬢が案内してくれた。

 俺側の客席にはユリン嬢とシアがいて、俺の様子を見守っていた。他にはギルド内にいた忙しくなさそうな冒険者など、悪く言えば野次馬が客席に屯していた。


「坊主ぅ、頑張れよーーーー」

「そんなジジィなんか倒しちまえーーーー」


 俺はそんな野次馬達に手を振った。成程ね。情報提供ありがとう、と思いながら。

 オッサンの周囲には誰もいない。応援をする声もなければ、諌める声もない。オッサンは約35年冒険者をやってきたらしいが、その結果がこの様なようだ。


「インドール様、あの人はソー・ダイゴミという名前で…」


 しーーーー。

 オッサンがどういう冒険者なのか説明しに来た受付嬢に、俺は黙るようサインを送った。


「それを聞くのはフェアじゃない。そして、今までの所作でどの程度なのかは見えましたので」


 下の下だ。他の冒険者から好かれてもおらず、また逆に恐れられてもいない。

 受付嬢は俺とオッサンの様子を交互に見て、静かに頷いた。分かりましたと。

 彼女は闘技場、もとい鍛錬場の中心へ行って、俺とオッサンを交互に見ながらルール説明をした。


「これはあくまでも鍛錬です。真剣は絶対に使わないで下さい。そして、過度な攻撃もまた、しないで下さい」

「はい」

「ぐへへへへ」


 俺はハッキリと返事をし、オッサンはただだらしなく笑っていた。嫌らしい妄想でもしているのだろう。実に、ああ実にキモかった。

 そのオッサンはキモイままに言った。言いやがった。


「おい、クソガキィ。この勝負、俺が勝ったらさっきの姉ちゃんを俺の性奴隷に寄越せ。たっぷり可愛がってやっからよ!」

「黙れ、このボトムレス・バカ」


 ボトムとは底、つまり底無しの馬鹿という意味だ。今、その言葉を思い付いた。このオッサンは自分の状況すら分かっていないらしい。

 俺は受付嬢に確認する。


「ねぇ、ちょっと訊きたいんだけど、この人ってこのままだと冒険者ライセンス剥奪か、それに似たことになりますよね?」

「はい、この組み手が終わったら剥奪ですね」


 受付嬢はあっさりと答えた。ハッキリと断言した。

 その断言に、オッサンは慌てて受付嬢に確認しだした。酔いも醒めたことだろう。


「ちょ、ちょっと待て。ちょっと待て。俺はこのギルドに35年もの間貢献してきてやったんだぞ! お前如き小娘に俺を切る権限などある訳なかろうがっ!」

「権限、ありますよ? 上級冒険者ならともかく、35年もずっと下級冒険者でギルドに寄生していた人程度ならば。ましてや、小さな子供を脅して女性に卑猥なことをしようとする、そんな輩でしたら寧ろ剥奪しない方が叱責を受けます。当ギルドは所属員の犯罪を許容する団体ではありませんので」

「く、く、くくくく…………」


 オッサンは言葉に詰まっていた。自分が詰みであるとようやく気付けたのだろう。と言うか、普通は鍛錬場に来る前に気付いている。

 いい大人が9歳の子供にケンカを仕掛け、勝っても大人気なくみっともないと罵られるマイナスにしかならない。そして、負ければ当然ながらマイナス。そう、勝っても負けてもマイナスにしかならない。

