00.04 :下り列車が参ります、危険ですから(以下略)

 超・下り列車

 使用者の魔力に触れた他者は下痢になる。強弱の調整は可能。自分自身への使用は不能。




「「「…………」」」


 想像以上に兄が得た能力はヤバイものだった。色々な意味で。

 兄は不安そうな顔をしていたが、そんな兄に絡む馬鹿、もとい無礼者が現れた。粗末な服を着た、ガラの悪いクソガミみたいなのが兄の肩を組み、その耳に問い掛けた。


「クリスター様? アンタ、領主様の息子なんだろ? それなのに、その訳分かんねぇ能力は何なん? そんなんでこれからこの街を守っていけると思ってるん? 分家とも言える、俺様に次を任せた方がいいんじゃね?」

「何だ、あの無礼者は!?」


 父は激高し、立ち上がった。母も俺を抱えながら立ち上がった。父は兄の方へと近付き、母も俺を抱えながら連れ添った。俺、下ろしません? ああ、タンニンもまた、俺達の動きに倣った。

 俺達が兄の所へ着く直前、保護者席から一人の冴えない感じのオッサンが飛び出し、俺達に向かって土下座をした。そのオッサンは無礼者の父親で、土下座をしながら詫びる。ウチのバカ息子が済みません。ウチのバカ息子が済みませんと。

 その間に、此処の警備をしていた兵士によって兄と無礼者は引き離された。そして、改めて無礼者の父親は謝罪をした。


「私はこやつの父親であるヌイケマ・モブヘーシと申します。この領都の西門の門番を務めさせて頂いています。此度はウチの馬鹿息子が本当に申し訳ございません!」

「はぁ? 何謝ってんだよ、クソオヤジ。みっともねぇっ! 俺は何も間違ったこと言っちゃいねぇだろ!」

「ミーゴ、お前は黙っていろ!」


 ヌイケマは馬鹿息子を怒鳴ると、さらに俺達に向かって土下座を続けた。まあ、彼等が平民なのだとしたら、無礼討ちということで死罪になってもおかしくはないことをした。なので、そうして反省の意を示すのは自然のことだろう。

 それはひとまず置いておいて、父はそのヌイケマに訊ねた。


「ひとまずお前の息子の振る舞いは置いておいて、一つ疑問があるので聞かせろ。お前の息子は自分が我がバウルムーブメント家の分家とも言えると申した。何故だ? 俺はモブヘーシ家など聞いたこともないぞ?」

「も、申し訳ございません。それは我が家の恥ずかしいところでして、あの息子は前々より我が家が何でもない平民であることに不満を抱き、暴れておりました。なので、少しでも自信をつけさせてやる為に申したのです。私の再従兄弟はこの領都の、とある商家の主である。その商家の主の奥方様は領都の警備隊隊長の従妹である。警備隊隊長の奥方様はバウルムーブメント家執事タンニン・S・ベルベリン様の妹である。私のような一平民であっても、領主様との繋がりはなくはないのだよと言っただけだったのですが、良いように解釈してしまったみたいでして……」

「でも、結局は他人じゃん!」


 俺は母に抱えられながら、そのヌイケマに言った。〇〇の妻という段階で血の繋がりはないし、最後に行く着く場所もタンニン止まり。タンニンは我が家の執事として働いているが、血縁者ではない。

 バウルムーブメント家の家系図をどれだけ広げたとしても入りようがないものである。話にならない。だが、それでもその馬鹿はドヤ顔で言う。


「ハア? そんなの関係ねーよ。俺様の能力は剣術Lv.3だぞ? 他のLv.1の雑魚共や訳分からん能力の奴とは格が違うんだよ! 才能溢れる俺様が治めた方が此処の為になるに決まってるだろうがっ!」

「お、お前は何を無礼なこと言っているんだ!」


 馬鹿の父親が焦りながら自身の息子を怒鳴るが、こちらとしては怒るよりも呆れるばかりであった。なぜなら……


「無礼以前に、言っていることが馬鹿丸出しなんだよね」

「そうだな」「そうね」


 俺がぼそりと言うと、父と母も苦笑しながら同意した。その俺達のリアクションを見て、周囲の者達がクスクスと笑い始める。嗤われているのは勿論、そこの馬鹿者だ。

 馬鹿者は激昂する。


「ハァ? 笑うんじゃねぇっ! ブッ殺すぞ、オラァアアアアッ! この俺様、ミーゴ・モブヘーシ様が此処で一番優秀だって言ってやってんだろうがっ! てめぇ等雑魚共は黙って従ってりゃいいんだよっ!」

「君は領主の仕事を何だと思っているのかな?」


 激昂する馬鹿、ミーゴとは対照的に兄は沈着冷静だ。眉一つ動かさない様子のまま俺達家族の方へ戻りながらそのゴミ、もといミーゴに言葉を向ける。

 とりま、おかえり。イエーイ♪ 俺が兄に向って手を挙げると、兄もそれに応えてハイタッチをした。ちな、俺はまだ母に抱えられたま(以下略)。

 それはそれとして、俺も言葉を添える。


「獣の群れとか、小規模な盗賊団の首領とかと同じだと思っているんじゃない?」

「ハァ? んな訳ねーだろがっ! 馬鹿にすんじゃねーぞ!」


 ミーゴは喚き続けるが、兄は落ち着いたままだ。その落ち着いた様子のままで、兄はその馬鹿へ教えてやった。

 領主の仕事とは何かを。


「領主の仕事というのは、みんなが納めてくれた税を有効的に活用し、どうすればみんなの暮らしがより安全に、より豊かになるのかを考え、指揮し、実行させていくことだよ。その何処に剣術の能力が必要になるの?」

