第18話
「何だよ脱がそうとしたくらいで大声あげるなんて男らしくねぇ」
「……ごめんなさい」
「町の男なら下さえ履いてりゃ文句言われねぇのにさ」
上着を脱がされた時に思わず大きな声を上げて自分の身体を両腕で隠してしまってから、部屋の中では気まずい雰囲気になってしまった。
そもそも女性を男性だと思って脱がそうとする方が悪いと思うし、脱がした後も男性だと思ってるのはどうかと思う。
……貴族は婚姻関係を結んだ相手以外には気安く肌を晒すなと、お母様から言われて来たのもあるけど、あんなに乱暴な事はしなくてもいいんじゃないかな。
男性同士でもそんな相手の服を強引に脱がすなんて普通はしないんじゃないかって思うけどもしかしたら、私の考え方がおかしいだけなのかも……
「あの……」
「あぁ?何だよ」
「私……女の子なんだけど」
「はっ?何いってんだよ、女はあんな服着ねぇし、そもそも畑仕事は男の仕事だぞ?変な事言ってんじゃねぇって、ほら!ちゃんとついてるもんついてん……だ、ろ?」
彼の手がいきなり私の下半身へと伸びると力強く叩く。
何が起きたのか分からなくて、身体が強張って固まってしまう。
あぁ、人って頭で理解できない出来事があると声すら出ないんだって心のどこかで冷静な私がいて、でもどうしてそんな事をされなければいけないのかと、理不尽から来る怒りが込み上げて来て……
「あ、ごめ……ほんとに女だって、俺思わなくて……」
声を震わせながら数歩後ろに下がるステラの息子に向かって反射的に腕が動く。
そして彼の頬を叩くと、乾いた音が室内に響き渡って……
「……最低」
「ほんとごめん」
「初対面の女性を脱がしただけじゃなくて、いきなり下半身に触るとか何を考えているの?ステラはあなたをそんな子になるように育てたの?」
「か、母ちゃんは悪くねぇよ……ただ俺が馬鹿だっただけで、あぁもう!ほんとごめん!責任取るから許してくれ!」
「……責任?」
叩いてしまった頬が真っ赤になってるのを見て痛そうに感じるけど、それ以上に顔を真っ赤にして責任を取ると言ってくる彼を見て、いったいどうしようとしているのか興味が沸いてくる。
身分を隠しているとはいえ、貴族……それもこの領地を治める領主の娘に手を出したのだから、責任を取るとなったらそれこそ物理的に首が飛んでもおかしくない。
けど平民同士の場合はどうなるのだろうか……今まで経験した事が無いから分からないけど、こういう時ってどうすればいいのだろう。
「俺がお前を嫁に貰って一生大事にする!俺の家は親父が残した畑は兄貴が継いだから、俺は将来町長と一緒に年に数回、領主のお勤めに同行して森に入ってモンスターを間引くとかしかやる事ねぇけど……それ以外の時はずっとお前の面倒を見るし、ずっと一緒にいる!だから俺が大人になったら責任を取るから夫婦になってくれ!」
「……は?え?ちょっと」
「いきなりだって言うのは分かってる!けどそれ位でしか、責任取れねぇって思う位の事やっちまったから俺に責任を取らせてくれ!」
「あの……えっと」
責任取るから嫁に来いって、あなたは平民は私はこの領主の娘で未来の領主なのに何を言ってるのか、理解が追い付かないしいきなりそんな事を言われたせいか、顔が燃えるように熱い。
どう返事したら良いのか分からないし、それに……断るにしてもどうすればいいのか分からなくて、頭の中が混乱しているのか思考が落ち着かなくて物理的に火を噴き出しそうになる。
「もう!大声で何を騒いでるの?外にいても聞こえるわよ!?」
「あ……か、母ちゃん!?」
ステラの息子が私の手を両手で掴んだ時だった。
玄関が勢いよく開いたかと思うと、懐かしい声が聞こえて足音を立てながら向かってくる。
「もしかしてお友達でもいるの?家に入れるのはいいけどもう少し静かにしなさ……え?」
「母ちゃん……これは」
「……マ、マリスお嬢様!?」
「ステラ……私が分かるの?」
「えぇ、分かりますとも……幼い頃からずっとお仕えしてきましたから……」
あの頃と比べて背丈も伸びたりしているのに、平民に見えるようにお化粧をしているのに……ステラは私を見て直ぐに気づいてくれた。
久しぶりの再会と余りの嬉しさに思わず瞳に涙が浮かんで来てしまって……
「げっ!おま、母ちゃんの前で泣くなよ!これだと俺が……」
「……アーロ、あなたマリスお嬢様を脱がせて何をするつもりだったの?」
「あ、いや……これは、汚い服を着てたから俺の服を着せてあげようかなって」
「それでマリスお嬢様を脱がせたの?」
「ってか、マリスお嬢様って……何で領主様の娘様の名前を呼ぶんだよかーちゃん、こいつは平民だろ」
アーロと呼ばれたステラの息子が、私を指差して言うけど……こればっかりは彼の言い分の方が正しい。
普通に考えたら平民の家に領主の娘が入って来る訳が無いのだから……
「……アーロ、この方はね?正真正銘この領地を治めるマリウス・ルイ・ピュルガトワール様の一人娘、マリス・シルヴィ・ピュガトワール様よ」
「え、ま……まじかよ、んじゃあ俺、そんな凄い人に失礼な事したから責任取って嫁にするって……」
「嫁にする?あなた……マリスお嬢様にそんな事を言ってしまったの!?お許しくださいマリスお嬢様っ!私の息子は悪気があって言った訳じゃないの!だから、どうか……どうか領主様にはご内密にっ!」
ステラがアーロを抱きしめると、私に向かって必死に頭を下げる。
そんな事をしなくてもお父様には何も言わないのに……
「ステラ、頭をあげて頂戴」
「はい……マリスお嬢様」
「今回私はお忍びで平民に見えるように服装を選び、この通り日焼け後に見える化粧などをして変装をしてステラに会いに来たの……だから、これに関してはお父様に言うとかはしないわ?それに……」
「……それに?」
「アーロのやった事に関してしっかりと責任を取ろうとする姿勢は立派だったもの……、だから彼が大人になったらお屋敷で雇う事にしたわ、だって責任を取ってくれるのでしょう?それなら私の護衛になってちょうだい?」
私はアーロとは身分が違うから夫婦にはなれないけど、彼を護衛として側に置く事は出来る。
それが大好きなステラの息子なら安心して任せられるだろう。
初対面こそ最悪だったけど……あの責任を取ると真剣な顔で言ってくれた彼を信じて、今のうちに私の味方にしてしまった方が良い、何となくそんな気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます