01.03 :未来地図~インドール×クリスター~
名前 :未設定
体長 :12cm
重量 :140g
スキル:なし
「ステータスオープン!」
出来上がったウンゴーレムに向かってそう唱えると、ウンゴーレムの性能がツラツラと空中に表示された。ただ、家族達は不思議そうな顔をしていたので、それを見れるのは俺だけのようだ。
ただ……
「…………」
このウンゴーレムはとても戦える代物ではないように見えた。悪く言えば、ただの動くウ★コである。
家族達はさぞかしガッカリしただろう。そう思う俺だったが、母は俺の顔を覗き込んでこう訊いてきた。
「インちゃん、この子の名前はつけたの?」
「え、名前ですか?」
動いてはいるけれど、これはあくまでもウ☆コよ?
そんなものに命名するなんて普通じゃない。呼ぶなら『雲子』とか『運地』とかで良いのでは? などと思った俺に、母は呆れた顔で言った。
「普通のゴーレムにもね、魔術師達はちゃんと名前を付けるものよ。適当な名前ではダメ。ちゃんと付けないと、ちゃんと育てなくなるからね」
お前の授かった能力はこれなのだから、この脆弱さが不本意であろうとしっかり育成しろ。そのように言われたようだった。
……あれこれ試行錯誤はしてみるか。そう決意した俺は、まずはと名前を考えることにした。名前、名前、名前ねぇ……。ぶりぶり。ぼたぼた。ぶぶぶぶぶぶぶぶ。ぶ、ぶ、ぶぶ?
「命名、グアノ」
俺がウンゴーレムに向かって指をさしてそう言うと、ウンゴーレムはピカッと一瞬だけ光った。光っただけで何も変わってはいなそうだったが、ワンチャン何か変わっているかもしれない。
少しだけ期待して、俺はウンゴーレムに向かって再度ステータスオープンと唱えたが……
名前 :グアノ
体長 :12cm
重量 :140g
スキル:なし
変わったのは名前だけで、新しいスキルを得るなど何かしら変わるということはなかった。そんな上手くいくものではないが、それでもちょっと残念だった。
ウ◆コを連れて生活は出来ないので、俺はオマルみたいなものを一つ用意してもらい、その中へグアノをしまい、臭いので蓋をした上で部屋の片隅へと置いた。その上でこれからどうするのが良いだろうかと考え始めたところで……
「インドール! 今日の鍛錬を始めるぞ! すぐ用意するんだ!」
父が俺の部屋のドアを開け放ち、大きな声でそう言い放った。いや、だから、ノッk(以下略)。
父の能力は体術である。能力としてはごくごく有り触れたものだが、その分有用でもある。その能力で得たものを、兄の選定の儀があった3年前から俺達に残そうと、頻繁にトレーニングをさせるようになった。
父は政務で忙しくもあるので毎日にはならず、そして脳筋のような馬鹿なトレーニングもさせないので、俺としてはトレーニングをやらされること自体に問題はないのだが。
「兄上、おはようございま~す……」
「ああ、インドか。おはよ……う」
父に連れられてトレーニング場へ行くと、そこにはすでに疲れた顔をした兄がいた。兄は古い言い方をすれば、所謂もやしっ子だった。野山を駆けるよりも屋内で読書をするのを好むインドア派、文学少年だった。尚この館、この領都の近くに駆けることの出来る野山はないが、今その話はどうでもよろしい。
トレーニングは兄の望むところではなく、そのモチベーションも低かった。何かにつけてこう言っていた。
僕の能力は戦い向きじゃないしー。
領主には戦闘力は求められないですしー。
それを父も危惧していたのだろう。今日は突然こんなことを言い出した。
「今日のトレーニングは準備運動が終わったらクリスターとインドールで組み手を行う。木剣を使っての試合だ。それぞれ準備するように」
「え、どうしてです? そんなこと、今まで全く……」
兄は父へ駆け寄りそう反発したが、父は聞く耳を持たない。それはそうだろう。父はあれこれ考えてそう言ったのだし、簡単に翻るようならばそんなこと言ったりしない。
「クリスター、お前は勉学に関してはとても良くやっている。だが、武術に関してはそうではない。何かにつけて、戦い向きの能力ではないからとか、領主に戦闘力は求められないとか言って逃げておる。儂も自ら戦いに行けとは言わん。だが、もし悪しき者にお前自身が、お前の守るべき家族が襲われたらどうする? 自分は戦い向きではないと諦めるのか? 簡単屈するのか? それが良き当主か?」
「いいえ。いいえ! そんな筈がありません!」
婚約者である義姉がならず者に絡まれる様でもイメージしたのだろう。兄の目がやる気のないそれから、鋭いものに変わった。
父はその変化を満足そうなカオで見つつも、そこからさらに煽った。
「では、戦え。組み手でそれを見せてみろ。相手は奇しくもお前よりも年下で、現状戦いに向かぬ能力の持ち主の、弟だぞ?」
「勝ちます。僕はインドの兄ですから!」
兄は準備運動としてストレッチらしきものをしながら、父と話をしていた。
俺は特に話をすることもなく準備運動だ。準備運動と言えば、ラジオ体操だよな?
