第6話
アーロからヘルガの話を聞いて、出来る事なら直ぐにでも会いたくなった。
けれど、いきなり訪ねてこの話をしても理解が出来ないと思うから、今は私から接触するべきでは無い。
「んじゃ、話しはこれくらいにして俺はもう部屋に戻って休むわ」
「……え?」
「え?ってそりゃ……いくら、防音の魔法が施されてるからって、何時までもここにいるわけにはいかないだろ?」
「……うん、それはそうね」
自分の秘密を打ち明けたからだろうか、何故だか彼が自分の部屋に戻ると聞いて寂しい気持ちになる。
アーロに対して、これと言って特別な感情を持ってはいないけれど、それでも内に秘めて物を共有したからかもしれない。
「うん?もしかして、一人だと寂しくて眠れないとか?」
「何を言ってるの?そんな訳ないじゃない」
「そうか?まぁそれならいいけど、ちゃんと明日に備えて寝ろよ?」
「えぇ、アーロもしっかりと休んでね……、私の使用人兼従騎士が寝不足で体調を崩すとかあったら笑えないわよ?」
「大丈夫だって、俺は寝つきだけはいいからな、んじゃまぁ、おやすみ……また明日な」
彼が部屋を出て行って一人きりになると、特にやることが無いからベッドへと向かい横になると備え付けられているベルを鳴らすと、部屋に灯っていた灯りが消え暗くなって行く。
そして目を閉じて明日の事に関して思考を巡らせる、ヘルガに関してはアーロが言うのだから信頼がおける人物だとは思うけど、信用出来るかどうかはまだ分からない。
けど、異性の理解者とは別に、やっぱり同性の理解者も欲しいと思ってしまう。
他には──
「──リス様、マリス様!起きてください!」
「んん……」
聞き覚えのない声の持ち主に身体を誰かに激しく揺すられている。
いったい何事かと思ってゆっくりと目を開けると、黒い髪に茶色い瞳そして薄手の鎧に身を包んだ女性が立っていた。
「マリス様!」
「……え?」
「良かった、起きたのですね……」
女性が安心したような表情を浮かべると、ゆっくりと私の側から離れて腕を胸に当てて深く頭を下げる。
「えっと……」
「朝にアーロが起こしに行っても部屋からの反応が無いという事で、初めての長旅で疲労を溜めてしまったのだろうというリバストの判断でおやすみしてそのままおやすみして頂く事にしたのですが、昼時になっても反応が無いので止む負えず勝手に入らせて頂きました」
「あっ……」
昨晩アーロとの会話が終わった後、防音の魔法を解かずにそのまま寝てしまったせいで、起こしに来ても気付かずにそのままずっと寝てしまったのだろう。
それにもう昼時になっても反応が無いという事は午前中の旅の準備を全て、お母様や護衛騎士の人達に任せてしまったという訳で、凄い申し訳ない気持ちになる。
「あ……えっと、ごめんなさい」
「いえ、全ては私の一存での行動ですのでお気になさらないでください」
そこまで言われてしまったら、これ以上謝罪するのは良くないだろう。
そう思いながらベッドから上半身を起こして、彼女の事を良く見ると何となく見覚えがある気がする。
昨晩のやり取りから思い出してみると、多分この人は……
「もしかして、あなたはドニ町長の娘のヘルガ?」
「え、えぇ……」
「昨日アーロから、ヘルガの話を聞いたの……、ドニ町長の六番目の娘さんが護衛騎士として王都への旅に同行してくれているって」
「あぁ、なるほど、アーロから話を聞いていたのですね、それなら詳しい自己紹介は必要なさそうですが……、一目で分かる程に私は父に似てますか?」
「えぇ、優しそうな目つきとか特に、ドニ町長でそっくりで見ていて安心出来るわ」
私の言葉を聞いて、ヘルガが嬉しそうに笑う。
「ありがとうございます、私はどちらかというと母親に似た方なので、尊敬する父と共通点があると言われると嬉しいです、それにリバストから聞きましたが本当にマリスお嬢様は、私達の事を名前で呼んでくださるのですね」
「お世話になっているのだから、名前で呼ぶのは当然では無くて?」
「……その気遣いが、どれほど私達護衛騎士にとって嬉しい事か、雰囲気はアデレード様に似ておられますが、心優しいところがマリウス様に似たのですね」
「そう言って貰えると私も嬉しいわ……、そういえば昼時と言ってたけれど、今は何時くらいなの?昨日の話だと出発時刻もそれ位だったと思うのだけど」
昼時まで寝ていたという事はもしかしたら、出発までの時間が短い可能性がある。
もしそうだったらお母様や護衛騎士達を待たせるわけにはいかないから、ネグリジェ姿のまま馬車まで急いで移動して、着替えは……アーロに肌着姿を見られる事になるけど、その場で着替えるしかない。
「出発時刻まで、先程の会話で結構経過したので大体後四半時位です、既にアデレード様や他の護衛騎士及び、専属使用人兼従騎士のアーロは準備を終えて、マリスお嬢様の起床を待っている状況です」
「それって、寝坊どころではないわね」
「えぇ、なので……初めは専属使用人のアーロが最初は起こしに行こうとしてました、……マリス様のお着換え等のご支度を手伝う為に、独断で判断して参りました、異性に肌着姿を見られるよりも、同性の方が安心できますから」
ヘルガはそう言葉にして、近づくとゆっくりと抱き上げるようにベッドから降ろしてくれる。
そして、部屋に置かれたカバンから私の着替えを取り出すと邪魔にならないところに丁寧に置き、着替えやすいように両腕を上にあげるように指示を出す。
私はその言葉に従うと、されるがままに着替えを始めた。
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