第13話

 理由は多分これなんだろうというのは分かったから、落ち着いてステラの顔を良く見ると本心では無い事が分かる。

……なら何故そんな事を言うのか、やはりお父様達から何かしら言われたと考えるのが自然だけど、それについてすればいいのか。

素直に出て行かないでと言えば残ってくれる?、それとも送り出すべき?……このお屋敷で使用人を雇っているのはお父様だから、直接話に行くのも良いかもしれない。

ただ……もしこれが私の被害妄想から来る考え過ぎだった場合、行動に移すのは良くない事だと思う。


「……マリスお嬢様、そう言う事なので私はこれで失礼させて頂きます」

「ま、待ってステラ、これからあなたが居なくなった後、新しい専属メイドになる人に同じ事をしないように何処がダメだったのか教えて貰えないかしら」

「……え?」

「そうしないと直せないでしょう?」


 それなら本人に直接聞いた方が良い。

そう思って質問してみたけど、返答に困っているようで……私よりも二回り以上年齢が上だと言うのにしどろもどろになっている。

ちょっと意地悪が過ぎたかなって思うけど、ここまでしないと答えてくれないだろうからしょうがないと思う。


「……実は」

「ん?」

「怒らないで聞いて頂けますか?」

「私の悪い所を言ってくれるのに怒る必要があって?むしろしっかりと聞くべきだと思うけど?」

「いえ……そうではなく」


 ……何がそこまで言いづらいのだろうか。

もしかして本当の理由について余程言いづらくなるような何かがあったりする?、それとも口止めされていたりするのかな。

もし後者だった場合、無理に聞いてしまえば数年前の時のようにステラが殺されてしまうかもしれない。

そう思うと背筋に冷たい物が流れるような嫌な感覚がして、そこから全身に不快感が襲う。


「実は……アデレード様から私とマリスお嬢様の距離が近すぎる事を指摘されまして……」

「お母様から?」

「はい、マリスお嬢様は12歳になると学園に通う事になるので……、平民と親密な関係を築き過ぎて、貴族としての自覚を持てなくなる前に距離を取るか、お屋敷を出て行くように言われまして」

「……そうなのね」


 【アデレード・レネ・ピュルガトワール】彼女は私の母であると同時に、父である【マリウス・ルイ・ピュルガトワール】が学園でその容姿に惹かれたという理由で、必死に真剣交際を求めた結果、熱意に負けたらしく。

貴族としては珍しいお互いの領地や立場を考えた政略的な結婚ではなく、恋愛結婚という形で夫婦になった。

その後、何人かの子宝に恵まれたらしいけど……私を残し、森のモンスターや動物を間引く領主としての仕事に着いて行き死亡したり、一度も会った事の無い【ダート・アデリー・ピュルガトワール】のように誘拐されている。


「……お母様は貴族至上主義だから、そう言いだしてもおかしくないわね」


 ……貴族世界では成人前に子供が死亡した場合、埋葬等される事無く最初からこの世界にいなかった扱いをされる為、家族間でも名を呼ぶ事が許されなくなってしまう。

だから……兄がいたという事は、使用人達の話を盗み聞きする事で知る事は出来たけれど、彼らの名前は一人として知る事が出来なかった。

……ただ、そう考えると誘拐された事になっている顔も知らない姉は、あの本の中から名前が消えてしまったけど今現在生きているのなら、26歳位だろう。

今も無事なら何処かで良縁に結ばれて、結婚して子供がいてもおかしくはないが……私にはどうでもいい事だ。

しかしお母様からしたら、どうでもいい事では無いだろう……今も姉の事を探しているみたいだし、最近は必要だからと血を数滴分けて欲しいとお願いされた。

その時はお母様直属の使用人に殺された時の事を思い出して断ってしまったが、それ以降私に対する接し方が変わった気がする。

私が平民であるステラと親密な関係にある事が気に入らないのだろう、貴族は平民とは違い尊い血が流れていると思い込んでいる彼女は、平民を見下す傾向にある……それ故の行動だと思うと納得が行く。


「はい……、もしアデレード様からの命令を無視してしまったら、町にいる家族に被害が出てしまう可能性があるので……」

「それなら私からお父様にこの事を相談致しますわ、あの人は貴族や平民関係なく大事にしているもの、力になってくれるはずよ?」

「確かにそうかもしれませんが……、私一人の問題で領内に問題を起こしたくありません、なのでご理解して頂けると」


 そう言って頭を深々と下げるステラを見ると、何も言えなくなってしまう。

町に住んでいる旦那さんや、私と年齢が少しだけ年上らしい子供達……そんな彼女の大事な家族に被害があったらと思うと私も引き留める事が出来ない。


「なら近々、お父様と一緒にお忍びで町に行く事があると思うから、その時に遊びに行っても宜しいかしら?」

「えぇ……それ位なら、アデレード様もお許し頂けると思います、領主様が決めた事に関しては何も言えない筈ですから」

「良かった、それなら是非遊びに行かせて頂きますね」


 結構お父様に文句を言っていた気がするけど、ステラが言うのなら大丈夫なんだと思う。

そうして彼女を部屋から送り出すと、誰も居なくなり静かになった空間に寂しさを感じてしまい……泣き出したくなるのだった。

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