第15話
隠し通路に入って進み続けて暫くした後、背後から何かが動くような音がして、後ろから入り込んで来ていた陽の光が消え視界が暗闇に包まれる。
「灯りになるものを持ってくれば良かったかな」
そう一人呟きながら、足音だけが響く静寂の中足を進める。
時折ある階段に躓いたり、バランスを崩して転げ落ちそうになるけれど、徐々に手元に長い棒のような物が触れたらそこに階段があると気付いたお陰で、今は比較的安全に移動が出来ていた。
「お父様からは道なりに進めば出口に辿り着くと言われたけど……」
暗闇の中に身を投じてからどれくらいの時間が経過しただろうか、十分?三十分?それとも1時間?何も見えない空間のせいか体内時計が狂ってしまい、とてつもなく長い時間歩いているような錯覚を覚える。
この中を進んでいる間、戻って来たあの人は何を思うだろうか……脱ぎ捨てられた服、そして平民の服を着て化粧をする為に多少汚してしまった部屋。
もしかしたら誘拐されたと思うだろうか、そう思わせてしまったなら申し訳ない気がする……特にお母様に知られてしまったらショックで寝込んでしまうのではないだろうか。
「でも、それでも私はステラに会いたいの」
更に歩みを進めて暫くした時だった。
遠くに何やら光の柱のような物が見える……多分あれが出口なのだろうか。
そう思い足早に進むとそこにあったのは……
「……ロープ?」
周囲が丸い壁に覆われた小さな部屋の上から一本のロープが垂れていた。
その先端に当たる部分には木で出来た桶のような物が括り付けられていて、これが何の為に使われる物なのか私には分からないけれど、きっとこれを使って登れと言う事なのだろう。
ふと普段着ている服でここまで来ていたらどうなっていただろうか考える、貴族が着る華やかな衣装でロープを登ろうとしたら間違いなく破けたりしてしまう気がする。
そうなっていた場合、作ってくれた方に失礼な気がして、お父様が用意してくれた平民の服装に触れてみると、生地が厚くてとにかく頑丈……つまりある程度雑に扱っても問題無いように出来てるそれは、平民の人達が長く使えるようになっているのかもしれない。
「けど……どうやって登ればいいのかしら」
ロープを掴んで登るなんて事を今まで経験した事が無いからどうすればいいのか分からない。
町にいるステラの子供達は、木に登ったりして遊んだりしていると以前教わった事があるけど、それなら登り方も教えて貰えば良かった。
そう思いながらロープを両手で掴んで試しに引っ張ってみると
「来たみたいだね……、マリス!両手で強くロープを掴んだ後、脚で挟んで捕まった後じっとしてるんだよ!」
「え?あ、お父様!?」
上からお父様の声が聞こえ、急いで言う通りにすると上からカラカラと何かが動くような音がして私の身体が浮遊感に包まれる。
そして凄い勢いで上に引っ張られて行ったかと思うと、私の隣を鎧を着た人が通り過ぎて先程まで居た場所に着地したかと思うと、目の前の景色が変わり辺り一面が草木で覆われた場所に切り替わった。
「お父様っ!お父様!?」
「マリス、私はここだよ」
「お父様!?」
声がした方を見ると、髪色を黒く染めて平民の服の上に、何かの動物の皮で出来た胸当て等を装着し腰のベルトに剣を差したお父様がいて、私の身体を抱きかかえた後ロープから身体を離すように指示をすると、ゆっくりと地面へと降ろしてくれて……
「ここは?あの……さっきの人は?」
「彼は私の友人だよ、子供の頃何度かお忍びで町に行ってる時に仲良くなってね、それ以来モンスター狩りとかをする際やこういう行けない遊びをする時に助けて貰ってるんだ」
「あの……平民の方に隠し通路の場所を教えてしまっていいの?」
「あぁ、彼なら良いんだよ……、マリスの部屋は私が子供の頃に使ってた部屋でね?良く彼もあそこを使って遊びに来てくれてたんだ」
「……お父様が子供の頃って、凄いやんちゃだったのね」
今でこそ落ち着いたというか、くたびれた大人のような雰囲気があるけど……子供の頃のお父様は今とは違い凄い活動的でやんちゃな性格をしていたのかもしれない。
そう思うとギャップが凄すぎてどんな反応をすればいいのか分からなくなりそう。
「もしかして私が着ているお下がりの平民の服って……」
「彼がぼくの為に用意してくれた服だね……しかしサイズが合うか分からなかったけど、合ったみたいで良かった、それに通路を通ったおかげで大分平民っぽい感じになったね」
「え?」
「土の汚れとかが良い感じに服や髪に付いて、農作業を手伝ってる子供みたいにちゃんと見える」
それってもしかして今の私って凄い汚れているのでは?そう思い自身の腕とかを見ると確かに汚れていて……凄い恥ずかしい気持ちになる。
今までそんな経験が無かったからかもしれないけど、平民の人達はこれが普通なのだろうから、これからもお忍びで行く以上早めに慣れた方がいいかもしれない。
そんな事を思っていると、お父様が周囲に落ちている四角く切り抜かれた石を縁に置いた桶の中に入れて行く。
そしておもむろに私が出て来た穴の中に桶を降ろすと、上からカラカラと音がなりさっき降りた鎧を着た男の人が上がって来ると、私に向かって腕をあげ挨拶をした。
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