第10話
人って本当に驚くと悲鳴すら上げる事が出来ない……現に目に映る亡くなっているステラの姿を見て、脚が竦んで立ち上がれず、口は震えて声を出す事が出来なくて、ただただ嗚咽のような音が喉から出る。
そしてどれくらいの時が経過しただろうか、こんなにも恐ろしい事が起きているのに夜空には星が優しく瞬いて周囲は夜の静けさに包まれていた。
けど人は不思議なもので時間と共に気持ちが落ち着いて冷静になっていく。
「……やり直さなきゃ」
そう今の私は冷静だ。
ステラが死んでしまったのは私が選択を間違えたせいだ。
だから……何とかして自らの命を絶ってやり直した方がいい、そうすれば彼女にまた会える。
そうしたらお母様の事を調べるのを辞めてってお願いして、二人で楽しい時間を過ごすの。
美味しいケーキを食べて、紅茶を飲んでゆっくりして……何気ない会話で笑ったり怒ったりして……それで、それで……。
「でも自分だけの力でやり直そうとすると……怖い」
周囲を探して何とか命を絶てるものを探すけれど……見つからない。
樹に頭を勢いよくぶつけて見たけど、血が出る嫌な感覚と鈍い痛みで頭が冴えるだけで……
「そっか……お父様に頼めば……」
頭を強打したせいでグラグラと揺れる視界の中で、力が入れなくて上手く歩けない身体に鞭を打ってお屋敷へと向おうとする。
……帰ってお父様に全部話せばこの前のように苦しいけどやり直す事が出来る筈だ。
けど、何処に行けば着くのだろうか……迷ったせいで方向が分からない。
じゃあどうすれば?簡単な呪術ならこの身体でも使えるけど、お屋敷から街までの間に人を殺める事が出来る程の殺傷能力があるモンスターや動物がいるだろうか。
いたら私の血を触媒にして呪術を掛けるのにな……
「──スお嬢様ー、マリスお嬢様ー!」
「……この声は?」
「マリスお嬢様ー!」
遠くの方で声が聞こえる。
もしかしてだけど……いきなりお屋敷を飛び出した私を探しに来たのかもしれない。
「ここです!私はここにいますわっ!」
「……マリスお嬢様!今向かいますのでそのまま声を出し続けてください!」
「えぇっ!分かりましたわ!」
言われた通りに声を出し続けると樹々の隙間から執事が出て来る。
そして私の姿を確認して、安心した顔をした後に走って近づいてくると……途中で立ち止まり目つきが鋭くなった。
「……マリスお嬢様、そこにいるメイドは?」
「……私の専属メイドだったステラですわ、急にお屋敷を出たと聞いて探しに行ったらこうなってましたの」
「やけに落ち着いてますね……、六歳の少女とは思えない」
「……え?」
執事が腰に差している鞘から短剣を抜く。
確かあれは……お母様の専属になった使用人だけが持つ事が許された者だった筈、そしてゆっくりと私に近づくと……
「アデレード様が私に言っていました、最近屋敷の中で娘がメイドを使って不審な動きをしていると」
「あの……」
「何を調べようとしているか分かりませんが、アデレード様に関して調べようとしたのは悪手でしたね……だからこうなるのです、どうせここで二人で落ち合う予定でも立てていたのでしょう?」
「あ、ちが……」
何を言ってるのか理解できなくて思考が止まる。
ただそれでも分かるのは、ステラはこの人の手によって殺されたという事だけ……、だってそうじゃなければここでナイフを抜く意味が無い。
「……旦那様には、街道沿いに現れた盗賊の手によってマリスお嬢様は死んだ事にしておきます、何せこのメイドは知っては行けない事を知ってしまいましたからね、マリスお嬢様が何らかの呪術を用意て知っていてもおかしくはない」
「知ってはいけない事……?」
「とぼけないで頂きたい、アデレード様が未だにお戻りになられないダートお嬢様の為に違法な手段を取っている事を存じておられる筈、あの方はマリスお嬢様の事を大事に思っておりますが、それ以上にダートお嬢様の身を案じておられる一人の母親なのですよ……どうしてそれを理解出来ないので?」
「……理解できないって言われても、私はダートお姉様とお会いした事が無ければ話した事も無いですし、そんな事を言われて……も!?」
話している最中なのにいきなり短剣を胸に刺される。
そしてそのまま勢いをつけて引き抜くと、吐き気と共に喉奥から大量の血が込み上げて来て呼吸が出来なくなり、水に溺れているかのような窒素感に襲われ……視界が暗くなっていく。
その最中、口に何か冷たい物が当たる感覚が下かと思うと……
「ゴ、ゴフ……」
「本当は苦しませたくは無いのですが、アデレード様の命令ですからね……、悪い事をしたマリスお嬢様の血をダートお嬢様を探して、お屋敷に戻す為の触媒に使うそうです……、そこまでしてしまったら魔に魅入られて魔族になってしまうというのに」
「……!?」
「……その反応本当に知らなかったのですね、安らかにお眠りください、どうか来世では幸せにおなりください」
来世ではと言われても私には来世が無く、死んだら分岐点からやり直すだけ。
そう思いながらお母様専属の使用人から情報をもっと聞き出せないかと、意識を強く持とうとするけど、気が付いたら体の感覚が無く周囲の音も聞こえない。
そしていつかのように意識が遠くなっていったかと思うと、目の前にはケーキと紅茶が用意されたテーブルが映し出されるのだった。
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