 その上で、10代の少女へ猥褻行為を強要する言動。気持ち悪いし、愚か以外の何物でもない。

 ダブルでキメたオッサンは既にお終いである。人生お終いである。アーメン。


「クッソがぁああああああああっ!」


 オッサンは渡された木剣を右手に握ると、そのまま真正面から俺に向かって襲い掛かってきた。

 イノシシのように真正面から突っ込んで来たが、速度は引く程に遅い。木剣を上から振り下ろしてきたが、その斬撃も引く程に遅い。そしてぬるく、隙だらけだ。


「はぁ」


 俺は軽く溜め息をつきつつ、半歩右側に踏み込んでサラッと回避し、そこからくるっと翻りながら木剣をオッサンの首筋に当てた。

 痛くない程度に軽く。ぺしーん。


「ふんがーーーーっ!」


 オッサンは汚い声をあげ、臭い息を吐きながら今度は突きをしてきた。ド素人の剣筋で。

 俺は重心を落とし、その突き攻撃を手首辺りで軽く切り上げた。その衝撃の手から木剣が飛んだ。ぴょーん。

 オッサンの目が飛んだ木剣に向いたので、更に隙だらけとなったオッサンの胸部に軽く突きを入れてやった。とーん。

 オッサンの体勢が前に崩れそうになったので、俺は前に踏み込んで蹴りでオッサンを後方へと倒した。ずでーん。

 オッサンが仰向けに倒れたので、ずっと隙だらけの首筋に今度は真正面から木剣を叩き込んだ。痛くない程度に軽く。ぺしーん。


「くっそがぁっ! まだまだまだぁああああっ!」


 オッサンは再び立ち上がり、またイノシシのように真正面から突っ込んできた。さっきのスピードよりもさらに遅い突撃で、変化も何一つない。つか、そんなのが通用するとでも思ったのか? 何も考えてないのか?

 俺は後ろ手でオッサンの攻撃を流しつつ、左足の蹴りを軽く腹に入れて体勢をまた崩させた。そこからオッサンの顎を軽く切り上げた。すぱーん。

 オッサンが倒れそうになった、倒れる寸前の顔に追撃で真正面から木剣を叩き込んだ。軽く、痛くない程度に。めーん。

 ずでんと倒れたオッサンの腹をむぎゅっと踏みつけてやって、そこから蹴って転がした。ごろごろごろごろ。

 つか、99.9999%低レベルと踏んではいたが、想像以上に低レベル過ぎだ。これだったら体動かすの得意じゃないと言っている兄の方がずっと強いくらいだ。こう言ったら兄に怒られそうなくらいに。

 もう、いいかな? こんなんじゃ、俺の鍛錬にもなりゃしない。そう思った俺だったが。


「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ、ぜぇっ! まだまだまだまだぁっ! 俺はこんなもんじゃねぇぞっ!」


 オッサンは三度立ち上がった。……ボトムレス・バカ、此処に極まれりじゃねぇか?

 俺は引いた。受付嬢も引いた。ユリン嬢やシアだけでなく、野次馬となっている観客皆も引いた。エブリバディ、ドン引きである。


「やべぇよ、あのオッサン。どんだけ自分が恥を晒しているのか、分かってないのかね?」

「分かってねぇから、あの様なんだろ? 普通だったらありえねぇが」


 観客の声が聞こえた。オッサンの耳にも入ったのか、オッサンは今更ながらにキョロキョロした。

 受付嬢はオッサンに言った。


「ソー・ダイゴミさん、気付いてないのですか? 木剣でかつお相手が手加減しているから今も動けていますが、本当の剣でしたら貴方はとっくのとうに墓の中ですよ?」

「そそ、そんな訳はない。ぜぇっ、ぜぇっ! 俺があんなクソガキなんぞに遅れを取る訳がなぁああああっ、ぐほほほぼ、うぇっ!」

「では、何回攻撃を受けました? また、何回攻撃を与えられました?」

「はぁっ、はぁっ! そ、それは……」


 俺がオッサンに叩き込んだ攻撃の回数は……ぶっちゃけ、俺も覚えていない。ただ、どれもこれもクリーンヒットしていて、実戦ならばそのどれもが大怪我もしくは致命傷になるものばかりだ。