「ハァ? 戦になったらどうすんだ? 弱い奴なんかに誰もついてこねぇだろうがっ!」

「それがインドの言う獣の群れとか、小規模な盗賊団の首領だよね。俺についてこい! だけで済むみたいな? そんなのはただの暴君だよね。例え君が我等バウルムーブメント家の一員だとしても、そんな輩はこの領にとって害悪にしかならない。君は不要だよ」

「ハァ? 何を訳分からんこと言って、誤魔化していやが」


 る、と馬鹿が言い切る前にゴミ、もといミーゴは兵士達によって摘まみ出された。奴の父親も、こちらへさかんに頭を下げながら馬鹿息子を追って出て行った。俺達バウルムーブメント家は奴等を罰しようというつもりはなかった。ミーゴは底抜けの馬鹿だが、まだ8歳でしかなかったからだ。

 そんな奴は、自分が剣術Lv.3の能力を得たと調子に乗っていたが、逆を言えばたかがLv.3でしかない。Lv.は鍛錬を積めば上がる。ミーゴを摘まみ出した兵士達は、各々が奴の10倍以上のLv.の持ち主だ。それを考慮すると、Lv.なんかどうでもいいものだった。

 そうして教会内にまた、静寂が戻った。他の親御さん達や子供達が下手に喋れなくなったというのもある。それを破るように、父は大きな音で拍手をした。


「よし、クリスター。それでいい。よくやった! お前は自慢の息子だ!」


 父は兄の頭を撫で、抱き締め、そして嬉しそうに笑った。馬鹿を言ったクソガキに対し、論理的に話をすることが出来たのが嬉しいようだ。それが領主の資質の一つでもあるようだし。

 兄はちょっと恥ずかしそうに、でも嬉しそうに微笑んだのだが、その笑顔はすぐにちょっと曇った。


「でも、やっぱり僕も戦える力が欲しかったです。いざという時、家族を守れるように」

「それはおいおいこの父が鍛えてやろう。インドと共にな。守る力は神から与えられた能力に限らん。鍛えればその分戦えるようにはなるのだからな」

「は、はい。ありがとうございます!」


 兄は満面の笑顔を見せた。良かった。良かったねぇ。

 ただ、あれ? 俺にとって何か面倒臭い事態になっているような気がするのだが、気のせいか? 気のせいだったらいいなぁ。……俺はいつの間にか兄の鍛錬に巻き込まれているのに気が付いていた。

 しかしながら、此処で「俺は鍛錬要らないです」と言える場ではないことも分かっていた。残念なことに。


「嗚呼、諸君! 変なことになってしまい、済まない。子供達が神から能力を与えられるのは至上の幸運だ。それがどのようなものであっても祝い、大切にし、育んでいってほしい。どうか皆の子供達に幸運があらんことを!」


 父はそんな良い感じのことを言って、静まり返った場の空気を変えた。父の言葉に皆が拍手し、讃え、静寂を破ることになったからだ。そうなると分かった上で行動に移した父は、やはり凄い人なのだと俺は再認識した。父の能力が体術Lv.35であることも含めて。

 で、ところで俺はいつまで母に抱えられているんですかね?






「「クリスター、8歳の誕生日おめでとう!!」」


 その日の夜、バウルムーブメント家内でパーティーが開かれた。ごちそうを並べて、めでたいめでたいと祝うだけのもので、日本で言う家族での誕生日パーティーに近いものがあった。従者達が周囲で「おめでとうございます!」と拍手しているのを見なかったことにすれば。

 父母が音頭を取って祝い、プレゼントを渡すのも日本のそれと変わらない。俺は何となく貴族のパーティーだともっと色々な家の人達がぞろぞろやって来るものだと想像していたが、それはないらしい。家と家の距離は離れているので、移動だけでもとんでもなく時間がかかるからのようだ。

 父から剣をもらい、兄は嬉しそうな笑顔を見せている。俺も弟として何かプレゼントをしないといけないなと思いはしたが、残念ながら俺には自由にできる金がなかった。今の俺は5歳。小遣いすらなかった。

 じゃあ、手作りの何かをと考えはしたが、俺には絵心がないので似顔絵を描くと変なクリーチャーが出来上がる気しかしなかった。では、祝いの歌? はっぴばあすデい、トウゆぅう? 音が外れて騒音にしかならないだろう。

 嗚呼、俺は無力だ。

 と、そんなことを考えている間に兄が俺のところへやって来た。


「兄上、誕生日おめでとうございます。でも、ごめんなさい。プレゼントを用意することが出来なくて」


 まだ金がないので!

 嗚呼、悲しいね。だが、そんな俺に対して兄は優しく微笑んでくれた。


「インドは弟だからいいんだよ。僕の傍にいてくれるだけで」


 兄はイケメンだった。イケ兄だった。

 なので、何か小さなものでもプレゼント出来たらなどと考え、俺は兄の選定の儀の時からずっと考えていたアイデアを披露した。


「でも、何もないというのもあれなので、アイデアくらいはちょっと提供してみます。兄上の必殺技名、ファイナル・デスティネーションです!」

「「「はああああ?」」」


 俺の中に眠る厨二の心が叫びをあげた。だが、そんな俺のことを、他の面子は唖然とした顔で見たのは言うまでもない。

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