「モーモー体操第1!」
もーもーも、ももももっ、もーもーも、ももももっ……♪ ※伴奏は牛の鳴き声に変更となりました。
おうっし、にー、さんしー、もーもー、さんしー……
おうっし、にー、さんしー、もーもー、さんしー……
ラジオ体操をベースに牛っぽい動きを加えたオリジナル振り付けを即興で創り、踊ってウンゴーレムという能力的にはどうにもならなかったが、これはこれで良き準備運動にはなる。……多分。
そう考えた俺は、微妙に自己アレンジしたラジオ体操をきっちりと最後まで行った。とりま、準備OK。
「あんなふざけたような弟ですが、僕はインドの兄ですから! 僕は勝たなければいけないのです!」
兄は目を輝かせながら組み手を行うトレーニング場の中央へ行き、俺の方へ目を向けた。
はぁぁぁぁ。何で、そんなに熱血なんですぁねぇ? 俺は長い溜め息を1つ吐き出しながら、同じく中央へだらだら歩いていった。
まあ、これも兄の為なのか。そう思いながら父へ目を向けると、父は軽く笑った。
「そう言うことだ。インドール、お前も頼むぞ。兄を倒す覚悟でやるんだ。おうしないとクリスターの為にもならんからな」
「はいはい……」
おれはまた一つ、ゆっくりと溜め息をついた。
その様を見て、兄は激昂した。
「やる気を出すんだ、インド! だらけた態度は怪我の元だぞ!」
草だった。むしろ、大草原だった。お前がそれを言うかってレベルで。
大丈夫ですよぉ。俺はそう言いながら、左手で木剣をゆっくりと握り、右手を添えた。
父は俺達息子2人の様子を見て頷き、そして右手を高く掲げた。そして、宣言した。
「はじめっ!」
「兄の力を、見よ! そりゃぁああああああああっ!」
「…………」
兄はそう言って、木剣を振りかぶって真正面から突進してきた。え、猪なん?
俺は上段からの振り下ろしを木剣で左に受け流し、それと同時に右足で兄の腹へ蹴りを入れた。蹴りはマトモに入り、兄は呻き声をあげながら少し蹲った。
俺は右足を地に戻すと、木剣の受け流しの遠心力のままに体を一回転させ、木剣も一回転させ……
そこで止まった。
「それまで!」
父はそのタイミングで組み手を終了させた。あっと言う間ではあったが、まあ、ソウデスヨネー?
