第一章 いざ安住の地へ

第3話 <家> 商人の恐ろしさ

『それにしても、まさか本当に買ってくれるとはな』

「迷惑だったかな?」

 

 私の呟きに返事をする男。

 しかし迷惑なんてことはない。

 むしろクーリングオフされたら迷惑だ。

 クーリングオフってなんだっけ?

 

『そんなことはない。むしろもう逃がさん』

「あははは。凄い勢いだったもんね、買うって言った時」

『それはそうだ。売れなかったらあの商人の奴が何をやってくるかと思うと』


 あの商人はおかしい。

 この私を超える魔力……。

 よく考えたら絶対おかしいよな。

 私は人間と比較して相当強いはずなのに。

 実は神様とか言われた方が納得できる。

 なんなんだろうか?

 召喚されたとき以来、あの神様とは会っていない。

 あれはもう……どれくらい前だっけ?

 ここに来たのが700年前らしいから、その倍くらい前かな?

 

 まぁいい。

 買ってもらえたからもう関係ない。

 あとはこのお坊ちゃんを離さないことが重要だ。

 ……。

 といっても何をすればいいんだろうか。

 まずはじめにやることは……?

 洗脳じゃないことは確かだよな?

 ……ダメかな?


「僕はフィン。よろしくね、家さん」

『あぁ、よろしく。私は家だ』

「あはははは、そのまんまだね」

 洗脳してもいい気がする。

 ちょっと……。


 いや、やめておこう。

 こいつ貴族っぽいしレジストされると面倒だ。

 

「僕はこの辺りに拠点が欲しかったからちょうどよかったんだ」

 私が黙っていると、こいつは話し始めた。

 喋る家がちょうどいいとはどういうことだろうか?

 なんか追われていたし、面倒なのは勘弁してほしいのだが。


『お前は貴族だろう?どうしてわざわざ平民街に拠点を作るのだ?』

 あきらかに身なりはいい。

 わざとお古を着ている感じだ。


「バレバレだったかな?少し……貴族街には居ずらくて」

 

 言い淀んでいたが何か問題があるのだろうか?


「ちょっとお家の事情、でね」

 

 なるほど。

 十中八九、家督争いとかだろうな。

 まったく人間は。

 矮小な分際でよく争うものだな。

 竜ほどとは言わんが、もう少し落ち着きを持ってほしい。


「兄が病気でね。僕は継ぐ気はないんだけど継承権を手放してしまうと母や支えてくれる人の立場が悪くなるからそれもできなくてね」

『それだと誰が継ぐんだ?』

「弟がいるんだ。彼は継ぎたいらしくてね。彼じゃなくてその母親や親戚が継がせたい、かもしれないけど」

 なるほど、ややこしいな。

 異母兄弟というやつなんだろうか。


『それで狙われているのか?』

「そうじゃないと信じたいんだけどね」

『無理があるだろう。他の理由もあるのならまだしも』

「あるかもしれないじゃないか」

 ないだろう。

 見た目がいいわけではないし、魔力が高いとかでもない。財力はわからんけど。


『それで、こんなところに家を買って何がしたいんだ?』

「とくにこれといって何かあるわけじゃないんだけど」

『ないんか~い』

「えっ?痛っ」

 思わず風魔法を使ってフィンを軽く叩いてしまった。

 そこは自分の部下を集めて計画を実行したいとか、兄貴を治すための研究がしたいとかだと思うだろう、普通。

 

 涙目になっているフィン。

 そんな目で見ても私の中には何も目覚めないぞ?


「どういう仕組み?なんか叩かれたんだけど」

『私が叩いた……というか突っ込んだのだ』

「なんで?」


 理解していない様子のフィン。


『わざわざ平民街に家を買ったのになにもないとは……』

「だって。とりあえず家を出たかったんだ」

『親は心配しないのか?』

「ちゃんと報告すれば別に問題ないと思う。外で拠点を作ることは許されているから」


 そうなのか。

 貴族というのはそんなものなのかな?


