第24話
ドニとお父様が無言で頷き合うと、指を使って数を数え始める。
こうやって相手が何人いるのか確認して、どうやって動くのか考えているのかもしれない。
「マリウス、この人数どう考える?」
「どうって言われてもね、十人以上いるから出来る事は一つしかないんじゃないか?」
「という事はあれか、いつものモンスター討伐の時と同じ要領か」
「そうだね、まずはドニが先に敵の方へと突っ込んで相手の注目を集めて欲しい」
「あいよっ!……おめぇらっ!ここで何やってやがる!」
ドニが大声を上げて武器を両手に持ちながら彼らに向かって行く。
まるで野獣を見たかのような悲鳴を上げながら、大声を上げて助けを求める声が聞こえたかと思うと……
「マリス、君はここから出て来ないように」
「……はい」
「じゃあ行ってくるよ、お父さんとドニの無事を祈っていておくれ」
お父様が地面に差していた剣を鞘にしまうと、詠唱をしながらドニに合流する。
そして彼の隣に並ぶと
「お頭!もう一人出てきやした!はやくテントから出て来てくだせぇ!」
「っるせぇなぁ!一人が二人に増えただけだろ?それ位お前らが何とかしろ!なんの為に数を揃えたと思ってんだ!」
「けどっ!一人だけでも凄いつよ──」
「……呑気にお喋りする暇なんてないだろ?」
魔族へと助けを求めていた野盗の一人がドニが持っている斧によって、首を叩き切られ崩れ落ちる。
その勢いのまま斧の重さを利用して回転すると、剣を横に薙ぎ払い後ろに迫って来ていたナイフを持っている人の腕を切って動きを止めると、再び前へと走っていく。
「……凄い」
野営用のテントをドニがどんどん壊して行き抵抗する野盗達を切り伏せ、その後ろをマリウスが優雅に歩いて着いて行く。
そして中心部に立つと、鞘から剣を抜いて地面に突き刺す。
「……【串刺しの呪剣】」
野盗達の足元から血で出来た剣が突き出たかと思うと、串刺しにしていきその場に固定していく。
苦しそうに呻き声をあげる人達を見て、お父様の行動に残酷さを感じるけど……やらなければこちらが殺されてしまう以上、しょうがない事だろう。
ただ……運良く即死出来た人は、この苦しみを味わう事が無いと思うから、そういう意味では今生き残っている人は不幸としか言えない。
「いってぇなぁ!なんだこれはよぉ!」
「……おいおい、マリウスの魔法を受けてんのにかすり傷程度かよ」
「これがマリスが言ってた魔族か」
崩れたテントの中からアーロを小脇に抱えた魔族の男性が出て来る。
その姿はまるで、香辛料のような物を扱っていたのか指先は独特な色に染まり、アーロも服を剥がれて全身が同じ色になっていた。
初めて異性の身体を見たなぁと何処か冷静になりつつ、全身が色とりどりでそっちの方が気になってしまう。
もしかして食べる前の味付けをしていたのだろうかとついつい考えてしまうけど、何となく、いや……うん、少しだけ美味しそうに見えてしまう辺り、何とも言えない気持ちになっ。
「おま……アーロに何してんだよ」
「あぁろ……アーロ?あぁ、この俺の夕飯か?そろそろ飯にしようと思って味付けしてたんだよ」
「味付けって事は、君はまさか人を食う魔族なのかい?」
「あぁ?そんなの当然だろ、腹が減ったら肉を食い酒を飲んで寝る、それ以外に何がある?」
お腹が空いたらご飯を食べるのは当然だけど、お酒を飲んで寝るって事をしたことが無いから言った意味を理解できない。
ただ、ピクリとも動かないアーロを見ると、もしかしたら死んでしまっているのかも、そう思うとステラに何て言えばいいのか。
私と出会ったばかりに殺されてしまった彼の不幸に対してどうすればいいの?
「なぁ、おまえ……聞きたいんだけどさ、アーロは生きてんのか?」
「ん?魔法で眠らせてるだけで生きてるぞ?、俺は食い物を生きた状態で調理して焼いて食うのが好きだからな、喰う前に殺しやしねぇよ、香辛料の美味さに調理してる最中の悲鳴、そして焼かれてる最中の助けを求める声、これが最高の味付けになんだよ」
「……マリウス、こいつ今すぐ殺そう」
「いや、この魔族は生きて捕まえた後屋敷で尋問をするよ、見た所他の野党と比べて服装が豪華だし、自分の権力を誇るかのように着けている金属のネックレスや指輪、何かがあるって私の勘が言ってるからね」
「ん?俺を生け捕りにして尋問だぁ?ふざけた事言ってんじゃねぇよ」
魔族の男性がアーロを後ろに投げ捨てると、両手が何もしてないのに燃え上がる。
そして全身を炎で包み込むとまるで火の化け物のようになり……
「俺は、野盗に焼き払われた町で生き残り飢餓に苦しみ死んでいった、生物達の死後の念から産まれた誇り高き魔族、飢餓のリプカ様だっ!俺以外の存在は俺の腹を満たし楽しませる為にあるっ!そんな俺を捕まえようたぁ、聞き捨てならねぇな!」
「……マリウス、これをほんとに生け捕りにするつもりか?」
「するさ、この国に今まで出現報告が無かった魔族が出て来て、私の領地で悪さをしている以上、しっかりとその罪を償って貰わないとね」
「俺に罪はねぇよ、ちゃんと飯を食う時は金を払ってるし、このガキも食った後で町に金を置いて礼をするつもりだ。俺は食い物への感謝は忘れちゃいねぇ、むしろおかしいのはおまえ等だ……牛や豚を家畜と呼んで食わずに世話してんのが気持ち悪い、そこにあんなら飢える前に全部食っちまえよ、なぁに動物は人間が何かしなくても勝手に増える、お前達もそうだろ?」
根本的な価値観が違うんだと思う。
様々な生物の死後の思いから生まれた魔族と、この領地で生まれ育ち生活をしている私達。
そこにはどうしようもない程に常識の違いがあって、理解が出来ない程に存在の在り方が違う。
「けど、大人はダメだ……太ってる奴は臭くてまずいし、痩せてる奴は味付けすればましになるが食う所がすくねぇ、それに比べて子供はどうだ?肉は柔らかいし、調理をすれば味がしっかりと肉に染み渡る……そういう意味では、そこにいるガキ何て美味そうだよな」
「……え?」
飢餓のリプカの目線が私へと向けられる。
そして頬を染めながら舌なめずりをすると、こっちに向けて指を指して……
「決めたっ!おまえ等を殺したら、あの人間のメスを食う!今日はご馳走だぜ?」
「……ドニ」
「あぁ?なんだマリウス」
「……彼を生け捕りにするのは無しにしよう、私の娘を食うと言った以上生かしておくわけにはいかない」
「判断がおせぇよ、俺は最初からこのモンスターを狩る気だぜ?」
ドニが武器を構えると同時に、お父様が再び詠唱を始める。
周囲の野盗から流れた血が腰の鞘に吸い込まれるように入っていくと、そこから血で出来た武器が何本も飛び出し中に浮かびあがった。
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