第14話

 ステラが出て行った後、新たに専属の使用人が着いたけど……


「マリスお嬢様、使用人が共に食事をするのはありえません」

「ですが……ステラは紅茶やお菓子をご一緒してくれましたわよ?」

「はぁ……、前任の使用人の行動には頭を抱えますね」


 そう言葉にする相手を見る度に、顔に出さないようにはしているけど……以前私の心臓を刺して殺した相手が目の前にいる。


「それは私がお願いしたからであって……」

「そもそも、使用人風情の名前を憶えて特別扱いするとは何事ですか、あなたはこのピュルガトワール領を継ぐ立場にあるのですよ?貴族とは尊い血を持つと共に、その存在には責任が伴うのです」

「その話はこの前も聞いたけど?」

「何度も同じ話をさせるマリスお嬢様に問題があるのです、アデレード様に命じられ専属使用人となりましたが、これでは学園生活が思いやられます」


 片眼鏡を光らせながらそういう彼を見ると、凄いめんどくさいとしか思えない。

ここで色々と言っても良いのだけれど……腰のベルトに短剣を差したままだし、二人きりで部屋にいる状態で襲われたら一溜りもない。

それにお母様に命じられたという事はどう見ても、私の事を監視する為に配属先が変更されたと思うし、今は凄い精神的に息苦しくて出来る事ならばすぐに逃げ出してステラの元へ行きたいという気持ちになる。


「……私はお母様と違って貴族至上主義じゃないの、だから尊い血だとか価値観を押し付けないでちょうだい」

「どうして領主様といい、マリス様といい……そのように貴族としての自覚を持てないのか、全くもって嘆かわしい」

「それならお父様に直接言いに行けばいいじゃない?」

「それは……」


 ただそういう事はお父様に言うようにと話すと、こうやって言葉に詰まる辺り強気に出る相手を選んでるように見える。

私はまだ子供だからこうやって今のうちに教育を施して、お母様と同じ貴族至上主義の価値観を植え付けようとしているみたいだけど、残念な事に今の私は人生をやり直している実年齢で例えたら30歳を超えている人間だ。

とはいえ昔の私が今の立場なら大好きなお母様が自身の専属使用人を、私をくれたと思ったら素直に言う事を聞いていたと思う。

とはいえ実際は我が儘放題だった辺り、今とは違う意味で上手くは行かないだろうなとは想像が出来てしまう辺り、人生をやり直す事が出来て良かったのかもしれない。


「言えないなら私にそう言う事言わないで頂けるかしら?幾らお母様がこの領地に嫁ぐさいに着いて来たとはいえ、無礼が過ぎるとお父様に直接私が苦情を申し出に行きますわよ」

「……その事がアデレード様に知られても良いのですか?」

「お母様は私を可愛がってくれているもの、話した所で何も変わらないわよ?」

「ぐっ……マリスお嬢様、あなた程度ダートお嬢様さえお戻りになられたらこの屋敷に居場所が無くなるのですから、今のうちにその生意気で我が儘な所を改善するよう忠告させて頂きますよ」

「……あなた、色々と大丈夫なのかしら?ダートお姉様が行方を晦ましてから16年も経っているのよ?生きてたとしても今頃何処かで良い人を見つけて幸せになってるのでなくて?」


 私の言葉を聞いて、専属使用人が腰の短剣に手を添えるが……何度か柄を握ったり離したりを繰り返しながら深呼吸をする。


「……その言葉、アデレード様に報告させて頂きますが宜しいですね?」

「えぇ、きっとお母様も失踪したお姉様が幸せに暮らしてるかもしれないと思ったら、お喜びになると思いますわ」

「いつまでその減らず口が叩けるのか見物ですね……、ではマリスお嬢様、失礼致します」


 専属使用人だというのに主人の許可なく勝手に部屋を出ると、お母様の元へと行ってしまう。

私よりも年齢や人生経験的にも、遥かに上だというのにあのような幼稚な行動をしてくるあたり本当に情けない。

とはいえ……普段はここまで言い争いになるような事は無い、今回は特別な事情があって挑発をしたけど、思った以上に上手く行ってしまった事に内心困惑が隠せなかったりする。


「さて……」


 誰も居なくなった部屋でドレスを脱ぎ肌着になると、予めお父様から秘密裏に受け取りベッドの下の隠し収納にしまっていた、薄汚れたように見える平民の子供服を取り出す。

半袖の上着に、膝下までしか裾がないズボン……そして肌に付ける、日焼け後に見える染料。

お父様が昔、お忍びで町へ繰り出していた時のおさがりだけど、これだけで鏡に姿を映すと別人のように辺り便利だなぁって思う。


「……今日は月に一度のステラに会える日っ!沢山甘えないと!」


 あの時、食事の席でお父様とお母様の言い争いが起きた後、改めて二人で話し合ったらしく。

いったいどんな説得をしたのか分からないけど、あそこまで反対していたお母様が……私が貴族だと町の人達に気付かれないという自信があるのならお忍びで行っていいという事になった。


「えっと……後は、確かこの鏡の裏に……」


 部屋に備え付けられた鏡に近づくとお父様に教わった手順で、装飾品としてつけられている宝石に触れる。

すると……壁の一部がドアのように開き、お屋敷の外へと繋がる隠し通路が姿を現す。

ここを通れば久しぶりにステラに会える……そう思った私は、彼女に早く会いたい一心で通路へと足を踏み入れた。

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