『ではちゃんと報告するのだぞ?』

 私のために。

 いきなりいなくなったりされては困る。


「もちろんだよ。というか、買ったけどずっと住むことにはならないと思う。当分の間は行き来すると思うからよろしくね」

『わかった。だが、決して売ったりするんじゃないぞ?』

「あはははは。わかってるよ。もし何かあったら言うからね」

 こいつのこの軽さはなんなんだろうか?

 お家騒動の渦中にいたらもう少し悲壮感にかられてそうなのに。

 命を狙われているのにこの感じはおかしい気がする。

 まだ精神的に子供だからか?

 まぁいい。

 私を手放さなければいいのだ。

 むしろいない日が多い方が楽でいいな。

 

『あぁ、ちゃんと念話を切って聞くよ』

「えっ?念話を切っちゃったら僕の声は聞こえないんじゃ?というかそもそもこれ念話なの?」

『もちろんだ。お前はどうやって私と会話していると思っていたのだ?』

 やはりこいつは抜けている……というか軽い。

 気楽でいいな。

 

「そりゃ、考えれば確かにそうだけど、家が念話を使うなんて思ってもみなかったよ」

『そこら辺のお家と一緒にするんじゃないぞ?』

「さっきの叩かれた仕組みといい、念話といい……そもそも襲撃者をあっさり撃退しているし、家さんは高性能だね。っていうか、襲撃者は?」

『商人が出ていくときに持ってったぞ?今頃は……ナムナム』

「ナムナムって何?怖いから!」

『世の中にはお前がどう思おうが仕方がないことがあるんだ』

「なんかものすごく釈然としないけど、わかった」


『一つ賢くなったな。ということで、私の紹介をしておくか?』

「お願いします!」

『まず間取りだが、1Fにリビング、ダイニング、トイレ、浴槽と洗濯場がある。2Fには寝室、書斎だ。それ以外に用途が決まっていない小部屋が1Fに2つ、2Fに3つあるぞ』

「なんか物凄い普通の説明だった」

『当たり前だ、何を期待していたのだ?』

「そこはなんというか、使える魔法とか戦闘能力とか」

『家に戦闘能力を聞くなんて、お前大丈夫か?』

「ぜったいにあなたに言われる筋合いはないと思う!普通の物件に戦闘能力を聞いたら頭おかしいのは理解できるけどさ!」

『……』

「なんでそんな遠い……いや、目はないね」

『はぁ』

「なんで僕がため息つかれてるの?」

 こいつ面白いな。

 久々の人との軽いやり取りはなかなかに楽しい。

 叶う事ならこいつが長く住んでくれるといいな。


『ステータスが知りたいのか?』

「えっ?教えてくれるの?」

『別に構わんが……ほれ』

 そう言って私は空中にステータスを表示する。


「ほんとうにステータスあるし」

 失礼な。

 こんな素敵でかっこいい私にステータスがあって、何を驚くことがあるのか。

 えっ、魔道具にステータスはないだろうって?

 その辺の話はまたどこかでするよ。

 そもそも召喚されたときにした神様との問答を。


  <家のステータス>

 名前:ザ・家 [改名可能]

   HP: 20,031,200

   MP: 16,784,000

   物理攻撃力: 928,500

   魔法攻撃力: 730,250

   物理防御力: 1,334,400 + 170,000[装備品]

   魔法防御力: 974,720 + 165,000[装備品]

   速度: 7,000 - 850[装備品]

   知性: 10,740

   魅力: 800 + 100[装備品]

   運勢: 500 + 140[装備品]