 それどころか、失敗した攻撃がなかった。打率10割である。野球と同じで、攻撃成功率なんて3割行けば上等で、長打なんか滅多にない筈なのに、打率10割である。

 受付嬢は大きく溜め息をついてから、重ねてオッサンに問い掛けた。


「自分と相手の様子の違いを分かっております?」

「ち、違いだ、と? はぁっ、はぁっ!」


 オッサンは息をまだ大きく切らしていて、汗もダクダクである。その一方で、俺は息を切らすこともなく、汗をかくこともない。

 オッサンはようやくその違いに気付けたのか、膝をついて項垂れた。そのオッサンに受付嬢はトドメを刺した。


「はい、貴方の負けです。完敗です」


 わぁああああああああっ! 観客席から歓声が上がった。

 よくやったぞ。凄いぞ。俺を讃える声がたくさん聞こえた。

 子供にケンカ売って、手も足も出せずに負けやがった。みっともねぇ。クッソダセェ。オッサンを嘲笑う声がたくさん聞こえた。


「やったやった! さすが、インドール様!」


 ユリン嬢が観客席からサッと飛び降りて、俺の方へ駆け寄ってきたので、俺はユリン嬢とハイタッチした。イエーイ♪

 シアもユリン嬢に続いて降り、俺の方にやって来て会釈したので、俺はシアへはサムズアップした。グーね、グー♪


「クッソがぁああああああああっ! きたねぇぞ! きたねぇぞ! きたねぇぞ!」


 オッサンはそう言って激昂した。まあ、99.99%阿呆な言い掛かりだろうけど、何を言い出すのか一応聞いてみますか。

 ある意味wkwk。そう思った俺に、オッサンが言ったのは想像以上に残念な言い掛かりだった。


「このクソガキィ、剣術の上位レベルかそれに似た能力を持っているな。この卑怯者がぁっ! こんな勝負、無効だ無効! 寧ろ、俺の反則勝ちだぁああああっ!」

「……………………」


 このオッサン、何言ってんの?

 この場にいたオッサン以外が思ったことは、恐らく皆こうだったろう。俺もそうだった。

 受付嬢はこれまでで最大の溜め息をついてから、オッサンへしぶしぶ言った。


「仮にそうだったとして、それの何処が反則なのです? 貴方だって剣術Lv.3を持っているじゃないですか」

「はぁああああ? 俺のLv.3は長年の努力の賜物、そのクソガキはただ運が良かっただけだろうがっ!」


 長年の努力の賜物って、35年もかけたその結果がたったLv.3程度? ショボッ! 想像以上にショボッ!

 この場にいたオッサン以外が思ったことは、恐らく皆こうだったろう。俺もそうだった。

 それなのにオッサンは喚き続けている。実にみっともない。潔さがない。恥晒しでしかない。

 とは言え、受付嬢がちょっと困っていそうだったので、俺は真っ直ぐオッサンに話し掛けた。


「なあ、オッサン」

「何だぁ、卑怯なクソガキィ!」

「オッサンは俺に剣術の上位レベルかそれに似た能力を持っているなんて言ったが、俺にそんなもの無いぞ。それどころか、俺には剣術や体術など武術系の能力は一切無いぞ」

「う、嘘だっ! 嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だぁああああっ!」


 嘲笑う皆の声の中、オッサンは首を横に振りながら叫んだ。薄々思ってはいるのだろう。そう思っていたいだけなのだと。

 藁をも掴む。恐らくはそんな心境でオッサンは俺に訊いてきた。


「じゃあ、お前の能力は何だって言うんだ?」

「…………」


 その気持ちは分からなくもないが、そんなオッサンに合わせてやる必要性は感じなかった。

 前世日本でもいたな、こんなオッサン。自分でバキュームな仕事を選んだくせして、自分はこんな仕事を続けているような人間ではないと言っているような輩。嗚呼、特にしょぼくれた何処にも居場所のなさそうなオッサンにその傾向が多かった。何の努力もしてないくせに、不満だけただ吐き散らす輩。

 コイツも同じだ。


「グアノ」


 俺はグアノを呼び出した。グアノにオッサンの襟首を掴ませて、そのまま持ち上げさせた。

 グアノはもう、180cmを超える身長になっている。だからきっと、本物の熊に近い力もあるのだろう。オッサンのことも軽々と持ち上げてみせた。


「しょ、召喚術? じゃ、じゃあ、本当に?」


 ウンゴーレムは別に召喚術ではないが、その誤解を解く必要性もない。俺はグアノにそのオッサンを適当に投げ捨てさせた。汚いものをいつまでも触っていてはばっちくなるからね。ぽーい。

