第16話

 ガタガタと馬車が揺れる。

そして時折石を引いたりしているのか、一瞬だけ身体が浮き上がったかと思うとクッションを敷いてると言うのにちょっとだけお尻に衝撃が来て辛い。


「悪いな嬢ちゃん!貴族様の馬車と違って平民である俺達が使えるのはこれしかねぇんだ!」

「いや……はい」

「これもまた領民達の暮らしを知る為に必要な事だから耐えなさい」

「分かりました、お父様」


 耐えなさいと言われてもお尻から身体全体に振動が来るのは辛い物がある。

貴族が使う為の馬車の場合、利用した事は無いけど衝撃を吸収して逃がす為の工夫とか色々とあるらしいから、凄い楽な移動が出来るらしい。

その事を知っていたから、お父様とそのお友達の方に連れられて馬車に乗ると言われた時、とてもわくわくしたのに残念な気持ちになってしまう。

正直、降りて徒歩で移動して良いと言われたら喜んでそうしたい位だけど、お父様から必要な事だと言われてしまった以上、従う事しか出来ない。


「ところでよぉマリウス、このマリス嬢ちゃんって言ったっけ?ついこの前ガキが産まれたって聞いたのにあっと言う間にでかくなったなぁ」

「あっと言う間って、マリスが産まれてからもう10年以上経ってるよ」

「10年かぁ、毎日同じ事ばっかり忙しくしてっとあっと言う間に時間が過ぎんなぁ、マリウスはどうなんだ?領主になってからもう年が20も変わってんだろ?」

「まぁ、色々と大変で俺も同じような感じだよ、子供の時にお忍びで町に行ってた時の方が気楽で良かったよ」


 何か私の事をほったらかしにして二人で楽しそうに会話してるけど、これの何処が領民達の暮らしを知るのに役立つのかな。

私としては早く町に行ってステラに会いたいのに……


「何言ってんだよ、おまえは領主なんだからしっかりしなきゃダメだろ、あぁけどそれよりも奥さんとは仲良くやってるのか?」

「ん?たまに意見がぶつかって喧嘩になる事はあるけど、仲良くは……やってるよ」

「ならいいけどよ、それならそのうちもう一人ガキが出来んじゃねぇか?」

「いや、それは無いよ、アデレードの身体の事を考えたらこれ以上無理はさせられないからね」

「あ、悪い……、そういやマリス嬢ちゃんを産んだ後、これ以上は高齢だから耐えられないって言われたんだったな」


 何でこの人がお父様達の事に関して詳しく知ってるかと疑問に思ったけど、二人の仲良さげな所を見ると……きっと何でも相談し合える関係なのかもしれない。

そういうのを見ると何か羨ましいなって感じる……以前の私、やり直し前に魔王となってしまった私にはそういう、身分が違いの友人や何でも相談し合えような人が近くにいなかった。

なら今回は対等な友人が出来たらなって思うけど、出来るか分からなくて少しだけ不安な気持ちになる。

こういう時、王子が近くにいてくれたらって思うけど、今回の私は学園に行ってもあの人に関わらないようにしようと考えているから、再び出会い親密な関係になる事は無い。


「さて、マリス嬢ちゃん!そろそろ町に着くけど何処か見たい場所はあるか?」

「わ……私は、ステラの所に行きたいです」

「ステラ?あぁ……あの、編織屋のステラか?」

「あ、あお、り屋?」

「あぁ、町にいる編み物や織物が苦手な女子共達を集めて教室をやってんだよ、そのおかげでここ数年は誰も飢える事無く稼ぐ事が出来るからほんと助かってんだわ」


 ステラが使用人を辞めて町に戻ってから元気にしているのか心配してたけど、ドニさんの言葉を聞く限りだと問題無さそうで安心する。


「あぁ……ここ数年の間、大量の生産品が町から送られてくるようになってたのはそういう理由だったんだね」

「なんだマリウス、知らなかったのかよ?」

「さすがに広い領地全ての町や村の事情を常に把握する事は無理だよ……、けどそうだね屋敷に戻ったら、今日知った事をふまえてそういう事情に詳しい使用人から色々と聞いてみる事にするよ」

「おぅ、そうしてくれ……あぁ、そういやぁ近い内に沢山子供が産まれるから、今度正式な訪問をする時に支援をしてくれよ」

「ん?もうそんな時期か……、分かった税収免除の手続きがスムーズに行けるように準備しておくよ」


 確か子供が産まれた町は申請をする事で一年間の税が免除されるんだっけ。

その間に免除された地域の領民達は、色々と子育てに必要な物を準備したり厳しい冬を産まれた子が越えられるように皆で世話をするとか色々とあった気がする。

けどその制度を悪用して、毎年出産する町や村が出ないように一度免税制度を利用した後は期間終了後から五年間申請が出来ないように調整されているらしい。


「おう、ありがとなマリウス」

「予め報告してくれるおかげで、俺としても助かってるからお互い様だよ」

「けど特別扱いはすんじゃねぇぞ?そんな事されたら、この町が周りから干されちまうよ」

「分かってるから大丈夫だよ」

「ならいいんだけどな、さてついたから降りる準備してくれよな」


 お父様達がそのような話をしているのを聞いている内に、木の柵で覆われた町のような物が見えて来た。

徐々に馬車の速度が遅くなり止まったかと思うと、降りる準備をするように声を掛けられ町の中へと入っていく。

始めてみる風景につい興奮してしまいそうになるけど、時折馬車とすれ違う町民の人が


「ドニ町長、こんにちわ!」


 と元気に声を掛けたのを聞いて、馬車を運転していた人物がこの町で一番偉い人だと知った。

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