第17話

 まさか馬車を運転していた方が、この町の町長だ何て思わなかった。

金属鎧を着こんで顔も兜で全体を隠されていたから、町を守る役割の人だと思ってたけど、まさか予想以上に地位が高い人で思わず無言になってしまう。


「お父様、あの方ドニ町長って呼ばれてますけど……」

「そうだよ?彼は私の友人で尚且つこの町の町長ドニ・レガート、定期的に私がモンスター達の間引きをするために森に行く際に戦える領民を率いて参加してくれる、優秀な護衛でもあるかな」

「どうして……そんな優秀な方だと教えてくださらなかったの?」

「最初から説明していたらマリスはドニを、町長という肩書を持った相手として扱うと思ったからね……敢えて言わずに平民であり私の友人として紹介したんだよ」

「まぁ、町長って実際、ただこの町で一番偉いってだけで中身は平民なんだけどな!」


 私達の話を聞いていたドニが、そう言葉にして大きな声で笑うけど……この領地における町長や村長等の役職に就いている人達は皆、お父様から直々に任命された信頼がおける人物という事だから、例え立場が平民だったとしても失礼な態度を取るわけには行かない。

もし私が変な事を言ったり、失礼な事をしてしまって怒らせたり、失望させるような事があったら、将来この領地を継いだ際に信用を失ってしまう。

そうなってしまったら、幾ら人生をやり直したとしても取り返しがつかない事になってしまう筈。


「もし私が失礼な態度を取ってしまったりしたら、お父様はどうするつもりだったのですか?」

「どうもしないよ……今回はお忍びだからね、それに私はマリスがそんな事をするような子じゃないと思ってるから大丈夫だよ」

「嬢ちゃん安心しな!仮にそんな事されても俺はなんもしねぇからよ、むしろ領主になってから失敗をして問題になるよりも、若い内に失敗を繰り返した方がいいってもんだ、そうだろ?マリウス」

「私が言いたい事を先に言わないでくれるかい?……まぁ、そんな感じでアデレードを説得して納得させたから、このお忍びも許可が出たんだよ」

「……そうなのですね」


 お父様達の気遣いのおかげで、早い内に様々な経験をこうして詰ませて貰っている事に感謝しつつ。

お母様がどんな気持ちで許可を出したのか考えてしまう、お屋敷に帰ったらお母様にお礼を言いに行かないと……


「さて、ステラの家の前に着いたから、マリスお嬢ちゃんは先に降りな!俺とマリウスは家で色々と話したい事があるからよ」

「え?でも……お忍びとはいえ一人で行動していいのですか?」

「マリス、お忍びだからこそ一人で行動するんだよ、私の容姿は領民達に知られているからね……、もし君の隣に私がいたら察しが良い者なら娘だと理解してしまう筈、この町は平和だから問題ないと思うけど、もし外から悪意ある者が訪れていた場合何が起きるか分からないからね」

「そういう事なら、降りて一人で向かいます」


 馬車がゆっくりと止まると、ドニが周囲に気を使いながら私を降ろしてくれる。

そして指を指してあそこがステラの家だと教えると……


「平民の家を訪ねる時は、扉をノックして外から呼びたい人の名前を呼ぶんだ」

「分かりました……ありがとうございます」

「おう、ちゃんと礼を言えて偉いな、んじゃ……ある程度したら迎えに行くから良い子にしてろよ?」


 ドニは私の頭を力強く撫でると、再び馬車の御者席へと乗ると私を置いて進んで行く。

そして一人になった私はステラの家の前に立ち、胸に手を当ててゆっくりと深呼吸を何回か繰り返すと玄関の扉を叩いて


「すいません、ステラさんはいらっしゃいますか?」


 と声に出して見るけど反応が無い。

もしかして留守なのかしら……そう思いもう一度叩こうとすると


「ちょ、まてまて!そんな何度も叩かれたら玄関が壊れちまうよ」

「え?」


 窓が勢いよく開いたかと思ったら、中から私と同じ歳位の男の子が顔を出して大きな声を出す。

驚いて数歩後ろに下がってしまったけど、もしかしたらこの人はステラが私の専属使用人をしていた時に話していた息子の一人かもしれない。


「あの……」

「あ?なんだよ」

「もしかしてステラさんの息子さんですか?」

「そうだけど……それがどうしたんだよ」

「私、過去にステラさんにお世話になったマリスと申します、ステラさんにお会いしたくて来たのですが、中にいらっしゃいますか?」


 随分口調が強い方だと思いながら、勇気を出してステラの事を尋ねると、何やら反応に困ったような顔をする。

もしかして……ステラに何かあったの?


「あぁ、母ちゃんならさっき近所の奴に呼ばれて出かけたぜ?」

「えっ……」

「お前タイミング悪かったな……ってそんなショック受けたような顔すんなよ、あぁ……なんだ?マリスだっけ?折角来たんだし家の中に入れよ」

「あの、いいのですか?」

「あぁ?言いに決まってんだろ、おまえは客で俺は面倒を見る側なんだから家で母ちゃんの事を待ってろって、外で何時までも待ってると疲れんだろ?んじゃ、ちょっと玄関の鍵を開けるからそこで待ってろ」


 ステラの息子さんの顔が引っ込み暫くして、鍵が開いたような音がする。

そしてゆっくりと玄関の扉が開くと


「待たせたな、んじゃ入れよ……ってお前随分服が汚れてんなぁ、もしかして畑仕事でもしてたのか?」

「え?あ、あぁうん、そんなとこ」

「同じ歳位なのに頑張ってんだなぁ、背丈も俺と同じ位だし……俺の服を貸してやるから中に入ったらそれに着替えろよ」

「えっ!?」

「えっ!?って驚くなよ、同じ男なんだから恥ずかしがる必要ないだろ?ほら、さっさと入った!」


 彼が私の手を掴むと家の中へと引きいれる。

そして部屋へと連れていかれると、服が入っている棚を漁り出し、所々破れた部分を縫い直したであろうボロボロな服を取り出すと


「ほら、早く服脱いでこれに着替えろ、脱いだのは洗っといてやるから!」

「え、あのちょっと!あなたっ!?」


 と強引に押し付けられたかと思うと、私の服を脱がそうとして来て驚きの余り声を出してしまう。

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