番外編その1 召喚

番外編その1 第1話 <家> 召喚

 はじめまして。

 私は家だ。


 待って!意味分からんとか言わないで!


 いや、私にもよくわからない。

 どうしてこんな場所にいるのだろうか。

 さっきまでは穏やかな湖畔のふちでとある富豪の別荘として美しい景色の中で佇んでいたはずなのに……。


 あれはそう……少し寒くなってきた秋の朝だったはずだ。

 湖面に映る朝の太陽の光は水面を温かな色彩で彩り、まるで優美な舞踏を繰り広げるように揺れていた。

 その輝きは時間の経過とともに変化し、一瞬一瞬が独自の美しい姿を見せていた。

 そんな美しい景色の中、洗練されたフォルムを持つ私……。

 控えめに言って最高だった。


 なのに突然不気味な雲が現れたかと思うと大きな衝撃が沸き起こり……あれは地震だったのだろうか?

 ふと気付けばここにいたんだ。

 ……?

 どういうことだ?

 私?


 なぜ私は……?

 

 家ってこんな風に考えるものだったか?

 

 

『混乱しているようだね……』


 誰だ?


『はじめまして、私は神だ』


 紙?弱そうだな。


『違う違う。"神"だ。えーと、その、なんだ……家にどうやって説明したらいいのかわからない』


 あらわれたのは人間のような見た目だがなぜか後ろからまぶしく照らされていて顔の様子がわかりづらいおじさんだった。

 そのおじさんがなぜか落ち込んでいる。

 "かみ"という人なのかな?


『もういい。お互い理解不能なのだと思うが』


 混乱しているようだな……。


『そのセリフ、私のだ』


 話が進まないから続けてほしい。


『まさか家に話を催促される神がいるとは。仲間に笑われそうだよ』


 仲間がいるだけいいではないか。


『いや、まぁそうなんだけどさ。家に慰められたよ。意味わかんない』


 ……。


『わかったわかった。説明するから。えーと、単刀直入に言うと君は異世界転移したんだ。前の世界では災害にあって亡くなったと聞いている』


 家って異世界転移するものなのか?という疑問はあとで解消するとして、やはりあれは地震で私はその衝撃で壊れたということだろうか。

 よくわからないが、そもそも家が亡くなったっていうのはどういう表現なのだろうか?

 私にはそもそもこのように思考することがなかったと思うのだが。

 

『うん、私も不思議でたまらない』


 私というのをやめてもらえないだろうか。

 字面だけではあるがキャラが被るのだ。


『まさかの家からのダメ出し……衝撃的だ』


 返事は"はい"か"いいえ"だ。


『あっ、はい。すみません』


 わかればよろしい。


『キミ、偉そうだね』


 そんなことはない、いたって普通だと思うが。知らんけど。


『まぁいいか。じゃあ僕にしておこう。僕もかなり不思議だからちょっと調べさせるから待ってくれるかな』


 かまわんよ。

 千年とか言われると大変だが……。


『じゃあ、ちょっと待ってね。数分からせいぜい数時間のはずだから』

 

 そういうとおじさんは消える。


 それにしても不思議だ。

 私が私としてここにいる。

 前いた場所に佇んでいた記憶もある。

 どこに記憶しているのだろうか。

 人間でいう脳のようなものはついていないと思うのだが。

 そもそも私の中にいた人間はどうなったのだろうか。

 今ここにいないことだけはわかる。

 

 そんなことを考えながら少しボーっとしていると、おじさんが戻ってきた。


『えーとね、怒らずに聞いてほしいんだ』


 怒るという感覚を持たない私にはよくわからないから続けてくれ。


『いや、さっき怒られた気が』


 ダメ出しだと自分で言ってなかったか?

 怒るのとは違うだろう。


『そうなのかな?まぁそれでいっか。まぁ聞いてくれ。まず君がここにいる理由だけど、間違いなく召喚されているね。ラーハーグ様による召喚の結果だ』


 ラーハーグ様というのは?


『ラーハーグ様は古代神の1人だね。この世界に8人いた古代神の1人で世界の安定化のために異世界からの召喚を行うときがある』


 だいぶ曖昧だな。


『実際そうなのだ。今はお隠れになっているが、これまでの召喚は人、武器、お菓子、楽器、下着、本……そして家だ』


 どうしたらそうなるのだろうか?

 家は私だとして、まぁ武器や楽器やぎりぎりで本もわかるとして、お菓子と下着?

 なにを召喚しているのだ。


『ラーハーグ様にはあまり明確な意識はないんだ。ただ、世界の状況を鑑みてその時やそれ以降の世界で必要なものを召喚していると言われている』


 お菓子が?


『……あぁ』


 下着が?


『……』


 自信ないんじゃないか?


『そんなこと言うな。仕方ないじゃないか、よくわかんないんだから』


 このおっさんはたいして偉くないらしい。


『そんなこと言うなよ。これでも神だぞ?しかも2級神なんだ。偉くないわけないだろう』


 2級神とやらがわからないが……。


『この世界には神族がいるの!神族は世界の魔力の一部を譲り受けて産まれてくるからとても強いんだ。あと……』


 長い説明を要約すると、こうだ。

 長い年月を生きるから知識や経験も豊富になるし、精神的に成熟する……。本当か?

