第21話 <家> 終戦

『怪我は……本当にないのか?フィン』

「はい、陛下。私は無事です。ブレイディ団長も。とうぜんリシャルデの街も、です」

 リシャルデの公館から王宮に通信の魔道具をつなぎ、魔導騎士団や駐留兵、王城警備隊が見守る中で国王に報告するフィン。


『よくやったな……本当によくやった』

「ありがとうございます。しかし初戦、失態により兵を失ったことを謝罪いたします」

 何かを噛み締めるような暖かい国王陛下の声。やはり優しい王のようだ。

 その国王に対してフィンは謝罪を口にする。彼にはどうしようもないことだったと思うが、それでもこの戦の総大将だ。責任はあるということなのだろう。本当に人間は面倒くさい。

 

 しかし、集まった者たちは皆、フィン王子に感謝と敬愛の心を持っていた。

 なにせ今回の戦争の立役者だ。


 魔導騎士団からすると、もともとは魔道具の使用を煩く主張する政敵だった。

 それが強襲を許可し、進軍についてくることで少しは認める雰囲気が出ていた。

 そして自分たちの甘さによって敗戦。

 それによって多くの団員が捉えられ、公開処刑になるところでは絶望しか感じなかった。

 その状況から身を挺して魔導騎士団を救い、自ら戦い、最後は自分たちと共にラザクリフ軍を打ち破ったのだ。


 フィン王子は魔導騎士団の英雄になった。

 

 そんな彼が、自分たち魔導騎士団の失態と、自らの失態として国王に謝罪している。

 団員達の心には申し訳なさと情けなさが漂う。


 しかし、それに続く国王の言葉は、やはり優しかった。


『誰しも失敗する。それによって起こることの重さを覚えておけ。戦争とはそういうものだ。リシャーダに集いしものたちはラザクリフを破ったのだ。胸を張れば良い。救国の戦士として余が讃える。誰にも文句など言わせぬ』

「ありがとうございます、陛下。我々は勝ちました。亡くなった者に対しても胸を張り、その労を讃えます」

 国王の言葉と、それに続くフィンの言葉にこの場の皆が安堵する雰囲気が広がった。

 

『うむ。しばらくはリシャルデに留まり、周辺警護と静養に努めよ。本来救援に向かうはずだった王国軍を再編成する。完了次第リシャルデの駐留兵の増員として送り出す故、彼らが到着し、任務を引き継いでから王都へ帰還せよ』

「かしこまりました、陛下」


 そうして王宮への報告は終わる。


 皆ホッとした顔をしているところに、フィンが語る。


「この国は長らく戦争を経験していなかった。それゆえ、その悲惨さは忘れ去られ、いざ起きた戦争も手柄を立てる機会として捉えられ、甘く考え、そして失敗した。この経験を忘れぬようにだけはしてほしい。亡くなった者たちのためにも。よろしく頼むよ」


 その言葉は厳しく、重く、そして痛い。

 しかし今は魔導騎士たちの胸にすっと入っていった。

 皆、死んでいったものたちを思い浮かべ、涙を流す。


「肝に銘じます、閣下。また、出発前にあなたを侮り、指揮権をよこせなどと言ったことを謝罪いたします」

 団長の言葉に、魔導騎士団員たちは驚く。

 今ここでそれを持ち出して謝罪する意味は、当然ながら団長自らが初戦の敗退およびその後の苦しい展開の責任を負うということだろう。

 フィンが少し苦い顔をしているのは、そのまま収めようとしたのにこのハゲが……!?ということかな?あいつは優しいから自らの責任にしようとしたのだろうがな。


「私から言うことは2つです」

 フィンが少し諦めた表情で語るその言葉に魔導騎士団員たちが一気に緊張する。

 フィンのことを認め、そして英雄視している魔導騎士団だが、大半はあまり親しくフィンに付き合ったことはない。つまり、考えが読めない。共に戦ったことに対する仲間感はあるが、それでもフィンは王子だ。そして、この軍の総大将だ。結果勝利した戦いではあるが、多大なツケの清算をフィンに頼ったのも事実。どのような指示がなされるのか、この場にいる皆が固唾を飲んでいた。

 

 また、強情で煩い人でも団長は慕われている。

 解任は困ると。

 しかし、将軍自身が過ちを認めている。初戦で敗退したにしては被害は少なかったが、それは結果論だ。


 場の空気が固まる中、フィンは話す。


「まず1つ目は魔道具の研究は実施して、可能なら活用すべきだと思う。魔導騎士団は強いんだから、魔道具を活用したらもっと強くなると思うんだ」

 皆の緊張とは裏腹にいきなり少年のように明るい声で話すフィン。

 ここで否定するものなどいない。

 できない。

 全員が頷く。


「理解してくれてありがとう。あと1つは……」

 皆の息が止まる。

 重苦しい空気が流れ、誰も動けない。


「団長が責任を取ってやめるとか言わないように、ということだね」

 ……?

 魔法騎士団員たちが一斉に頭にはてなマークを浮かべている。

 今なんと言われた?と。


「閣下。私は……」

「挨拶の時のことはすでに謝罪は頂いたはずです。その上で、お互いできることをやろうと、そう取り決めたと私は認識しておりますよ、団長」

「かたじけない」

 団長が泣いている。

 自らが魔導騎士団を制止できず、むしろ強襲を主張したのだ。

 後悔も大きいのだろう。


「団長から見れば、もしかしたら辞任した方が楽かもしれない。すまないが私では守れない部分があるかもしれない。そこは先に謝罪します。しかし、あなたが辞めても何も変わらない。残ってこそ、今回の実体験をもとに変えていくことこそ、必要だと思います。だからこそ、団長として残ってくれますよね?」

「つつしんで拝命いたします」

「「「おぉーーー!!!」」」


 魔導騎士団員が一斉に声を上げる。

 失った仲間が返ってくることはない。

 それでも自分たちは生き残り、敵を倒したのだ。

 苦い経験には対策をして、王国を守っていこう。

 みんなそう思っていた。


 そう、フィン王子のもとで。




 

 そんな光景を私は眺める。


 ん?誰だっけだと?


 私は家だ!

 それ以外にないだろう!

 タイトル読め!!


 まったくもう。


 このお話は私の物語だぞ?

 当然この景色は眺めているさ。


 しっかりとな。


 よく頑張ったな、フィン。



△△△△家のつぶやき△△△△

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