閑話 焦る王国軍
アストガ侯爵は苛立っていた。
このままではラザクリフにいいようにやられ、先行した王子と魔導騎士団が危ない。
本来ならば先行した魔導騎士団を追いかけて、可及的速やかに部隊を編成し追いかけるはずだったのだ。
しかし、兵站準備で遅れ、部隊編成の決定も遅れてしまった。もともとの計画では王国歴263年5月17日に魔導騎士団が出発し、その翌日には出発する予定だった。
そして魔導騎士団は5月19日にリシャルデに合流し、王国軍本隊は5月23日にリシャルデに到達する予定だったのだ。
それが既に5月20日になっており、既に魔導騎士団はリシャルデに到達しているにもかかわらず、王国軍の本隊はいまだ出発できていない。
魔導騎士団長による力強い演説ののちに魔導騎士団が出陣した後。
第4妃様が侯爵のもとに訪れ、どうかフィン王子をよろしくと頼んでいた。
アストガ侯爵は遅れが発生していることを言うことができず、『わかりました』としか言えなかった。
そこから彼は部下をさらに急かしたものの、一向に整わぬまま時間だけが過ぎ去っていく。
こういうときに平和を謳歌してしまったツケが回る。
兵站も部隊編成のマニュアルもあったが、いざ開いてみると実運用には全く耐えない穴だらけのものだったのである。
このツケは全て現場にいるフィン王子にまわり、ひいてはクロード王国にまわる。
そういったことを一から手直ししている時間はなく、必要数だけ決めて指示を出してようやく少し進んだ。
それでも予定している準備の完了にはあと2日はかかるだろう。
そうして準備の完了を苛立ちながら待っているタイミングで魔導騎士団から王宮に届いた報告は最悪だった。
<魔導騎士団は果敢に敵に挑むも、魔法を防ぐ障壁の魔道具によって天を突くような魔法攻撃がすべて無効化され、守りを固めた敵によって多くの団員が囚われた。>
誰も想定していなかった敗北。
さらに魔法攻撃を無効化するという魔道具の存在。
王宮はてんやわんやの大騒ぎになったそこに、さらなる凶報がもたらされる。
<ラザクリフ軍は戦時協定を守らず捉えた魔導騎士団団長はじめすべての団員を公開処刑すると宣言している。>
このラザクリフ軍の愚行に音叉の声があふれる。そして、王宮は焦った。
そもそも魔導騎士団が間に合えば一撃を敵に与えるか、防衛に徹するかは現場判断に委ねられたが、いずれにせよ十分リシャルデを維持・防衛できると考えていた。その上で、王国軍本隊が合流後に侵入してきたラザクリフ軍を総攻撃して打破する予定だったのだ。
さらにラザクリフ軍が魔道具を使用したというのはクロード王国にとって予想外だった。
魔道具の研究を退けてきた魔導騎士団が魔道具にやられたというのが痛い。
王宮内ではふってわいたように魔道具の情報収集が始まっているが、あまりたいした情報は集まっていないようだ。
このツケもフィン王子、およびクロード王国が払うことになるのだ。
いや、現在進行形で払っている。
そして、その魔道具の脅威はこれから出発しようとしている王国軍本隊にも伝わった。
正直勘弁してほしいとアストガ侯爵は嘆く。
その魔道具への準備にあとどれくらい時間を費やすというのかと。
無視するわけにはいかないのかと。
そして、どう考えても物理的に対抗するしかないという結論への対応として投石器が用意されることに決まった時、アストガ侯爵は天を仰いだ。
進軍スピードまで落とさせる気かと気が遠くなる思いだろう。
既に準備の邪魔をしたとして拘束された兵士や文官の一部はラザクリフ軍の息がかかっていることが伺えた。
この情報は王宮から王国軍上層部には伝えられていた。
もちろん全軍に下ろしたりはしない。
疑心暗鬼になるだけだ。
しかし、拙い。
国王や第4妃の焦りをアストガ侯爵は感じ取っていた。
そうしてなんとか明日出発というところまでこぎつけた5月22日夜、次の報告が王宮に届く。
その内容を読んだ伝送兵は驚嘆する。
そして全速力で国王に伝え、そこからは驚きをもって王城内を、王国軍内を、そして王都内をその情報が駆け巡った。
その報告は……。
<公開処刑を阻止し、捉えられていた魔導騎士団の救出に成功。反攻し、敵将を討ち取り、ラザクリフ軍を打ち破り、この戦争に勝利した>
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