第5話

「つまり……マリスは、以前の人生では魔族にそそのかされたせいで、この本に封じられている魔王になっていたって事か」

「ちょっと違うような気がするけど大体はそうかも?」


 話を聞き終えたアーロが、痛む頭を抑えるような仕草をしながら理解出来ただろう所を確認するように聞いてくる。

けど……実際には、封じられている魔王になったというよりも、私自身が魔王になっていたというべきで、何て言うか説明が難しい。

だって、当時は自分の意思がちゃんとあったというのも理由に上がるけど、今思うとあれは本当に私だったのだろうか。

王族を殺害する時に、身体が自分の意思に反して動いてしまった時のあれは、本に封じられた魔王の意思によるものだったのかもしれないし、もしかしたら側にいた魔族が使った魔法だった可能性がある。


「あぁ、何て言えばいいのか分からねぇけど、話しの内容が難しくてそこまで俺の頭には入って来ねぇって言うか、取り合えず細かい事は分からないけど、マリスがこの本のせいで何度も死んでは人生をやり直してるのだけは分かった」

「……うん、それでここを見て欲しいんだけど、アーロって文字を読めたっけ?」

「母さんから簡単な読み書きは教わったり、使用人見習いの時に先輩からも教えて貰ったから難しい文字以外は読めるぞ?まぁ……騎士の教養に関しても読めた方がいいって事で、毎日一冊は本を読むように言われてるかな」

「じゃあ、大丈夫そうね」


 本のページを捲ると、今までの領主達の死因とやり直しを行った回数が細かく書き記されているところを開く。

お父様は数える程しか死に戻りをしていないけれど、祖母は数えるのが不可能なくらいにやり直している。

まるで死んで直ぐに1時間もしないで再び死亡していたりと、まるで常軌を逸しているとしか言えないほどで、それに比べて私はまだお父様以上、お婆様以下だから少ない方なのかもしれない。


「まじかよ、母ちゃんが殺されたのが理由で死亡ってなんだよこれ」

「これには色々とあったのよ、けど結果的にステラが今は生きていて無事に使用人にに戻れて良かったわ」

「……これは、もっとまじめに頑張らねぇとダメそうだな」

「ん?アーロ?」


 何か覚悟を決めたような表情をしているけど、そこまで難しく考えなければいけないような事があっただろうかと思うけど、アーロからしたら気持ちを引き締めなければいけない事があった可能性がある。

それなら、何を言うのか見守った方がいいだろう。


「つまり、マリスは俺と母ちゃんの恩人って事だろ、なら今まで以上にちゃんとしないとダメじゃねぇか」

「何を言ってるの?今でもあなたはちゃんと頑張ってるじゃない」

「おまえが言ってくれてるならそうかもしれないけど、俺からしたら今のままじゃダメなんだよ、だからさ……こうやってタメ口で話すのは今日で最後にしようと思う」

「私は気にしないけど?」

「気持ちは嬉しいけど、俺は将来マリスの護衛騎士になるんだぞ?ほら、少し前にも言ったけど、こういうのは普段から気を付けた方がだろ?」


 確かにそうだけど、そこまで堅苦しいのは期待していないんだけど……

けど、本人がそこまで言うのならやらせた方がいいだろう、それに私にはアーロの主人として、彼を教育をしなければいけない責任がある。

だからやる気があるのなら、やりたいようにやらせて見守るのも必要だと思う。


「なら、明日から言葉遣いに関して少しでもおかしいところがあったら、私も指摘するようにするから覚悟しなさい」

「おぅ、どんどん言ってくれよな!……さて、俺に関しての話はこれくらいにして、王都までの経路についての話なんだけどさ、試しにそのまま行ってみるとかどうだ?」

「……そのまま行く?どうしてそうなるの?」

「だってさ、今回は人数が多いから前回とは日程に違いがあるだろ?だったら、王子に合わなくて済む可能性があるんじゃないか?」


 シルヴァに会わない可能性?、確かにその理屈ならあるとは思うけど……、逆に盗賊に襲われた後の彼に出会ってしまうのもある気がする。

あの人の実力的に野盗程度なら問題無く返り討ちに出来ると思うけど、当時の事を思い出すと、護衛は全員殺害されてしまっていたし、彼も少なからず手傷を負っていたいた。

だから、もしかしたら、シルヴァよりも実力のある相手が居た場合、彼も殺されてしまう可能性があるわけで、道中で死体を見てしまう可能性が……


「……ちょっと、考えさせてくれる?」

「ん?なんでだ?」

「もしかしたら、シルヴァの死体を見てしまうんじゃないかなって思うと怖くて」

「死体をって……まじかよ、それなら尚の事急いで向かった方がいいんじゃねぇか?それでシルヴァ王子の事を助けて一緒に向かうべきだ、あ……大丈夫か」

「え?大丈夫ってどういう……」


 どうしてアーロが大丈夫だと言えるのだろうか。

当時の事をこの目で実際に見て知っているのは、私だけなのに……何を根拠に?


「ほら、マリスが学園に行かなかった際の出来事があるだろ?その時ってシルヴァが生きていたわけだし、野盗に殺されなかったって事じゃないか?」

「あ、そっか……、うん良かった」

「けど……その顔、気になってるみたいだな」

「……うん」

「そりゃそうだよなぁ、以前の人生で婚約するくらい仲が良くなった相手が死ぬかもしれないって一度でも思ったら心配になるし怖くなるかもだよな……、俺は死に戻り何て言う恐ろしい経験をした事無いから、全てを分かってやる事何て無理だけど想像するだけで身震いするよ」


 アーロが実際に立ち上がって全身を震わせるような演技をすると、今度は笑い始める。

そして私の方を見ると肩に手をおいて……


「だからさ、今はまだ頼りないかもしれないけど、出来る限りは俺がマリスを死なせないように努力するし、おまえが好きだったシルヴァ王子の事は助けた後に極力会わせないようにするから安心して、俺と護衛騎士達に任せろ……それに今回の旅に同行している騎士の中には、俺が日頃良くして貰ってる人もいるしな、多分……その人に頼めばリバストさんも協力してくれると思うし」

「日頃良くして貰ってる人?それって誰なの?」

「ドニ町長の6番目の子で、次女に当たる人だよ……名前はヘルガって言うんだけど、怖いけど面倒見が良い姉ちゃんだよ」


 ドニさんの娘が護衛騎士として同行している?、お母様からそんな話を聞いた事が無い。

たぶん言う必要が無いと判断されたのだろうけど、出来れば知っておきたかったという気持ちになったけど……、それ以上にアーロ以外にも頼れそうな人がいる事に安堵感を覚えた。

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