第7話 <フィン> 国王の言葉

 今日は王城の食事会だ。

 家さんを買ってもう1か月も経つんだな。


 僕はあれから手を尽くしたが、まだ財務卿に認めてもらえていない。

 魔導騎士団長のところに正攻法で話に行ったが、魔道具は信用できないの一点張りで話にならなかった。


 ローザがクソジジイ呼ばわりしている魔導騎士団長は、頑固で偏屈で魔法至上主義者だ。

 ちなみに僕は心の中限定でハゲと読んでいるのは内緒だ。

 心の中限定だから許してほしいな。

 彼からするとたいした魔法を使えない僕は例え王子だとしても見下す対象のようだ。


 どうやって魔道具の研究を進めるか……。

 僕の活動を知っているはずだけど父上は何もおっしゃらない。

 僕を試している部分もあるのかな?


 母上を通じてお祖父さまにも手紙で意見を聞いたけど、焦る必要はないと言われた。

 じきに魔道具を無視できなくなるとのことだ。

 それはわかるが、無視できなくなる理由が敗戦ということだってありえるんだ。

 そう思うと僕はやっぱり焦る。


 神殿で神官にも話を聞いた。

 彼らは国からは独立した組織で、魔道具も使っている。

 だが、彼らの反応もあまり期待したものではなかった。


 神殿で使っている魔道具の効果を教えることはできるが、それは既に魔導騎士団長や父上もご存じとのことだ。


 知った上で聞かないなんて、なにを考えてるのか?



「兄上、王都を這いずり回っていると聞いているけど、なにかあったのか?クックック」

「ダリアン……」

 そしてこいつは……。

 昔はあんなに素直だったのに……。


「そんなに頑張って王になりたいの?大変だね。クックック」

「くっ……」

 できるなら思いっきり殴り飛ばしてやりたいけども、こいつは僕より強い……。ガタイもいいし、剣も魔法も。

 王になりたいからとかじゃないんだ。なぜわからない。


「ダリアン、席に着きなさい」

「はい、母上」

 止めるなんて珍しいと思ったが、そろそろ父上が来られる時間だからか、イザベラがダリアンを呼ぶ。

 僕も席に着く。


「皆、揃っているな」

「「はい!」」


「では、はじめよう。今日は宣言がある」

「「!?」」


 まさか……。


「今年の秋に選定会議を行う。その宣言だ。皆、心して準備を整えよ」

「「はい!」」

 ついに来た。

 秋まではあと4か月くらい……。

 時間は少ない。


 今回もまた食事の味はしなかった。


 

 食事会が終わり、全員が帰るのを見守ってから1人、自室に戻ろうとすると、侍従長に止められた。

 

「フィン様。陛下がお呼びです」

「父上が?」

 なんだろう。このタイミングで?


「前回の会議で平民街のことを報告するようにと仰っておられました。それかと……」

「わかりました……」

 忘れていた……。

「陛下は書斎におられますので、そちらに向かわれますように」

 どうしよう……。

 そもそもあまり平民街を歩くようなことはしていないのだが。

 

 

 僕は仕方ないのでありのままを話すことに決め、父上の書斎に向かった。


「父上、フィンです」

 ドアをノックして名乗る。

 父上からは2人のときは気楽に話していいと言われていて、それに甘えている。さすがにタメ口はできないけども……。


「入れ」

 父上の声を聞いてから僕は部屋に入る。


 落ち着いたその部屋はゆっくり話をするにはいい場所だ。

 調度品も豪華ではあるが玉座の間ほどきらびやかではなく、温かみのある色調でそろえられている。

 そんな部屋の中央部にあるソファーに腰掛けた父上に迎えられ、僕もソファーに腰掛ける。

 2人きりのとき、よくここに座らせてもらって話を聞いていた。

 あれからもう数年経つ。


「よく来たな。少し隈があるか……」

「すみません、少し寝不足で」

 父上は僕をまっすぐ見て心配してくれる。


「よい。私の意を汲んで動いてくれているのだろう。一方で周囲は動かない。もどかしいだろう」

「正直に言いまして、そうです」

「どう思う?」

 

 僕は正直に言うと決めている。

「なぜあんなに頑固というか、忌避するのかがわかりません。平和に溺れているように思えます。危機感がない」

「ぼろくそだな」

 父上が少し笑う。


「申し訳ございません。しかし……」

「もどかしいだろう。人を動かすのは」

「……はい」

 そう答えたが、そもそも僕は動かせていない。

 相変わらず財務卿は首を縦に振らないし、魔導騎士団長は頑なだ。


「ヒントがいるか?」

「……なにかご存じで?」

「なんのことはない。王位継承問題だ。それにつながっている」

 どういうことだろう。

 財務卿は中立の立場だ。魔導騎士団長だって中立の立場だ。ただ魔導騎士団には第2妃の実家の関係者が多い。

 しかし、それにかこつけて国を危険にさらすのか……。


「お前の怒りはわかる。私の言ったことをよく覚えているな」

「国は民のため」

「そうだ。そうだとしたら彼らのやっていることは大罪だ」

 父上が過激だ。

 飲まれているのかな?

 僕も同意見だが。


「それでも彼らを罷免するわけにはいかないのですか?」

「そうだ。なぜだと思う?」

「……わかりません」

 わからない。なぜ?


「彼らのもとにも一定の民がいるからだ。意見は一つではないのだ」

「……はい」

「彼らを動かすにはどうしたらよいか?それは尽きることなき命題だ。王として避けては通れぬ」

 それはそうだが。

 王として命令するのではだめなのだろうか。

 財務卿にはダメだと言われたが……。


「王命ではダメ、ということですよね?」

「そうだ」

「なぜダメかわかるか?」

「……」

「授業だ。フィン。この国は王政ではあるが、大臣と会議を置いている。法制度に基づいて運営しているのだ。法制度に基づいて運営するということは、特別な場合を除いて強権的に命令することは避けるべきだ。なぜかわかるか?」

 なぜだ……。

 正直、邪魔をされるくらいならずっと強権の方が手っ取り早いと感じてしまう。


「なぜなら皆が考えなくなるからだ。強権はあるときにはよい。戦時中や災害時などの場合だ。しかし常時強権によって押さえつければ、その国は腐敗する。王が凡庸な時、王の目が届かない時。様々な場面で行き詰まる。それは避けねばならぬ。国は一代で滅んではならんのだ。それこそ民が倒れる」


 言われることはわかる。

 しかし、周辺国が増強され、それに置いて行かれるかもしれないんだ。

 戦時のようなものでは?


「明らかな危機が迫っていても、強権はダメなのですか?」

「危機を皆が理解しているかどうかだ」

「しかし、目は閉ざされています」

「ならば、どうやって目を開かせるかだ」

 そんなこと、どうやったらできるんだろう。


「フィン。1つだけ言っておく」

「はい」

「順番に囚われるな。時勢は支配できないのだから。流れ着く先を見据え、利用し、その時必要だと思うことをなせ。恐れるべきは自らの死ではなく、国の……民の死だ」

 僕は……。



 父上から軽いお酒を頂き、僕は自室に戻った。

 僕がなすべきこと。

 皆に理解させること。

 どうすれば……。

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