02.06 :(冒険者に)なろう系
「インドール様、一つ伺いたかったんですけれど、グアノが両手に持った爪はどう入手されたのです?」
「王都の武器屋で買ったんだが、それがどうかしたのか?」
唐突に訊いてきたシアの質問に、俺はサラッと返した。バウルムーブメント伯爵家の領都かこの王都で買うかのどちらかしかあるまい。俺は別に訊くまでのことじゃないと思っていたのだが。
シアは重ねて訊いてきた。
「インドール様にはご自分で動かせるお金があるんですね?」
「あ、ああ」
そういうことか。小さい子供はまだお小遣いすらなく、親によって許可されたものだけを買い与えられるのがよくある方法。貴族の家だとその傾向が強い。
まあ、それは分かるのだが、俺は残念ながら普通の9歳児ではない。
「下水処理施設云々による収入があるからな」
「ああ、成程」
王都での下水処理施設敷設の為のアドバイザー的なものをやらされてはいるが、それは勿論無給ではない。王家から俺に対し、給与が出ている。
現代日本でも、子役のような小さい子供が稼いだお金を親が全部巻き上げてしまうといった話は残念ながらよくあるのだが、バウルムーブメント家はそれに当て嵌まらない。王家からの給与はそのまま俺に渡されていた。
何に使ったか訊かれはするものの、管理自体も俺に任されているので、そこそこ信用はされているのだろう。
「次は防具を作ろうかなと」
「ねぇ、インドール様。お願いがあるんだけど……」
グアノに付ける防具をちょっと想像してみた俺に、ユリン嬢がちょっとモジモジしながら言ってきた。
何か言いづらいことなのかな?
「ん、なぁに?」
「あのね、鎧はいいんだけど……グアノちゃんに兜は被らせないでほしいの」
「ああ、成程ね。分かった。そうしとく」
兜被ってしまったら、熊っぽさが無くなってしまうからね。そこはユリン嬢にとって非常に大切なことなのだろう。ぶっちゃけ、兜なんてものはウンゴーレムにとってどーでもいいので、その要望に応えるくらい何の問題も無かった。
なぜならウンゴーレムというものは、結局はただウ★コの塊である。ウ☆コの塊でしかない。ピンク色の暴れん坊をモデルに創ったグアノの頭の中には脳味噌的なものは無いし、胸の奥にも心臓的なものは無い。
防御自体必要不可欠ではないのだが、形を崩された場合の修復には魔力が必要なので、防げる分は防いでおきたくはある。そして、鎧くらいあった方が見映えが良さそうだったからだ。ピンク色のアンチクショウには鎧はなかったけれど。
そんな訳でグアノの鎧作成計画をイメージし、それは母からあっさりと承諾をもらい、王都の防具屋で胸当ての購入もあっさりと出来たのだが……
「ダメです」
「ダメだな」
グアノの鎧作成の許可はあっさりと出されたのだが、ダンジョン探索の許可は出してもらえなかった。バウルムーブメント伯爵家&ゴフジョー辺境伯家、俺とユリン嬢はどちらの両親からもあっさりとNGが出されてしまった。
不満! 不満! 不満! そんな顔をした俺に母は言った。
「貴方達はゴフジョー辺境伯家の後継でしょう? その後継たる子供達だけでダンジョン探索なんて危険なマネ、許可出来る訳がないでしょう?」
「その上で尚行きたいと言うのであれば、頼れる大人を付けるなどダンジョン探索が安全であると我々に示すのだ。敢えてこう言おう。“冒険”はするなと」
ユリン嬢の父であるゴフジョー辺境伯家当主が、俺の母の言葉にそう重ねた。両家の両親ズ、何気に仲良くなってねぇか?
それはともかく、頼れる大人と言うのならば……俺は微妙と思いながらもシアの方に目を向けた。その視線を察知した義父が溜め息をつきながらNOと言った。
「シアならばダメだ。不十分と言わざるをえない。戦闘力自体はそこそこ高い娘ではあるが、まだ大人とは言い切れないからな」
「……ですかね」
残念ながら、それは俺も感じ取ってはいた。シアの精神年齢、ユリン嬢と大して変わらないのではと。肉体年齢は7つくらい差がありそうだけれど。
それを考えると、シアは戦闘面では頼りになったとしても、それ以外では微妙ということに……
「って、何もしてないし、何も言ってもいないのに、何か私のことを否定されてません?」
「シアはそのまま焦らず、成長してくれればそれでいい。それよりもユリンとインドール君にとっては今どうしたいのか、どう出来るのかが問題だろう? さあ、どうする? 諦めるか? それとも、我々を納得させる何かを出せるか?」
義父はシアのことは適当にあしらって、俺達にそう訊いてきた。ダンジョン探索の為にはどうするのがベストか?
ちょっと考え始めた俺の横で、ユリン嬢がハイッと手を挙げて答えた。……挙手って要りましたかね? まあ、それはどーでもいいとして。
「大人の冒険者に頼むのが良いと思います、お父様」
「だそうだ。インドール君、その案どう思う?」
俺に訊くんかい!