   加護 星の加護

   装備品 外壁、スペシャルな家具

   スキル

     格闘技Lv6、火魔法Lv6、水魔法Lv5、

     風魔法Lv4、地魔法Lv4、雷魔法Lv6、

     木魔法Lv5、光魔法Lv5、闇魔法Lv5、

     空間魔法Lv5、時魔法Lv2(装備効果)、

     星魔法Lv6(加護の効果)、

     支援魔法Lv5、回復魔法Lv6、計算Lv7、

     思考速度upLv4、念話Lv4、鑑定Lv4、

     分割Lv4


「これは夢かな?」

『どうした?』

「どうした?じゃないよ、なにこのステータス!?」

 私のステータスを見て騒ぎ始めるフィン。

 失礼な。

 完全無欠の家に相応しいステータスだろう。

 だから、名前も弄ったし。


「そもそも数値が高すぎるし、スキルレベルも高すぎじゃない?」

『だが事実だ』

「そりゃそうだろうけど。擬態とかそんなスキル持ってない?……いたっ」

 むかついたのでさっきより強めに突っ込んどいた。

 私は疑われるのは嫌いだ。

 

「ごめんごめん。それくらい凄いステータスだったから」

『まぁ理解はできる。至高の家に相応しいステータスだと思うが』

「それはもう……。というか人間では勝てない気がする……」

 それはそうだろう。

 普通の人間は数十~数百程度の数値に、スキルは2,3個しかないのだから。

 私は歴史上最強の人間より上なのだから。

 

「スキルの数も多いし、レベルも高いしね……」

『フハハハハハハ!!』

 スキルの多さもレベルの高さもおかしいと言われた。誰にって?

 召喚されたときに出会った神様にだ。

 あのときはほとんどのレベルが4だったけど、4で熟練者レベルらしい。

 最大は10だけどそれは神様レベルだ。

 8で世界最強クラス、6でもかなり突出した才能ということらしい。

 私の場合は使いまくっていたら上がったからよくわからんが。


『私の能力が高いことはお前にとっていいことだろう?』

「それはもちろん。ここで暮らす限り安全な気がするよ」

 うむ。わかればよろしい。

 たとえ高位魔法の集中攻撃を受けても中の住人を死なせはしない。


「家具もあるのはいいね。取り揃えなくて済むし」

『むしろ勝手に持ち込むなよ?私の眼鏡にかなわないものは置かせない』

「どこに眼鏡があるんだよ」

 うるさい。

 もう一回叩いておく。

 

「むーーー」

 そんな顔でこっちを見るな。

 私には何も目覚めはしない。

 いやさせない。


「まぁいいや。じゃあ今日は家に帰るね……はややこしいね。実家に帰るね。また明後日来るよ」

『忘れないでね(涙)』

「……」

 なんだよその眼は。

 私はこういうノリの軽さが好きなのだ。

 

 ちなみに鑑定スキルでフィンのステータスを盗み見たら、とても不安が強まった。

 弱くね?ほんとに主人公?

 前に聞いた平均からするとHPと魔法攻撃力・魔法防御力は少し高め、知性と運勢は高め、他は平均ちょい上くらいだ。


 

  <フィンのステータス>

 名前:フィン・クロード [改名可能]

   HP: 174

   MP: 102

   物理攻撃力: 38 + 15

   魔法攻撃力: 63 + 10

   物理防御力: 36 + 15[装備品]

   魔法防御力: 43 + 15[装備品]

   速度: 28 + 20[装備品]

   知性: 64

   魅力: 31 + 5[装備品]

   運勢: 63

   加護 なし

   装備品 魔銀のナイフ、魔糸の衣、

       防御の指輪(小)、

       王家のペンダント

   スキル

     剣技Lv2、水魔法Lv2、雷魔法Lv3、

     支援魔法Lv2、回復魔法Lv2、計算Lv5


△△△△家のつぶやき△△△△

ここまでお読みいただきありがとう

完全無欠の私に比べてか弱いステータスのフィンが可哀想になったキミ!

1個だけでいいから★評価を!

フィンを応援してくれ!!!

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