 昔はもっとたくさんいたけど魔神との戦いで減ってしまったし、この世界の魔力量の低下に伴ってだんだん産まれてくる神族の力が弱まってしまっている。

 古代神が8柱、魔神が3柱、現代神が100弱というのが現在の数だが、魔神や一部の古代神や現代神は眠っていたり封印されていたりする。

 現代神は12属性の神々が1級神、そこから世代を経るごとに弱まり4級神までが存在する。

 

『そんな現代神であり2級神である僕が君を迎えてあげた、というのが今までのところだね』


 こんなに時間を使ってまだ迎えただけなのが笑える。あっはっはっはっは。


『笑うなよ!』


 すまんすまん。

 それで?


『えーとね、で、僕の役目はラーハーグ様が召喚されたものを保護することだ』


 それが2級神たるものの仕事なのか?


『うるさいよ。仕方ないだろう。召喚された場所にはラーハーグ様の魔力が漂っていることが多くて3級神以下だと近づけなかったりするんだから』


 なるほど。

 でもそれなら仮に家が召喚されてもおかしいことはないのではないか?

 武器や楽器には劣るとはいえ、お菓子や下着よりは……。


『それは微妙だね』


 なんだと?


『うぁ、ごめんよ。そう怒らないで……って怒れてるじゃないか』


 うるさい、早く説明しろ。


『わかったよ。えーとなんだっけ。そうだ下着だね。下着はとても高性能でね。今では広く普及してるからこの世界にとても役に立ったのは間違いないよ?』


 ……そういうのもあるのか。たしかに低性能なものと高性能なものでは差がありそうだ。


『そうなんだよ。なにせ文明レベル的に1千年とかのレベルの差があったみたいだからね』


 なるほど。


 お菓子は?


『お菓子はお菓子だけど、これはそのままお菓子としてというよりは生命が食べづらいものを食べれるようにするという意味で効果的だったよ。苦いけど効果抜群の薬が作れたり、貧困にあえぐ地域でも食べれる植物だったり。そういう工夫を後押ししてくれた』


 よっぽど変な食材で作る美味しいお菓子だったんだな。


『それはそうだね。ケフィアを使ったお菓子だった』


 それが何かわからないが、それはいい。

 そんな召喚例があるなら家が召喚しても驚くことはないという意見は変わらんな。


『それはそうかもしれないけど、今回は生命体が召喚されると言われていたんだ』


 誰に?


『誰って?』


 ラーハーグ様というのは意識が薄く意思疎通できないんだろう?

 だとすると召喚されるものがなにかという予想は誰が?


『あぁ、そういうことか。そういう事なら、それは神託だね』

 

 神の託する言葉ということか?

 貴様も神なのではなかったか?


『ややこしいかもしれないけど、一応説明するとね……』


 いや、いらん。どうせ古代神と現代神には隔たりがあって、古代神のやることの一部は現代神に対して何らかの方法で通知されるが、その通知のことを神託と呼んでいるとかそういう事だろう?


『いや、そうだけどさ』


 ふむ。

 どういうことだ?


『いや、わかんないよ。とにかく今回は生命体だと聞いていたのにその場所にあったのが大きな家だったから驚いていたんだ』


 ようやく貴様の登場したところまで話が進んだが……。


『キミ、がやが多いんだよ。話が進まない』


 仮にも精神が成熟した神が言うことか?


『ギリィ』


 まぁいい。続けてくれ。

 理由を調べているとか言わなかったか?


『偉そうだね、キミ。まぁいいや。それで調べた結果わかったのは、キミは生物扱いされていることと、生物なので加護が授けられているというだね』


 ?


『なんか言ってよ』


 もはや意味が分からない。

 私に加護?

 なにをしろというのか?

 

『わかんねーよ』


 おい、匙を投げるな。仮にも神なんだろう?


『仮とか言うな。本物ですぅ。本物の神様ですぅ』


 なんか幼くなってないか?


『くっ……』


 で?加護とはなんだ?


『加護というのは』


 祝福だ!とかで済ますなよ?


『なに先読みしてんだよ!』


 で?


『あっ、はい。えーと加護というのはね、誰かが誰かに与えるもので、与えられた側には加護に見合ったスキルや能力が付与されたり、もともと持ってたスキルの効果が高まったりするんだ。キミの場合は……はぁ??』


 なんだ?何か凄い効果でもあったのか?

 格闘技のスキルとかついてても意味ないぞ?家なんだから。


『そりゃそうなんだけども……』


 まぁとりあえず教えてくれ。


『わかった。ステータスを開くから確認してくれ』


 <家のステータス>

 名前:ハーシル湖畔の別荘 [改名可能]

   HP: 10,031,200

   MP: 6,784,000

   物理攻撃力: 743,500

   魔法攻撃力: 500,250

   物理防御力: 1,034,400

   魔法防御力: 774,720

   速度: 5,000

   知性: 8,740

   魅力: 800

   運勢: 500

   加護 星の加護

   スキル

     格闘技Lv4、火魔法Lv4、水魔法Lv4、

     風魔法Lv4、地魔法Lv4、雷魔法Lv4、

     木魔法Lv4、光魔法Lv4、闇魔法Lv4、

     空間魔法Lv4、星魔法Lv6(加護の効果)、

     支援魔法Lv4、回復魔法Lv4、計算Lv7、

     思考速度upLv4、念話Lv4、鑑定Lv4、

     分割Lv4


 格闘技……、冗談だったのに……。

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