第22話

 目の前の美しい景色に感動して、色々とアーロと話している内に日が暮れて来てしまい。

もう少しで屋敷に帰る時間が近づいて来た時だった……


「ん?なんだあれ……」

「アーロ、どうしたの?」

「いや、マリス様あれを見てくれよ……何か遠くの方で煙が上がってねぇか?」

「煙……?あ、ほんとですわね」


 アーロの指差す方を見ると、白い煙のような物が少し離れた場所にある森から上がっていた。

もしかして誰かが狩り出かけていて、今日はあそこで野営する為に焚火をしているのかもしれない。

以前のやり直す前の人生で、お父様から聞いた事があるけどモンスターの討伐を行う際、数日に掛けて森の中を探索する為、見張りを付けた野営を行うという話を聞いた事がある。


「ちょっと行ってみようぜ!」

「行ってみようぜって、アーロあなた……子供二人では危険よ!」

「大丈夫だって!町の近くまでモンスターが出て来る事何て無いし、それにこの近辺で怪しい奴なんて見た事無いしな!」

「だからって……もう!」

「んじゃ、あそこまで競争な!」


 競争って言って先に走ってしまうアーロを見て、護衛って何だっけと思いながら急いで追いかけるけど、彼の方が足が早くてあっと言う間に置いてかれてしまう。


「……私もお屋敷にいるだけじゃなくて、色々と運動した方がいいかもしれないわね」


 そう思う位にアーロの身体能力が高くて、何だか自分が情けなく感じる。

男性と女性の肉体的な能力の差があるのは分かってはいるけど、明確に差が出て来るのはまだ大分先な筈。

勿論立場的には将来、彼が護衛で私は守られる側になるけど、常に側にいるのは不可能だと思うから少しは自衛が出来た方がいい。


「……私の護衛なんだから、ちゃんと側にいなさいよね」


 一人で愚痴を言いながら、アーロが入って言った森に入り暫く進むと……そこには複数のテントと武装した集団いた。

それぞれが狩りに使うとは思えない、剣や斧等の武器を持っているけど鎧を着けていないからどっちかというと、野盗みたいで凄い怪しい気がする。


「……アーロは何処かしら」


 息を潜めて様子を見るけど、アーロの姿が何処にもない。

もしかしてだけど彼が行った場所とは違う場所に出てしまった?そう思うと何だか不安になって来る。


「お頭っ!何か怪しいガキを捕まえましたぜ!」

「おいっ!やめろ、離せって!」


 私のいる場所から少し離れた所が、ガサガサと動いたかと思ったらアーロが肩に担がれた状態で運ばれて行く姿が目に移る。


「ッ!?アーロ……」


 驚いて立ち上がりそうになるのを自ら足を強くつねって耐えて止まる。

今ここで私が彼らの前に出てしまったら、同じように捕まってしまうかもしれない。

そう一人で葛藤していると、テントの中から角が二本生えた男が出て来てアーロへと近づいて行く。


「っ!?ま、魔族!?」

「あぁ?なんだこのガキは」

「それが……町の方から来たみたいでして」

「町の方からだぁ?おい……、おめぇ等が調べた情報だとこの森までは町の奴らは来ねぇって言ったよな?」

「その筈だったんすけどね……っかしいなぁ、ちょっと下調べが足りなかったみ──」


 魔族の男が腰に差さっている剣を抜くと、アーロを肩に抱えている男性に向かってそのまま上から下に向かって叩きつけるように振る。

瞬間、さっきまで笑いながら話していた姿が真ん中から左右に分かれて物言わぬ死体になったかと思うと、そのままアーロを抱えたまま地面へと倒れて行く。


「っ!?」

「おめぇ等もこのアホのように死にたくなかったら、次から精確な情報を仕入れて来い!」

「は、はい!」

「分かったらこの死体をさっさと片して、焚火の火を消しやがれ!こんなちっこいガキがここを見つけたって事は他にも誰か来るかもしれねぇからな!」

「わ、分かりました!おまえ等!さっさと言われた通りにしろ!」


 仲間なのにそんな理由で簡単に殺す何て……、それにどうしてこんな所に魔族が?

理解が追い付かなくて思考がまとまらない、なんで?彼らがこの領地を尋ねて来るのは私が学園から戻ってからの筈。

だからこんな所にいないのに、どうして?なんで?ダメだ分からない。


「お頭!この気絶してるガキはどうします?」

「ん?あぁ……そいつは後で俺が食う、人の肉は不味いが捕まえた以上はちゃんと命に感謝して食わねぇとな」

「了解です!後でテントに連れて行きます!」

「おぅ……ったく、折角商売で大金を得て懐があったまって後は帰るだけだっ通のに、こんなトラブルが起きるなら野営何てするんじゃなかったぜ」


 商売で大金を得た?この集団は野盗ではなく、あの男が率いる他国の商団?……ってこと?

という事はやっぱり私が死んでやり直す前に会った、魔族達と関係があるのかもしれない。

これは急いで町に帰って、今頃ステラの家に私を迎えに来てるであろうお父様とドニ町長に、町の外に怪しい集団がいるって教えないと。

それに早くしないとアーロが食べられちゃう!、そう思って急いで立ち上がろうとしたらガサッ!と音を出してしまい……


「ん?、おい!そこのお前!今変な音がしなかったか?」

「……?動物か何かでも通ったんじゃないすか?」

「馬鹿かおまえは!それなら最初から動いてんだろうが!このガキ以外にも誰かいるかもしれねぇから様子を見て来い!早く行かねぇとお前もぶっ殺すぞ!」

「は、はい!」


 お頭に指示された髭面の男性がこっちに向かって走って来る。

これは……私も捕まってしまうかもしれない、そう思うと恐怖から脚が思うように動かなくなってしまい、その場に尻もちを付いてしまう。

何とか両腕に力を入れて身体を引きずるようにして、後ろに下がっていると……近くの木の上から野ネズミが数匹降りて来て、私にとっては都合の良いタイミングで男性の前へと向かって行くのが見えた。

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