02.10 :インドール9歳、初めての冒険者ライフ+α
側用人を探せと言われた俺はその次の日の午前、下水処理場(建設中)に来ていた。そして、そこで働いている者達を改めて眺めてみた。
老若男女一応いはするものの、その殆どが若めな大人の男で占められており、かつ荒くれっぽい者が多かった。そんな側用人を連れて学園へ行こうものなら、確実に軟弱な貴族子女を泣かしてしまうだろう。くすんくすん。
俺より少し年上くらいの、スラム在住っぽい子供もいはしたが……そんな彼等を引っ張るのはよした方が良いと俺の勘が告げていた。
うん、上手くいかないね。
「インドール様、何をご覧になっておられるのですか?」
そう思った時、俺の後ろにルイがスッと立って、そう訊いてきた。コイツ、脈絡なく出現するな。どーでもいいけど。
俺は引き続き働く人達に目を向けながら、ルイの質問に答えた。
「人だ。父から側用人を雇えと言われてね、良さそうなのがいないものか覗きにきたんだ」
「成程、そういう訳でしたか。で、良い人物はおりましたか?」
「今のところはNOだな。何となく俺の勘が、此処に居る者ではないと言っている。優劣とかそういうのではなくてな。だからしゃーない」
優れていればそれだけでいいという訳ではない。と言うか、ぶっちゃけ優秀さはあればいいなって程度であって、別に必須項目ではなかった。
一番大切なのは、俺や周囲の人達と上手くやっていけるかどうかである。社交性である。
……俺に乏しい分、余計に。
「で、では、いっそのこと私は如何でしょう?」
「ルイルイもダメ」
俺は即答でそう言った。ああ、コイツではダメだ。
ルイはおずおずと訊いてきた。
「そ、それは私が下水処理場の要職を頂いているからですか?」
「それもある。だがそれ以上に、ルイルイでは俺の側用人の適性はないからだ。年は結構上だし、ルイルイは俺の言葉に対して否を主張することが殆どない。そのような人間を側用人にしては、俺にとってもルイルイにとっても良いことにはならないよ」
「そ、そうですか」
「なので、ルイルイには引き続き下水処理場の所長任務を頼むよ」
「いえ、私はあくまで所長"代理"です。ナンバーワンはあくまで、インドール様なのです!」
「そ、そうか」
まだ言うか。俺はそう思ったが、それは口にしなかった。それだけはこのルイ、頑なで譲らないからだ。
俺としては下水処理場のトップなんかとっとと誰かに任せたかったし、それはルイが適していると思いはするんだがな。あくまで代理と言って聞かないのだ。まあ、俺側のゴフジョー辺境伯家に行くようになったら変わらざるをえんだろう。気にしない。気にしない。
「では、何か御用があればいつでもお呼び下さい」
「いや、ユリン嬢とランチを取ったら、午後はそのまま冒険者ギルドへ行く予定だ。何かあって、どーーーーしても俺に訊かなければならないことがあれば、バウルムーブメント家へ手紙を書いて渡すんだ。夕方見て、翌朝くらいには回答しよう」
「は、はい」
俺は“どうしても”を強調して言った。そうしないと、ルイは本当に何でも訊いてくるからだ。職員用のゴミ箱をいくつ設置するかを訊いてきた時はもう、コイツどうしてやろうかと思ったからね。自分で考え、自分で判断してくれないと。
と、そんな訳で午後は冒険者ライフだ。
「これだっ!」
「おおおおっ」
ユリン嬢&シアを伴って冒険者ギルドへ行き、早速とばかりに依頼の貼り出されている掲示板へと向かった。前々々回くらいから進んでいないような気もしなくもないと、心の何処か片隅で仄かにその可能性についてほんとちょっとだけ思わなくもなかったが、気にしてはいけない。これは早速なのだ。早速、早速、サッソーク!
そんな俺が早速選んだ依頼は、『王都にある商家の引っ越しの手伝い』だった。実施日は明日で、王都内の短い距離の移転なので、拘束はその日のみ。報酬も下っぱ冒険者向けの依頼にしては悪くない。なので、非常に良い依頼に見えた。
俺はユリン嬢&シアに確認する。
「どうかな?」
「いいんじゃない?」
「ええ、私も問題ないように思います。寧ろ、最良であるように思えます」
ユリン嬢&シアの反応も良いものだった。うん、そうであろう? そうであろう?
