第19話
出来ればこの人生では会いたくなかった。
見覚えのある金色の髪に、青い瞳……そして以前の人生で初めて出会った時と同じ……
「もしよろしければ、ご息女様のお名前をお伺いさせて頂いてもよろしいでしょうか」
「……何だおまえ、身分を明かせないとか言う割には偉そうだな?」
「……君は?」
「俺はこの方の専属使用人兼、従騎士だ、将来は護衛騎士として仕える事が決まっているアーロだ」
アーロが私の事を守るように前に立つと、シルと名乗った彼を睨みつける。
……彼がこの国の王子だと知ったらどんな反応をするのだろうか、そんなことをふと思ってしまうけど、私を守ろうとするのを見て頼もしく感じてしまう。
「アーロ君だね、確かに俺の行動は失礼だったと思う、こちらが身分を明かせないというのに君の主人に対して名前を尋ねて申し訳ない」
「……お、おぅ、まぁ分かればいいんだよ分かれば」
「ただそうだね、主人を守ろうとしているとはいえ、初対面の相手に高圧的な態度を取ってはいけないよ?もしそれが自身よりも地位が高い相手だった場合に問題が起きたら君だけじゃなくて、君が仕えている人が責任を取る事になってしまうからね」
「な、なんで俺が怒られてるんだ?」
シルヴァ、いや……シルの言うようにアーロの対応の仕方に問題があったかもしれない。
けど身分を隠してると言うのなら、自身の立場を匂わせるような行動は控えて欲しいって思う。
だからここは性格が悪いかもしれないけど、ちょっとだけ仕返しをしてしまうのもいいかも
「名乗りが遅くなってしまい申し訳ございません、私はピュルガトワール領の領主の娘、マリス・シルヴィ・ピュルガトワールと申します」
「マリスだね、それにシルヴィか……覚えたよ」
「そして国の太陽である王子、シルヴァ・グラム・ファータイル様にご挨拶を申し上げ、こちら側の非礼に対してお詫び致します」
ドレスのスカートの裾をわずかに上げ挨拶をすると、シルヴァ王子の先程までの余裕がある表情が消え、鋭い目つきでこちらを睨みつけて来る。
「君はどうして、俺の名前を知って……」
「どうしてって……ピュルガトワール領の領主は、血統魔法の力で勘が鋭いというでしょう?それで何となくですが、この国の王族の血を継ぐ者特有の青い瞳を見て、シルヴァ王子ではないかと思いまして」
「ピュルガトワール家には隠し事が通じないとは、代々貴族の間で伝えられてはいるのは知ってはいたけれど、まさか……本当の事だったなんてね」
「ふふ、どうやら当たっていたようですわね」
「……このような形で身分が明かされてしまう事になるなんて思いもよらなかったよ」
シルヴァ王子はそう言葉にすると、ゆっくりと頭を下げる。
「マリス、こちらこそ非礼を詫びさせて貰うよ、訳があって身分を隠していたとはいえ、申し訳なかったと思い反省している……先程までの行動を許しては頂けないだろうか」
「え!?あっ!シルヴァ王子!?」
まさか王族である彼が出会ったばかりの相手に、頭を下げて謝罪をするとは思わなかった。
「野党に襲われ護衛の者達を喪い、精神的に余裕が無かったが故の焦りとはいえ……」
「あの、あ、頭を!頭をお上げください!」
「いや、君が許してくれるまでこの頭を上げる事は出来ないよ、本来であればこの身を保護して貰い、更には一宿の恩まで貰ったというのに、先程の俺の態度は本当に間違えていた、何度謝罪をしても足りないくらいだ」
「分かりました!分かりましたから!許しますので頭をお上げください!」
貴族の娘が、この国の王子に頭を下げて謝罪をさせたなんて、他の人達が見たらどうなるのだろうか。
考えられる範囲では貴族主義のお母様がその事を知ったら、顔を真っ青にして倒れてしまうだろうし、普段は落ち着いていて冷静なお父様も焦って平静を保てないだろう。
それに……私も、前の人生で婚約をする程に親密な関係になった人に、頭を下げさせるような事はさせたくない。
けど、そんな私の思いを無視するかのように、険しい表情を浮かべたアーロがシルヴァ王子へと向かって歩いて行き……
「シルヴァ王子だっけ?本当に謝罪してるのか?」
「アーロ?」
「……え?勿論反省しているさ、だからこうやって頭を下げてるんだよ、王族は軽はずみに下の立場の者に謝罪をしてはいけないのにしているのがその証拠だよ」
「それならあれこれ言い訳をしてんじゃねぇよ!俺は平民の出だから難しい事は分からないし、マリス様の専属使用人や従騎士としてはまだ未熟だから、偉い人に対して何て言えばいいのか分からないけど、悪い事をしたと思ったら、ごめんなさいって謝るだけでいいだろ!一々長ったらしいんだよ」
今まで従騎士として学んできた事をかなぐり捨てるように声をアーロが声を荒げると、シルヴァ王子の肩を勢いよく押して尻もちを付かせる。
何て事をしているのか理解で追い付かなくて思考が止まってしまう。
だって、そんな事をしたら今この場で厳しい処罰を下されてもおかしくないし、そうなってしまったら、アーロの事を庇う事は私には出来ない。
「け……けど、王族と貴族の間ではこれが普通で、君も従騎士という事は将来は騎士となり準貴族になるのだろう?だから──」
「言い訳をするのか!素直にごめんなさいって謝って終わりにするのかどっちなんだよ、はっきりしろ!」
「アーロ、この国の王子様にこれ以上は……」
急いでシルヴァ王子に近づいて、身体を支えて立ち上がる補助をしようとした時だった。
まるでそれを止めるかのように手を出すと、一人でゆっくりと立ち上がり……
「いや……いい、確かに、彼の言う通りだね、改めて謝罪をさせて貰うよ、えっと」
「悪い事をしたら、ごめんなさいだ!」
「そう、ごめんなさいだね、マリス……悪い事をして嫌な思いをさせてしまい、ごめんなさい!」
この国の王子であるシルヴァが声を張り上げ謝罪をしながら深々を頭を私に向かって下げた。
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