第8話 <家> 魔力病は治せるぞ?

 数日ぶりにフィンがやってきた。

 前はふらっと来てくつろいで帰っていったが、このところフィンは忙しいらしい。


 どこの女とうつつを……(ぎりぃ)。


「家さん、ただいま」

『どこの女だ(がおー)』

「えっ?なに?だれ?ファイヤーボール!」

「ちょっ、ローザ!」

 この女、魔法を使いやがった。

 効かないが……。


「なんで燃えないの?ファイヤー……」

「やめて、ローザ!」

『それくらいにしてくれ。私は燃えなくても本や家具は危ない』

「!?!?」


 フィンは連れてきた女に私のことを話していなかったらしい。

 まったく、待ちわびる私のところに女を連れ込むなんて。


『フィンが……大人になってしまった……』

「違うから。ローザはそういうのじゃないから。警備隊員で僕の護衛だから」

 なんだ護衛か、と思ってその女を見ると、平静を装っているが明らかに動揺していた……ナムナム。


『数日ぶりだな、フィン。忙しそうだ』

「そうなんだよ。選定会議の開催が宣言されてね」

『なんだそれは?』

「えっ?」

 えっ?じゃない。私は家なのだからそんなものは知らん。

 名前からして何かを決めるのはわかるが。


「選定会議は次の国王を選ぶ会議だよ」

 なるほど。説明をしてくれるフィンの話を聞いてもめんどくさいとしか思えないが、そういう手続きがあるということか。

 伯爵以上が全員出席とはなかなか大変そうだな。

 

『継承権を捨てる宣言はしたのか?』

「何を言うのです。フィン様は次の王になるのです!」

 まだ言ってないらしい。

 まぁこんなに応援されていては難しいのはわかるが。


「ローザ、僕は王位は欲しくないんだ」

「フィン様!何をおっしゃるのですか」

「ローザ……」

『カーム』

「「えっ?」」

 とりあえず落ち着け。

 焚きつけたのは図らずも私だが煩くてかなわん。


「今のは精神安定の魔法ですね。その……この家が魔法を使っている?」

「そうなんだ。家さんは凄いんだ」

 フィン……もう少し私を表現するのに良い言葉はないのか?なんか安っぽい。


「家さんは相当強いよ。襲撃者から2回も助けてもらったし」

「フィン様……どういうことですか?」

「あっ、いや、その……」

 ローザという護衛の女に問い詰められるフィン。

 姉さん女房みたいだな。


「ありがとうございます、家様」

 そう思っているとローザに礼を言われる。

 家様ってウケる。


『あぁ』

 どうやら守ったことへの礼らしいので素直に受けておく。



「それで、なぜフィン様は王位継承権を捨てたいなどと……」

「捨てたいわけじゃないんだ。ただ、僕が王になっても良いことはないと思うんだ。だから……」

「そんなことはありません。フィン様にはフィン様の良いところがあります。きっと民のことを思う良い王になります」

 思うのは思うだろう。

 きっと必要以上に。ただそれだと王は重たいということだ。


「僕は……」

 悩んでいるな、やはり。

 1か月かそこらで変わるものじゃないんだろうけど。

 ここは少し踏み込んでみるか。

 選定会議というのはいい機会だと思うから。


『まだ心は決まらんか?それとも方法か?』

「方法……だね」

 そうだろうな。

 

『耳に痛いことかもしれないが……』

「わかってる。わかってるんだよ」

『本当か?目を逸らしてるんじゃないか?』

「家さんになにがわかるんだよ」

『外野でもわかることもある』

「……」

 むしろ外野だからわかることもある。

 

『もし弟が王になったらお前と母親は処刑されるんじゃないか?』

「そんなことはない。今は王位を争うライバルだから喧嘩もするけど、あいつはそんな非道なやつじゃない」

『もしお前の弟がそうだったとしても、周囲が放っておかないのではないか?お家騒動の種だぞ?』

「……」

 それは歴史だ。

 継承争いの末路などそんなもんだ。よくて幽閉だろう?


 今フィンがいなくなったらあの商人に取り壊されそうだから勘弁してほしい……。

 

『お前だって気付いてるだろう?』

「だったらどうしろって言うんだよ!」

『だから兄貴を治せばいいじゃないか』

 それ以外になくないか?幸いなことにまだ生きてるんだろう?

 もう1つは国外に逃げることだが、それは今は話さないでおこう。

 

「簡単に言うけど、魔法使いも神殿も治療術師もみんな無理だって言った病気だよ?僕に何ができる」

『私がいる。少なくともお前やこの国の人間よりも……いや、よりというか、違う知識を持った私がな』

 そもそもどんな病気なんだ?


