第3話

 護衛騎士リバストの名前を聞いた後は、特に何事も無く説明が進み。

宿泊施設で豪華な夕食を食べて、眠るまでの時間特にやることもなくゆっくりと用意された部屋で休んでいると、誰かが扉をノックしてきて……


「……この時間に誰?」

「あぁ、俺だよ俺」

「名前を名乗らずに俺と名乗る不審者を専属の使用人にした記憶は無いわよ?」


 二人きりの時は、素の口調で話していいとアーロに伝えてはあるけど、誰が聞いているか分からない場所でやるのは良くない。

もしお母様に聞かれたら、今度は怒られるどころか一緒に学園に行けなくなってしまう可能性がある。

あそこは貴族としての教育を受ける場所でもあるけど、何よりも婚約者を作る施設としての側面もあって、今回の人生ではシルヴァと婚約関係になる気はないから、私も他の人を探さなければいけない。

それにアーロにも良い相手を見つけてあげたい、従騎士から一人前の騎士になったら立場的には準貴族になれるから、領地を継ぐ事の無い地方の貴族令嬢と婚約させれば良いだろう。

騎士と貴族の恋愛は良くある事だし、彼の性格的に女性をぐいぐいと引っ張っていくタイプだから、大人しい気質の子で騎士物語に憧れがある夢見がちな子だったら相性が良い筈。


「……あ、あぁ、マリスお嬢様、夜分遅くに申し訳ございません、お話がしたいのですが」

「言葉遣いがなっていないけれど、まぁいいわ入りなさい」

「……失礼致します」


 私の返事を聞いたアーロがゆっくりと扉を開けて中に入る。

それに合わせて貴族が利用する部屋に必ず備え付けられている、防音の魔法が付与されているベルを鳴らす。


「……マリス、態々防音の魔法を使う必要があるか?」

「ピュルガトワール領のお屋敷なら必要無いけれど、ここは私の他にも王都に向かう貴族が宿泊している可能性がある場所よ?本来なら専属の使用人であり従騎士という立場であるとはいえ、男性であるあなたが年頃の女性の部屋に夜間訪れるだけでも問、変に勘繰られてありもしない噂を立てられるかもしれないのよ?」

「あぁ……そりゃ俺が悪かった、ごめん」

「別にいいわよ、こうやって防音を施した事だし、それにもし勘繰られてとしても私があなたに相談したい事があって部屋に呼んだって事にするから、けど次からは気を付けてね?昼間馬車でお母様に言われたから大丈夫だと思うけど、学園で同じような事をしたら危険よ?」

「おぅ、学園に着いたらしっかりとやるから安心してくれ」


 安心してくれって言われても、安心出来ないのは気のせいではないだろう。

このままだと間違いなく同じ事を繰り返してしまうだろうから、王都に着くまでの間護衛騎士のリバストに厳しく教育をして貰った方がいいかもしれない。


「その言葉を信じる事は出来ないわ、だって私はあなたの主人としてしっかりと教育をしなければいけないもの」

「教育って……、何をすんだよ」

「まずは護衛騎士のリバストさんに頼んで、王都に着くまでの間厳しく躾けて貰うわ、騎士たるものの礼儀作法とか色々とあるのでしょう?それを徹底的に叩き込んで貰うの、だってアーロの指導をしているのはある人だよね?」

「うげぇ……、あの人本当に厳しいから、今よりもってなると俺死んじゃうかも」

「人はそんな簡単に死なないから、安心してリバストさんに躾けて貰いなさい……王都に着く前に私がしっかりと改善されているかテストをするわ」


 私の言葉を聞いたアーロが、焦った表情を浮かべる。

本当はそんな事したくはないし、私が彼を護衛騎士にすると決めた以上は……これくらい厳しくした方がいいのかもしれない。


「その時に直ってなかったらあなたを専属使用人から外して一人で学園に行くわ」

「……まじかよ」

「あなたなら出来ると信じてるわ……、頑張ってねアーロ」

「……わかった」


 お母様の言うように平民の貴族の違いは、どうしても生まれ育った環境で出てしまうし、その中で培って来た経験と常識を変えるのは凄い難しいと思う。

けど……アーロなら出来ると私は信じてるし期待してしまう、だってピュルガトワール領にいる間、使用人見習いから努力して正式な使用人になれたし、それに従騎士として頑張り続けて来たのを知ってるから。


「……さて、お説教はこれくらいにして、アーロは何をしに来たの?」

「あ、おぅ!忘れるところだっ……、すいません、忘れるところでした」

「今は普段のように話していいのよ?」

「……そうしたいですが、こういうのは普段から気を付けた方がいいとおもった?おいもました?だから、頑張らないと、です」

「ふふ、おいもましたって何?それに、頑張らないとですって、なんかもう言葉としておかしいわよ?……もう、気持ちは嬉しいけど今は普通に話してちょうだい、あなたの主人である私が許可をするわ」


 アーロの気持ちは嬉しいけど、変に意識して喋ると何を言ってるのか分からなくあんりそうだから、今は普通に話して貰った方がいいだろう。


「……じゃあ、そうするけど、経路の相談をしてる最中にマリスの顔を見て思ったんだけどさ、何か嫌な事でもあるのか?王都までの街道って安全なのに何かあったのか?」

「何かっていうよりも、良くない事が起きる気がして……ほら、こういうのって当たるって言うじゃない?」

「悪い予感程良く当たるって言うからなぁ、……あぁ、それなら俺なりになんか考えてみるわ」

「……信じてくれるの?」

「ん?当然だろ、マリスは俺の主人だぞ?騎士は主人を守り信じる盾であり剣だ、おまえが不安に感じてるなら何とかするのが俺の役目だろ?……じゃあ、どうするかこれから二人で計画を立てようぜ?」


 アーロはそういうと部屋のソファーに勢いよく座る。

けど、あまりの座り心地に驚いて立ち上がると、再びゆっくりと腰を下ろしては両手で生地を触ったりを繰り返しては……


「お、おぉ!?なんだこれ!座ったら身体が沈むっ!すげえ!」


 と子供のような声を出してソファーの上で飛び跳ねるアーロを見て、男の子ってそういうところかわいいらしくて面白いなと感じて、思わず吹き出して笑ってしまった。

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