その依頼を受けるぞ、と受付嬢まで申し込みに行こうとした俺達だったが。
「おぅ、ガキ共。その依頼受けるのか?」
Σ(゚Д゚)
俺達にそう話し掛けたのは、またオッサンだった。これは前の時と同じ流れなのか? そう警戒した俺だったが、そうはならなかった。
「依頼を受ける際は受付嬢へ申し入れをし、その受付で依頼の条件等詳細を聞き、問題なければ必要事項を記載する。それで、正式な依頼受諾だ。それは個人であっても、パーティーであっても変わらないが、パーティーは代表者のみで対応可能だ。なので、いつも同じ面子で行動するならば、パーティーを組んだ方が面倒も減ってお勧めだ」
親切な人だった。俺はある意味驚いて、すぐのリアクションが出来なかったのだが……
ユリン嬢はすぐにそのオッサンへお辞儀し、お礼をした。
「ご親切にお教え頂きありがとうございます」
「「ありがとうございます」」
俺とシアもその動きに倣った。ペコペコ、ちゃんとするのです。
オッサンはその俺達の対応に驚き、目を丸くしたのだが、俺達はお先に失礼して受付嬢の所へ依頼受諾の話をしに行った。
「では、明日はよろしくお願いします」
受付嬢の話はすぐ終わった。出された条件はこれと言って特別なものはなく、引っ越しの手伝いが依頼元の要望通りに出来ればそれでオール・オッケー。
俺達は特に迷うことなく、依頼受諾のサインをした。その結果、受付嬢から上記の言葉を貰ったのだった。
「じゃあ、インドール様にシア。また明日、になるのかな?」
「そうだね」「そうですね」
依頼受諾が終わって、ユリン嬢はそんな明日の予定の確認をした。なお、午前9時に現地集合である。朝弱い誰かさんには厳しい時間だが、それはどーでもいいとして。
その確認をした後、ユリン嬢はちょっと聞きづらい感じで訊いてきた。
「それで、これからもあたし達で依頼を受けていくだろうからさ、あのオジサマの言った通り、あ、ああ、あたし達でパーティーを組まない?」
「いいぞ」「いいですよ」
ユリン嬢の誘いに、俺とシアは即答でYesと返した。それどころか、食い気味だったと言ってもいいくらいだった。
と言うか、俺に言わせりゃ既にパーティーは組んでいるものと思っていた。シアもきっと同じだろう。ホッとした顔を見せ、嬉しそうにしたユリン嬢には言えないことではあったが。
ただ、正式にパーティーとなるのであれば1つ大切なことをしなければいけない。そのことを俺は思い出していた。
「そう、そうだ。それではパーティー名を付けなければいけないな。とりあえず3人で案を出していくとしよう」
「そうね、可愛い名前がいいわ」
俺の提案に目を輝かせるユリン嬢。その一方で、シアはもう疲れたような顔をしていた。まだ、何の案も出していないというのに情けないことだ。
俺は3人の名前の頭文字を並べて何かできないか考えて、考えて、俺の名前の頭文字がAだったならば、USAになれたのにと思った。その瞬間、あのちょっと懐かしい歌が俺の頭の中に流れた。
C’mon バウルムーブメント♪
男子のトイレはこちら♪
って感じの歌だっけ? ちょっと、違うか。そう、ちょっと違うと言えば、後日に分かったことではあったが、シアの頭文字はSではなくCだったらしい。そうなると、例え俺の頭文字がAだとしても、USAにはなれなかったようだ。
と、考えていた間にユリン嬢が発表した。
「クマさんとプリティな仲間たち!」
「「…………」」
控えめに言ってもヤバかった。やばたにえんだった。シアもまた、絶句していた。
とりあえず俺は控えめに指摘しておいた。
「クマさんいないんで、それはちょっと……」
「ダメか~」
グアノをクマさん枠に入れたとしても、グアノはあくまでも俺のウンゴーレムでしかないので、名前でそれを中心にしてしまうのはおかしいと、ちょっとマジなことも考えたが……そこまでは言わなくていいか。
そう思っていた俺の横で、シアがちょっと考えてから言った。
「お嬢様の、ちょっと惜しかったんですけどね」
!?
俺は心の中で目を見開いた。コイツのメイドバカっぷりが、ユリン嬢の命名のぶっ飛びっぷりを何となく修正してしまったらしい。嗚呼、ダメだ。俺が何とかしないと。
そう思った俺は、俺の案を出した。
「トイレボリューション21」
「「却下」」
!?
俺の案はユリン嬢とシアによって即座に却下された。しかも食い気味に。……解せぬ。クソガキと聖水聖女によるトイレ革命という実に複雑で高尚っぽい感じで考えた名前だったんだが……頭の中で余計な替え歌を思い浮かべたのが良くなかったのかな?
腸腸腸いい感じ 小腸大腸いい感じ♪
腸腸腸いい感じ 十二指腸がいい感じ♪
「これだと永遠に決まりそうにないですね。名前はいずれ、ということでいいんじゃないですか?」
「仕方ないか」「仕方ないわね」
溜め息をつきつつそう言ったシアに、俺とユリン嬢も頷いた。歩み寄れる部分はなさそうだったからだ。
とは言え、名無しの権兵衛では困る時もあるかもしれない。そう思った俺は、仮の案として言った。
「じゃあ、それまで名前が必要になった際は『㎇(仮)』で」
「㎇って何ですか?」
「ゴフジョー家のGとバウルムーブメント家のB」
俺は2人にそう説明した。説明と呼べるか怪しい程に単純でつまらない仮名だった。なので(仮)。あくまでも(仮)。
ユリン嬢とシアもテキトーな感じで、ひとまずはそんな感じで〜となって、第1回パーティー名会議は終了した。
次の日、俺達は予定通り商家の引っ越しの手伝いへ行った。俺達と同じように依頼を受けた者達が多く集まって、てんやわんやの大騒ぎをしながら1日かけて引っ越しを行った。それは肉体的には意外と疲れるものだったが、新鮮さがあったからか、意外と楽しいものでもあった。
そんな楽しい気持ちで「ただいまー」と家に帰ると、母がにゅっと出て来て俺に訊いてきた。
「インちゃん、側用人の目途は立ったのかしら?」
「!」
「……忘れていたのね」
母ははーーーーと、長い溜め息をついた。
前日、ルイに会った時までは覚えていたんだけどなぁ。何でだろ? とりあえず、忘れないようにもう一度歌って踊りますか。
そ、そ、側用人♪ 側用人♪ 側用人♪
そ、そ、側用人♪ 側用人♪ 側用人♪
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