第8話

 お父様が飲んだ後に、私が何であんなに苦しんで死んだのかと疑問に思うけど……良く考えたら呪術によるものだと思うと納得出来てしまう。

本来なら触媒や呪文を使って効果を発揮するけど、そんな事をする暇があるように見えなかった。

じゃあいつ、どうやって、どのように……呪術を発動させるのに必要な工程を終えたの……?、もしかしてだけど血を通して発動させたとか……、私とお父様の間には血縁がある。

つまり、受け継いだ情報を利用して?、んー考えては見るけど、どのような方法を使ったのか分からない事だらけだ。


「君は今……何週目だい?何回やり直した?そして私はこれを何回君に聞いたのか答えてくれるかい?」


 意識がはっきりして来たら、聞き覚えのある声が聞こえる。

取り合えず指で4回と分かるように意思表示をすると……


「もうそんなにやり直して……」


 三回目の人生はお父様に呪殺されたんだけど、それを知らずに良くもまぁ……正直肉親の手によって殺された娘の気持ちは複雑だ。

この人の前でどんな話をすればいいのか分からないし、またやり直しの内容を話して同じような状況になったら……しょうがないと割り切ったとしても何れ気がおかしくなりそう。


「……なのでお父様が説明しようとしている事はもう十分理解しておりますわ」

「ならいいけど、私に出来る事はあるかい?」

「出来る事ですか……それなら、将来的に私を学園に行かせると思うのですけれど……その時に私が指定した道を通って頂いても宜しいですか?」

「……ん?まぁ、学園に行ってこの国の貴族に相応しい教育と、この領地に婿入りしてくれる相手を見つけてくれるならそれ位構わないよ……でもどうしてだい?」

「それは……私のやり直しと関わりがあると言ったら信じてくれますか?」


 理由は本来通る道を選んだ場合、王子様と出会う事になり一番最初の時と同じようになってしまう事を回避する為で……あの人と会ったら私はまた恋に落ちるだろうし、そうなったら前回と同じ運命を辿ってしまう筈。

それでまた大切な人をこの手にかけるなんてしたくない、あの時何故私の意思に反して身体が動いたのか分からないけど、あの時の王子様を殺めた時の感覚は今でも眼を閉じれば鮮明に思い出せる。

指に伝わる人を刺した感覚、手に伝う暖かい血の気持ち悪さ、最初は苦しそうな呼吸を繰り返していたのに……徐々に弱くなって行き、婚約者に殺されたというのにゆっくりと眼を閉じて、眠るように亡くなった彼。

そして……何よりも恐ろしいのは、その姿を見て自分のやってしまった行いに嫌悪感を抱いていた筈なのに、顔は満面の笑みを作っていた。


「詳しく教えて貰ってもいいかい?」

「……いえ、お父様は私にやり直しの際にいいました、やり直しの事は信頼できる相手にのみ話すようにと……なのでお父様には申し訳ないのですが話す事は出来ません」

「つまり私には話せないという事だね……、これは嫌われてしまったものだ」

「嫌ってはおりませんわ……、私はお父様の事を信用しておりますもの」


 その後頭が痛くなり、身体が熱くなったと思ったら……意識が飛んでしまい、目を覚ました時私の姿は化け物になっていた。

鏡に映る頭から伸びるねじくれた二本の角、そして驚いて口を開いたら見える鋭い四本の牙、そこから先は出来れば思い出したくない。

でもそうやって逃げていると、お父様の言葉を借りるなら運命は逃げたら追って来る

つまりその言葉の本当の意味を考えると、どのような道を進んでも根本的な部分を変える事が出来なけば、未来に起きる出来事は必ず集束するという事なのかもしれない。


「……マリス?急に黙ってどうしたんだい?」

「いえ、何でもありませんわ、ちょっと考え事をしていただけですの」

「そんな顔色を悪くして何でも無いは、説得力がない……マリス、今日はもう部屋に戻ってゆっくり休みなさい」

「えぇ……そうしますわ、お父様……色々と話して頂きありがとうございました」

「いや……私は、あぁそうか、周回を重ねる前の私が教えていたか」


 お父様に頭を下げると返事を待たずに部屋を出る。


「……取り合えずこれからの事に関して部屋で休みながら色々と考えないと」


 急いで部屋に戻る為に廊下を歩いていると、メイドや執事達に頭を下げられるけど今はいちいち反応している暇がない。

その様子を見て何かあったのではないかと心配して声を掛けてくれる人もいるけど、以前の私は我が儘ばかりの嫌な子供だったのに、なんでそんなに気を使ってくれるのか。


「あの……マリスお嬢様?」

「ごめんなさい、今考え事をしてるから一人にして欲しいの」

「領主様とのお話で何かあったのですか?」


 私専属のメイドが小走りに近づいて来たかと思うと、何があったのか聞いてくる。

けど……教えられる訳も無く。


「ごめんなさい……、言いたくないの」

「……そうですか」

「ごめんね、でも後で美味しいケーキが食べたいわ……この領地で一番の職人が作った物が、私の我が儘聞いてくれる?」

「えぇ、分かりました……けどあまり思いつめないでくださいね?」


 部屋に着いた後、中に入る前に扉の前で専属のメイドが頭を下げると私から離れていく。

廊下の角を曲がり姿が見えなくなるのを確認すると室内に入り鏡の前に立つと今の私の姿を見て映る幼い少女の姿は汚れを知らず、何処までも可愛らしい少女……けど中にいる魂は汚れてしまっている。

そんな私が人生をやり直していいのかと不安になった。

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