第9話
指示を待たれても、お母様が再び話し始めるのを待つしかない。
でも何処か遠くを見つめるその眼は何だか辛そうで……
「えっと……お母様」
「ん?どうしたの?」
「話の途中で黙ってしまいましたけど、大丈夫なのですか?」
「えぇ、大丈夫よ……、この歳になるとふとした時に昔を思い出す事が多くなるの……そうね、例えばマリウスと出会わなかったら、どんな人生を歩んでいたのかしらとか、色々とね」
「お父様と出会わなかったら?」
お母様がお父様と出会わなかったら、どうなっていたのか凄い気になる。
その場合は誰と結婚していたのだろうか、私はお母様の子として産まれていたのか。
色んな想像をしてしまうけど、二人の間に生まれないという人生が想像できなくて不思議な気持ちになってしまう。
「出会わなかったら、政略結婚の道具として使われて好きでも無い相手との子を産み育ててたでしょうね」
「……アデレード様が、ピュルガトワール領に嫁ぐ前にいた所はそこまで厳しいところなんですか?」
「貴族至上主義の一族の中ではまだましな方ね、ただ……女性はあくまで子を産む道具でしかないわね、学園に通わせて貰う事になったのも、優秀な血を持つ貴族との婚姻を結ぶ為だったもの」
「あぁ、つまりそこでマリウス様に出会って、恋に落ちたって事だ……ですか?」
お母様が生まれ育った場所が、貴族至上主義だという事は知ってはいたけど……そこまで酷いだ何て思っていなかった。
けれど貴族の中では政略結婚は良くある事で、二人のように恋愛結婚と言うのは改めて思うけど本当に珍しい。
勿論、以前の人生でシルヴァ王子と惹かれ合い婚約に至った時も……、色々と問題が起きたのを覚えている。
でも……当時は何故か途中で、私達は何もしていないのに全ての問題が急に解決して、すんなりと事が進んだのは今になって思うと、何かがあったのかもしれない。
「そうね、けどその話は恥ずかしいから機会があったらマリウスから直接聞いてみるといいわ、マリスが聞いたら喜んで教えてくれるんじゃないかしら」
「興味があるけどやめておきます」
「そう?あの時のマリウスはかっこ良かったのに残念ね」
「アデレード様、話したいのか話したくないのかどっちなんですか?」
「それは……話したいけれど、二人の大事な思い出をマリウスの許可なしに話すのは良くないもの」
お父様の許可が無いと話せない程の事だったら、どうしてそんな思わせぶりな発言をしたのか。
もしかしたら、無理矢理にでも聞いて欲しかったのかも?いやでも……あのお母様がそんな事をする訳が……、何だろう私の知ってるお母様とは印象が違い過ぎて、どうすればいいのか分からなくなりそう。
そう思い頭を悩ませていると、徐々に馬車の動きがゆるやかになりその場に停車する。
「……アデレード様、マリス様、そろそろ陽が暮れて来ましたので、本日は道中にある小屋の付近で野営を致します、ヘルガとアーロは護衛の為、二人の側から離れず周囲の警戒を怠らないよう気を付けよ!」
「了解致しました!」
「わ、わか……了解です!」
扉が外から開かれると、護衛騎士の人が声を掛けてくれると他の馬車に積まれている荷物の中から野営に必要な道具を取り出す為に、私達から離れて行く。
「あら、話しているうちにそんなに時間が経っていたのね」
「小屋があるなら中で泊まれば良いのでは?」
「マリス様、そうしたいのですが……あの小屋は領地と領地の間を行き来する行商人や、彼らを護衛する雇われの兵達が利用する施設ですので、貴族と言う尊き血筋の方達が利用するのはお勧め致しません」
「何でおすすめ出来ないのかしら?」
「あぁ……そりゃあれだ、いえ、ですよ、騎士の教養について学ぶ時に守るべき貴族について教えて貰うんだけど、マリス様やアデレード様は貴族だから見た目も凄い綺麗だろ?です、だから他国とも交流がある行商人に騙されて、個人では返せないような借金を背負わされる可能性があんだよ」
以前の人生では道中で野営をする事が無かったから、行商人達とやり取りをする事も無かったけど、どうして彼らと関わる事で借金を背負う事になるのか。
ちょっとだけ、興味があるけどそこまでアーロやヘルガが言うのなら近づかない方がいいのかもしれない。
「……学園に入学する為に王都に行く貴族の子供や、同行する親族にどうして護衛を付けるのか、マリスもこれで分かったんじゃないかしら?」
「そういう脅威から守るため?」
「えぇその通りよ、彼等に騙されて負債を背負う事になったら、他国にその身を売られて、美しい容姿を使って返す事になるわ」
「……それって拒否する事は出来ないの?」
「勿論出来るわよ?負債の返済はあくまで期日以内に返せれば良いのですからね、けど……特に貴族至上主義を掲げる貴族の殆どは拒否が出来ないのよ、彼等は一度交わした契約は例えそれが口約束であっても、尊き生まれという立場を守る為に着いて受け入れてしまうの……それでこの国を出て行方不明になる人も多くないわ」
だからそういう悲劇を起こさない為に、王都までの道中を護衛する騎士達がいるのかもしれない。
彼等がいるから安全に旅が約束されていると思うと、護衛騎士の人達に対する感謝の気持ちを忘れないようにしようと感じて、遠くから行商人達が使う小屋を見る。
すると、中から恰幅のいい男性が美しい銀の髪と青い瞳を持ち、豪華なドレスを身にまとった嫌がる少女の腕を掴み、嫌らしい笑みを浮かべながら私達の方へと近づいて来る姿が目に映った。
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