 倒れたオッサンは項垂れ、チクチョウ…チクショウ…と呟いていた。その上で言ったのだ。俺にもっと運があればと。

 俺はその言葉に心底呆れ、オッサンに告げた。


「運が良ければ? オッサンはとても運が良かったじゃないか。少なくとも今日までは」

「そ、そんなことないぞ! 俺は不運だ! とってもとっても不運だ!」

「だって、その年まで生きてこれたじゃないか。オッサン程度の力と、その極悪な判断能力。それで死なずに済んでいたんだから、そんなのは幸運以外の何物でもない。普通の冒険者ならば、とっくのとうに墓の中だよ」

「ぉぉぉぉぉぉぉぉ…………」


 オッサンはさらに項垂れ、それ以降何らかの声を発し続けてはいたものの、ハッキリとした言葉にはならなかった。

 受付嬢はそのオッサンのすぐ前に立ち、見下ろして、サクッと告げた。


「ソー・ダイゴミさん、貴方の冒険者ライセンスを剥奪します。貴方は今からもう、冒険者ではありません。当ギルドだけでなく、全てのギルドで依頼を受けることは出来なくなります。では」


 サラッとトドメを刺した。何となくとは言え、35年続けた冒険者ライフの終焉がそれだけである。

 野次馬をやっていた他の冒険者達がわらわらとそのオッサンの方にやって来て、オッサンを抱え、オッサンをギルドの外へ有無を言わさず運んで行って、雑に捨てた。さようなら~。

 その間、オッサンが消えていくのを寂しがる者、惜しむ者は全くいなかった。寧ろ、嬉しそうに笑う者が多かった。その様子を見て、俺は他の冒険者と同じようには笑えなかった。

 そんな俺を見て、ユリン嬢が訊いてきた。


「インドール様、どうしたの~?」

「ん? あのオッサンのようにならないように気を付けないといけないなぁって思ってね」

「そうだねー」


 ユリン嬢も頷いた。アレはあまりにも酷いオッサンではあったが、反面教師であったと考えたならば、これからの俺達にとって良い経験だったに違いない。

 人生をやり直している俺はともかく、そうでないユリン嬢もそれを感じ取っている。それはとても凄いことだと俺は思っていた。ブラボーである。それどころか、チート級にワンダフルである。

 そんなユリン嬢にシアも抱き着き、褒め称えた。


「おおおおっ、流石ですユリン様! それでこそユリン様! 素晴らしいですユリン様! 最高ですユリン様! あ、インドール様も良かったですよ?」

「雑な賛辞をありがとう」


 チラッとだけ俺に目を向けたシアに、俺は苦笑いを浮かべながらそう返した。ユリン嬢は返事を言えずにいた。シアのあまりものメイドバカ振りに、恥ずかしかったのだろう。気持ちはわかる。ユリン嬢、別に何もしてないしね。

 そんな俺達の所に野次馬だった冒険者達が遠慮なしに駆け寄ってきた。近寄ってきて、将来有望な子供達だとか、素晴らしい出来だったとか、色々と褒めてくれた。それからすぐに食べ物や飲み物をわらわらと持ち寄って来て、いつの間にか宴会が始まった。俺達は当然のようにその宴会に巻き込まれ……

 依頼を受けようとして、それが全然出来なかった時が付いたのは門限が近い時間になって、帰路に着いたその時だった。






 なお、オッサンことソー・ダイゴミのその後を知る者は誰もいない。無理な冒険に出て魔物にあっさり殺されたかもしれないし、何処かのスラムでゴミを漁りながら乞食のように生き続けているのかもしれない。

 誰も興味がなくて知ろうともしなかったし、俺もどーでも良かった。と言うか、そのオッサン自体のことは数日も経てば一切気にすることはなくなったし、名前も忘れ去ったのだった。

 ただ、あんな反面教師のようになってはならない。それだけ覚えていればそれで良かった。

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