「魔力病は不死の病だよ?そんな簡単に……」

『魔力病だと?』

「そうだよ。魔力病だ。だから治せないんだ」

『なんで?』

「なんで?って?魔力病は治せないでしょ?」

『いや、治せるだろう』

「えっ?」

『え?』

「治せるの?」

『治せるというか……昔私に住んだ家族の子供が魔力病にかかったけど、治してたぞ?』

「えぇぇぇええぇえぇえええええええええ」

 うるさいな。


「教えて!家さん。お願いだから!」

「家様」

『一応聞いておくが、ローザと言ったか。お前はどう思う?こいつの兄貴が治ることについて』

 大反対とか言われたら難しいな。

 この女は警備隊員とか言っていたな。ということはこいつは単独で動いていない。

 おそらくフィンを守りたい人たち、フィンの派閥の意を汲んでいるはずだ。

 どうか反対しませんように。


「もしミカエル様が治るのであれば、それが一番幸せな方法だと思います」

『そうか』

「ローザ……」

 それなら話は早い。

 

『魔力病の治し方は……』

「治し方は?」

 あれ?どうだったっけ?

 確か……。

 うん、魔道具を使ってたことくらいしかわからん。


「家さん?」

「家様?」

 2人して玄関の壁に向かって喋ってる。

 知らない人が見たら頭おかしくなったのかと思うだろう……。




『魔道具を使っていたのは覚えている』

「魔道具……かぁ」

 がっくりとするフィン。

 なんだ?魔道具はダメなのか?


『何か問題があるのか?』

「この国ではね、家さん。魔道具はかなり敬遠されているんだ」

『なぜ?』

「魔導騎士団長が嫌っていてね。自分たちの仕事が奪われると思ってるんじゃないかと」

『阿呆だな。今の世界でどれくらい魔道具が使われているのかは知らんが、その威力、効果は間違いなく大きいのに。そして魔導具の目的は使うものの補助だ。魔導騎士ならばより強力な魔導具が使えるだろうに』

「効果が大きいからこそだと思う」


 しばらく話したが、この国の魔道具のレベルは相当低かった。

 それなら魔力病が治らないのも納得だ。

 あれは魔法をはじいてしまうから、普通に回復魔法をかけても絶対治らないんだったかな。思い出してきた。

 そして、魔力が意図せず溜まってしまって、それが溜まってしまった臓器を殺してしまう病気だから治療や手術も魔力なしではできないってことだったな。


 だから魔道具が必要なのに。


「結局ここに戻るね。魔道具を何とか認めさせないと。そうしないと例え兄上を治しても兄上にとっての障壁ができてしまう」

『魔道具で助けられたものの命に従わない奴が出る?』

「かもしれない。何かと足を引っ張るくらいかもしれないけど」

『それでも邪魔だな』

「うん」


『今考えてもしょうがないな』

「えっ?」

『考えてもしょうがないって言ったんだ。何を考えたってどうせ進まない。なら何かを進めてみるしかない』

「……」

 ここまで言ってもまだフィンは及び腰だ。


『もし魔道具が認められたと仮定して進めるのはどうだ?仮に認められたときに治療の魔道具がないのでは話にならない』

「……わかったよ、家さん」

 乗ってきた。

 フィンもわかってるんだろう。

 他に方法がないことが。

 このまま上手く転がせればいいんだが、職業を奪われるかもしれない恐怖を持ってる騎士団長とか面倒なことこの上ないな。


『そして私がその魔導騎士団長をぶっ飛ばすから……』

「なんで!?」

 なにを驚いているんだ?

 

『襲撃者を送られてるんだ。やり返すだけだろう?』

「それはダメだよ」

『なぜだ』

「父上が認めない」

 なぜそこで出てくるのだ国王よ。

 まぁ襲撃者を送り込んでるのは魔導騎士団ではないだろうがな。


『何か言われているのか?』

「彼らもまた民だって。『常時強権によって押さえつければ、その国は腐敗する。王が凡庸な時、王の目が届かない時。様々な場面で行き詰まる。それは避けねばならぬ。国は一代で滅んではならんのだ。それこそ民が倒れる』って」

 ド正論だがな……。


 しかも国王のセリフ……。

 無視はさせられんな、私の家主には。


 選定会議で選ぶとはいえ、現国王の意見は強いはずだ。

 ここでフィン(の勢力)が魔導騎士団長を誅殺したりしたらそもそも国王に見放されそうだし。


『わかった。ではまず魔道具について考えよう』

 今考えてもしょうがないことは捨てておけ。




△△△△家のつぶやき△△△△

ここまでお読みいただきありがとう!

ようやく前向きになったフィンを応援してくれるそこのキミ!

1個だけでいいから★評価を!

頼んだぞ!!!

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