第26話

 飢餓のリプカを転移させた後、串刺しにされたまま運悪く生きている野盗に向かって行くお父様を見て、何をするのかと気になり後ろを着いて行く。


「君が苦しみから解放されたいのなら、何故ここに魔族がいたのか、君たちはここで何をしていたのか話して欲しい」

「お、おれ……何も知らない」

「本当かい?飢餓のリプカに義理立てして、秘密を守ろうとしているのなら止めた方がいい、もう一度聞くよ、君たちはここで何をしていて、どうして魔族がここにいたんだい?」

「お、俺たちは……表に出せない商品を運ぶ闇商人だ、こ、ここには商売で来ただけでっ!」

「……商売?という事は私の領地に君達と取引を行う人物がいると?」


 話を聞いて思い当たる人物が脳裏に浮かぶ。

お母様がこの国では手に入らない珍しい素材を、行方不明になった私の姉を探す呪術の触媒にする為に集めては失敗していた。

私が人生をやり直す前、何処から手に入れているのか気になった事があったけど……今ならそういう事だったんだと理解が出来る。

つまり……魔王になるきっかけになる、魔族の商人が来たのもお母様と取引をした魔族達が使うルートを使った可能性があって……


「……分からねぇ」

「分からない?」

「誰と取引をするかはお頭が決めていたし、取引相手と会うのもお頭の仕事だったから、俺達は商品を仕入れて運ぶ以外はやってねぇんだ!」

「どうやら本当みたいだね」

「し、信じてくれるのか……?」


 飢餓のリプカに会い、戦って、勝つ事は出来なかったけど、他国に飛ばした事で未来が変わったかもしれない。

私の以前の人生を振り返ると、この時期に魔族がこのピュガトワール領に出たという話を聞いた事が無かった。

けど、今回は彼が率いる闇商人の一団を滅ぼす事が出来た以上、仮に飛ばされた先で生き延びる事が出来たとしても、この国に来るのは難しいだろう。


「この状況で嘘を言えるような訓練を、君は受けていないだろう」

「……な、なら、俺は知ってる事を全部話した!だから、俺を串刺しにしてる剣を抜いて助けてくれ!」

「悪いけどそれは出来ないんだ」

「……へ?」

「精々私に出来るのは、これ以上君が苦しまないように君の首を刎ねる位だよ」


 串刺しにされていた野盗の首が、内側から飛び出した血の刃により一瞬で切断され地に落ちる。

そして体から噴き出す筈の血液が一滴も残らずに、剣に吸われるとお父様の剣の鞘の中へと吸い込まれるように入っていき……。


「……お父様」

「マリス、君は見なくても良かったんだよ?」

「お父様の仕事をこの目で見るのも、後継ぎである私の仕事ですもの……、この目でしっかりと見るのは、次期領主として必要な事でしょう?」

「たまに君が、人生を何度もやり直してる事を忘れそうになるよ」


 お父様は何処か悲しそうな表情を浮かべて、私へと近づくと頭の上に手を置いてゆっくりと撫で始める。

それがなんだか、凄いくすぐったく感じて少しだけ後ろに下がりそうになるけど、きっと何か思う所があるのかもしれないから、我慢してされるがままにしていると……


「けど、君がこの先何度死に、何度人生をやり直そうと、マリスは私の大事な娘だし、こうやって親としてやるべき事はやるつもりだから、幼いうちは親というものに沢山頼りなさい」

「……えぇ、分かりましたお父様」

「うん、さて……ドニの方はどうなったかな」


 そういえばドニとアーロはどうなったのか。

飢餓のリプカに服を剥ぎ取られ、全裸の状態で香辛料を全身に塗られて地面へと投げ捨てられたアーロの事を考えると、彼が無事なのか心配になる。

ドニがここにいないという事は、様子を見てくれていると思うんだけど……


「マリウス!ダメだ、アーロが目を覚まさねぇ!あの魔族に何かされたのかもしれねぇぞ!」


 鎧を脱いだドニが、血で赤く染まった自分の肌着をアーロに着せて、上半身裸の状態でこっちに走って来る。


「……ドニ、私の娘に裸を見せないでくれないか」

「そんな事言ってる場合じゃないだろ!」

「アーロは、飢餓のリプカの魔法で眠っているだけだろうから、このまま今日は屋敷に連れ帰って、解呪を試してみるよ」

「んじゃあ……俺は、その事をアーロの母親に話しておくわ」

「私が直接話に行くよりも、町長である君が話した方がいいだろうから頼んだよ」


 お父様はそう言うと、指先に魔力の光を灯して……飢餓のリプカの時のように空間を切り裂く。

そしてお父様が普段使っている執務室へと繋げると


「マリス、後の事はドニに任せて私達は屋敷に戻ろう」

「……分かりました、えっとドニさん」

「ん?どうした?」

「戦ってる姿凄いかっこよかったわ、後ステラの事宜しくお願いします」

「あぁ、これ位気にすんな、むしろマリス嬢ちゃんがいなかったら、魔族がこんな所にいる事を知ることが出来なかったからな、被害が大きくなる前に対処が出来たから俺の方が感謝したいくらいだよ、だから……えっとなんだ?今度マリウスと一緒に正式に町に来たら礼をさせてくれ」


 ドニはそういうと片方の腕で器用にアーロを抱きかかえると、手を差し出して来る。

私とアーロの行動のせいで、こんな大事になってしまったのに、どうしてそんな優しい言葉をくれて、お礼まで言ってくれるのだろうか。

その意味が分からなくて、その場に固まってしまうけど、そんな私の手を取って握手をすると、アーロをお父様へと渡す。


「これで良しっ!んじゃ、マリウス、アーロの事任せるわ」

「しっかりと元気になったのを確認してから町に返すよ」

「おぉっ、ついでに貴族様しか食えないような美味い飯も食わせてやれよ?」

「そうするよ……、そうだ、鎧の方は後日、使いの者を寄越して訪問の日程を決めるから、その時に持っていかせるよ」

「おぅっ!早めにしてくれよ?」


 ドニは笑いながらそう答えると、上半身裸のまま町へと帰っていく。

そんな彼を見送った後、お父様の空間魔法を使って明かりの無いお父様の執務室へと移動すると、部屋に備え付けられているベルを鳴らす。


「さて、ドニの事は使用人に任せてマリスは部屋に戻りなさい」

「……でも」

「ドニの事が気になるのは分かるけど、今のマリスに出来る事は無いからね、今日は自室でゆっくりと休んで彼が目を覚ました時に、元気な姿を見せてあげなさい」

「……分かりました」


 お父様の言葉に従い部屋を出るとそのまま自分の部屋に戻る。

その際、屋敷に住み込みで働いている使用人達から、驚いたような顔をされたけど……今はそんな事何てどうでもいい。

そう思いながら扉を開けると、ベッドへと向かい横たわり……そのままゆっくりと眼を閉じ、今日あった事を思い出している内に何時の間にか意識を手放し眠りに落ちていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る