その案は俺もちょっとだけ考えはした。だが、言いはしなかった。良くないと思ったからだ、なぜなら。
「それはその、大人の冒険者次第になってしまうかと。見ず知らずの大人をつけると、その大人がダメな人や悪い人だった場合、危険性がさらに増してしまって良くないんじゃないかなぁと……」
「その通りだ。ユリンよ、知らぬ者は疑っておくくらいがちょうど良いのだぞ?」
「はぁ〜い」
そんなゴフジョー家父子のやり取りを耳にしながら、俺はどうするのが良いか考えを巡らせていた。
まず、知らない大人を付けるのはリスクが高いならば、よく知った大人を付ければ良いのではないかと。ただ、それは言うまでもなく難しいものだった。……よく知った大人、親と家の使用人くらいしかいなかったのだ。さすがに当主である我が父は出せまい。
じゃあ、どうするのが良いか。俺は考え、提案した。
「冒険者登録をして、実績を積むのはどうでしょう?」
俺達だけでダンジョンへ行ってはならないと言われるのは、俺達に実績がないからだ。コイツ等ならば安心して任せられるという実績を残したならば、ダンジョン探索の許可もきっと貰えるだろう。
……いつか。
「うぅむ、こちらとしてはそれで妥協して良いと思う。なぁ?」
「ええ、仕方ないですわね……」
俺の案に、まずゴフジョー辺境伯家当主夫妻が承諾した。義父が頷き、義母がそれに倣った。
それから我がバウルムーブメント家へと振った。
「こちらとしてもそれで依存はありません。ダイアも大丈夫だよな?」
「ええ、仕方ないですわね。何でもかんでもダメと言い張ると、この子のことですと黙って行ってしまいそうですし……」
父が承諾し、母が仕方無しに頷いた。母、この世界でもう9年もの付き合いになるので、俺のことも良く分かってしまっているらしい。
バレテーラと思わなくもないが、どの程度の実績で許可が貰えるのかという問題もあるが、とりあえず完全NGよりは万倍もマシであるに違いない。
俺はユリン嬢の方に向かって言った。
「と、そんな感じでいいかな?」
「ええ、いいわね。じゃ、早速冒険者登録ね! 行くわよ、インドール様! シア!」
ユリン嬢は俺の言葉で満面の笑みを浮かべると、俺とシアの手を引っ張って駆け出した。時は金なり、善は急げらしい。あ〜れぇ〜〜……
って、冒険者登録を何処でやるのかユリン嬢は知っているんですかね?
そんな不安を持ちながら去っていった、去っていかざるをえなかった俺の耳には、ぽそりと呟いた両親ズの言葉は届かなかった。
「討伐を伴う冒険者登録をするには、最低年齢がある筈だがな……」
「冒険者ギルドねぇ。この通りを真っ直ぐ行って、突き当たりを右に行って、しばらく歩いていくとその通りの左側にあるよ。両隣は確か……宿屋と酒屋だったかね」
「「ありがとうございます!」」
俺達は結局、冒険者ギルドへの道程を訊いた。テキトーに進んだ先で辿り着いた市で店を出していた女性に訊いたら、そう教えてくれた。
俺とユリン嬢で揃ってお礼を言って頭を下げると、その女性はとても驚いた顔をした。
「ここここ、これはこれはご丁寧に。ああ、ひょっとして貴族様でした? もももも、申し訳ございません! 無礼をしてしまいまして、あわあわあわ……」
「いえいえ、お気になさらないで下さい。この子達は両親の教えで丁寧な対応を教えられているだけですから」
突如慌てだし、パニクった女性に対し、シアがスッと前に出てそう言った。そして、嘘をついた。
「商家の子で、身分は平民ですので全然大丈夫ですよ」
「ええ、あたしがゴフ」
ゴフジョー辺境伯家の娘とユリン嬢が正直に言ってしまいそうだったので、俺は彼女の口を手で塞いだ。そこを正直に言ってしまうと、シアの気遣いが台無しだ。
貴族家の中には、平民を人として扱っていない連中も存在すると聞いたことがある。無茶振りや言いがかりはよくあることで、最悪不当に殺されたとしても罪に問うのは難しいらしい。
法の下での平等を謳っていた、現代日本の前世の記憶を持つ俺としては平民を見下す考えが理解不能だが、そんな俺が平民を虐げないバウルムーブメント伯爵家に生まれ、同じく平民を虐げないゴフジョー辺境伯家と関われているのは非常に幸運だったのだ。
といったことを考えながらも、俺はユリン嬢へ口元で人差し指を立て「しー」とサインを送った。もしくは、お口をチャックよ?
ユリン嬢は俺が言わんとすることを理解してくれ、うんうんと頷いた。そして、シアは改めて女性へお礼を言った。
「では、冒険者ギルドまでの道程をお教え頂きありがとうございます。では、私達は急ぎますのでここで失礼します。さあ2人共、行きますよ」
「はい、さようなら。坊っちゃんも嬢ちゃんもさようなら、またね。お姉さんの言うこと、よく聞くんだよ?」
店の女性はシアへ丁寧に、俺とユリン嬢へは小さい子へ接するような挨拶をした。まあ、俺達はまだ小さい子なんだけどね。
ユリン嬢はぶんぶんと大きく手を振ってそれに応えた。
「うん、ばいばーーーーい」
「はい、さようなら」
俺はその女性に小さく手を振った。
そんな俺達をシアは両手に繋いで、冒険者ギルドへの道程を歩いていった。その様は、俺から見てもまるで幼稚園の先生のようだった。
じゃ、さらにやってみようか。俺は空いた右手を掲げ、サッカー応援のコールのように声を出した。
「冒険者ギルドーーーー!」
「冒険者ギルドーーーー!」
そうすると、当然のように反対側から俺のマネをしたユリン嬢の声がした。
冒険者ギルドーーーーと俺がまた声を出すと、ユリン嬢もまたそれに倣った。それを何回かやった、特に意味はないけれど。とりあえず楽しくはあった。
そんな俺達に真ん中で挟まれ、シアは死ぬ程困った顔をしていたけれど。
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