第7話

 お父様にやり直す前の事を話してみよう。

前回は、信頼できる人にしか話してはいけないと言われたけどお父様になら問題ない。

だってここまで優しい人だから、きっと何か相談に乗ってくれる筈。


「あの……お父様」

「ん?マリスどうしたんだい?」

「前の週ではお父様に、やり直す前の事はマリスが信用できると感じた相手にのみ伝えなさいと言われたのですけど……今回では話したいなって」

「……マリスが信用してくれるのは嬉しいけど、本当に私でいいのかい?」

「お父様だから話したいのですわ」


 お父様が無言で頷くと室内にある椅子に座るように促す。

それに従い腰かけるとお父様も対面に座り……


「では話を聞こうか、何があったのか話してごらん?」

「実は最初のやり直しが起きる前の時間軸で私は……」


 以前の私が魔王と呼ばれる存在になるまでの経緯、そしてその後の事をお父様に話す。

それに対して顔色一つ変えずに落ち着いて最後まで聞いてくれているのを見ると安心するけど、ふと話してて疑問に思う事が出来て……


「……お父様、一つ聞いてもいいですか?」

「なんだい?」

「最初の時間軸のお父様は、私が選ばれた事を知っている筈なのにどうして、魔王になるのを止めようとしなかったのですか?」

「それはきっと、最初の失敗から力に飲まれない為の強い精神力を得させようとしたのかもしれないね、私が同じ状況になったら間違いなくそうする筈だよ……滅びるのなら次に繋げた方がいいと判断するだろうからね」


 お父様は優しい声でそう言うけれど、何処か申し訳なさそうな仕草をする。

きっと見た目が幼い私に一族の運命を託す事に罪悪感を持っているのかもしれない。


「……ならどうしてあの怪しい商人を屋敷に招き入れたの?」

「それについては私も分からない、本来ならば屋敷に立ち入れさえしない筈……いや、まさかとは思うがもしかしたら誰かが手引きした可能性があるね」

「誰かって誰ですの?」

「……それは分からないけど、警戒をした方が良いかもしれないね」


 警戒した方が言っても思い当たる人物が一人もいない。

やり直し人生では私に対して優しく接してくれる専属メイド、まだ私の姿を見るといったいどんな我が儘を言われるのだろうかと、警戒してびくびくしながらも一生懸命の笑顔でお世話をしてくれる雇われメイドや執事達に、美味しい料理を作ってくれる料理人に住み込みの庭師。

その中から疑えというのは……無理だ。


「警戒と言っても、誰を疑えばいいのか私には分かりませんわ」

「それは私も同じだよ、この屋敷で働いてくれている執事やメイドの事は信用しているからね……その中の誰かが手引きした犯人だと疑うのは心苦しい」

「えぇ……」

「それに疑問に思う事が多い、何故他国から態々この領に商団が来るのかとね……マリスの事情を知って来たとはいえ、行動を考えるに君が本に選ばれた人間だという事を知っていた可能性がある……その場合最も怪しい容疑者に当たる人物は誰だと思う?」


 その言葉の中で考えるとしたら容疑者として浮かぶのは一人だけ、今私の目の前に座っている人。

優しそうな表情を浮かべて私の話を聞いてくれている……


「もしかして……おと、う……さま?」

「現状で考えうる範囲ではそうだろうね、どうして私がそのような事をしたのか自分でも想像がつかないけれど、それが真実だった場合……マリス、君が私にこの事を話したのはとても良くない事だよ」

「え?それってどういう事ですの?」

「……君にとっての前の私が二回目のやり直し前に言った言葉『運命という物は逃げたら、あちらから凄い勢いで追って来る』、つまりあれは運命はどのような行動をしても根本を変えなければ、どんなにやり直しても一つの結末に至るという事なんじゃないかな?」


 とても良くない事、確かにそうかもしれないけど、現状で信頼出来る人はお父様しかいないし、もう話してしまった以上はやり直すわけには……


「じゃあ……私はどうすれば良いのですか?」

「それはマリス、君が答えを見つけて……一族が滅びる原因を変えるしかない、例えば私が本当に容疑者だった場合、今出来る事は私がそのような行動に走る前に説得するか今のうちに殺してしまうかだけど……まだマリスに説得は出来ないだろう?何せその行動に至るまでの動機を知らないのだから」

「なら今ここでお父様を私に殺せと?そんな事出来ませんわ」

「ならそうだね……なら少しだけここで待ってなさい、良い物を持ってくるから」


 お父様が立ち上がると部屋の奥から紫色の液体が入った瓶と人数分のグラスを持ってくる。

それをテーブルに置いて注ぐと、まずは自分から中身を飲み干し毒見を行うと私に飲むようにと促す。

それに従い小さい体にはちょっと多く感じる量をゆっくりと飲み干すと……


「え……あ、おとう……さま?」

「ごめんねマリス……、多分この事は私が聞いて覚えておくと後々君の障害になりそうだから、心苦しいけどやり直して欲しい」

「っ!?……ん!」


 呼吸をしようにも、空気を取り入れる事が出来ず喉のあたりで遮られてしまう。

余りの苦しさから無意識に喉を抑えて椅子から転げ落ちると……薄れゆく意識の中で


「おやすみ……私の可愛いマリス」


 と声が聞こえるのだった。

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