兄はその顔に不満を露わにして文句を言うが。
「父上、何でこれで終わりなんですか? 僕はまだまだやれます!」
「ふぅぅ。気付かんかったか? インドール、教えてやれ」
「え、俺!?」
溜め息をつきつつ、父は俺に丸投げした。ああ、そこでうんうんと頷くんじゃねーよ。
俺は頭をポリポリかきながら、兄へ説明した。
「俺が兄上の腹に蹴りを入れた後、俺はすぐさま体を翻しました。こう!」
「……えっ?」
俺はさっきの動きを再現して見せた。木剣と共に回り、その木剣はピタリと兄の首筋へ……
これがどういうことか分かった様子だったが、オレ明確な言葉にした。
「これは組み手だからそこで止めましたが、これが通常の戦い、殺し合いだったら止まらずに兄上の首は飛ばされたでしょう。ぽーんっと」
「飛ばされたな、ぽーんっと」
父も俺の言葉に乗っかった。…乗るんじゃないよ。
兄は俯き、地面を叩いて悔しがるが、父はそんな兄へ厳しい言葉を投げ掛けた。
「いいか、クリスター。このバウルムーブメント伯爵家の当主となるならば、お前はもっともっと強くならねばならん。儂はいずれ年老いるし、インドールは他所の家の婿となる。助けてくれる者が常に傍にいるとは限らんのだぞ」
「は、はい……」
貴族の家の当主が最前線で戦うケースはまずもってない。それは将棋で王将が最前線に出て来るような、話にならない戦い方だ。よって、戦いになっても重要なのはいかに良い駒揃えるか、いかに良い戦術を用意出来るかなので、父の言葉はさして重要でもない。ただ、王将が自分の身を守れれば尚ベターでもある。
兄は自身がピンチに陥る様をイメージしたのだろう。俯きながらも立ち上がり、木剣を持って握りを確かめた。
兄は根本的に真面目な性格である。良くも悪くも、クソがつくくらいに真面目な性格である。その性格で、これからはもっとトレーニングに身が入るに違いない。
そんな兄の性格を父も分かっているので、兄の様子を見て父はニヤッと笑った。
「そうだ、クリスター。もっと励めよ」
父は兄に向かってそう言うと、視線を俺の方へ変えた。そして、言ってきた。
「インドールよ、お前もゴフジョー辺境伯家に入る予定の身、もっともっと強くならんといかんぞ」
「え? まあ、そうでしょうけど……」
「どうれ、儂がどのくらいなのか見てやろう。さあ、儂と組み手だ!」
「!?」
俺は続けて父とも組み手をやらされた、強制的に。
父の能力は体術、俺はウンゴーレム。あっと言う間にボコボコにされたのは言うまでもない。
……つか、DVじゃね? 訴える機関、この世界にないけど。
俺の能力も強さを思い切り出せるものではなく、DVがないのと同様に厳しいものだが、それでもベストを尽くしていかなければいけないだろうな。明日からも頑張っていくとするか。
闇の中でも藻掻き、そこそこ頑張ろう。俺達の戦いはこれからだ! みたいなことを思った俺ではあったが……
次の日に前日と同じような快食快便ハッピーセットのウ◇コを生み落とし、ウンゴーレムの能力を発動させてみたところ、昨日とは違う変化が起きた。
『新規ウンゴーレムを作成しますか? 既存のウンゴーレムへ組み込みますか?』
頭の中にそんな声が響き渡った。
既存に組み込む? どういうことだ? 一瞬、どういうことだか分からなかったが、既存のウンゴーレムというのは昨日作成したウンゴーレム、グアノだということは分かった。
ああ、そうか。これをグアノの一部に出来るということか? 少し考え、そうではないかと予想した俺は、トイレに昨日作成したグアノを素早く持ち込んだ。そして、言葉にした。
「既存の、グアノに組み込む」
俺がそう決めると、俺のウ▼コはみゅちゅみゅちゅと動き始め、既存のウンゴーレムであるグアノへと突っ込んでいった。ウ▽コはグアノにぶつかるとグアノと一つになり、グアノは一回り大きくなった。
俺は少し期待を抱きながら唱えた。
「ステータスオープン!」
名前 :グアノ
体長 :20cm
重量 :260g
スキル:なし
「よっしゃぁっ!」
グアノはちょっと大きくなって、ちょっと強くなった。それはこの能力における未来に光が差したようで、俺は思わず声を上げてガッツポーズをした。このまま果て無く大きくなったらどうするん? とは一切考えずに。
そんな希望が湧き出て来た俺に水を差す、リーピング・イヤーにウォーターな手紙が婚約者であるユリン嬢から届いた。その内容は一言にすると……
婚約を解消してほしい、だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。