第26話 <家> 結婚式
とても晴れたある日。
美しい花々が咲き誇る、眺めの良い王城の庭園に多くの人が集まっていた。
国王陛下、フィンの母である第4妃、そして正妃、第3妃、王女たち、さらに貴族たちだ。騎士や職人もいるようだ。
皆、花を踏まないように気を付けて場所どりをしている。
当然ながら第2妃はいない。そして残念ながら王子もいない……、いや、今1人入ってきた。
その横には美しい透き通るような銀髪を背中に流した美しい女性。
昨年結婚したミカエル王子とエルメリア・ハザウェイ王子妃……元公爵令嬢だ。
もともと婚約していた2人だったが、ミカエル王子が魔力病により長らく病床に臥せっていたため婚約は解消されたかに思われていた。
しかしエルメリア王子妃は待っていた。
司書として王城の図書室に勤めながら、ミカエル王子の回復を信じて。
知識の海の中に何か手掛かりがないかと研究の整理などを手伝っていたらしい。
なんて健気な女性なんだ。
だからこそ珍しく図書室を訪ねたフィンに何かを感じ、声をかけ、手伝いを申し出た。
この2人の物語は演劇化されて王都をはじめ国内各地で演じられている。
大人気のようだ。
フィン王子の先の戦争での活躍を描いた演劇と人気を二分しているらしい。
どちらにも登場する家こと私をどう描くかで散々演出家のインタビューを受けたから興味はあるが、まだ観たことがない。
なにせ劇場に私が入れない。
そんな中始まる儀式。
緊張しながら出てきたのはフィンだ。
真っ白なタキシードに身を包んでいるが、借りてきました感満載でウケる。
あいつ王子様なのになんであんなに似合ってないんだろう。
ゆっくりと歩いて出てきたのに何もないところでこけそうになっているのがまた可愛い。
大丈夫だろうか?
そんなフィンがみんなのところまで歩いてくると、中央にいる白と青の綺麗な衣装を着たお爺さんの前で立ち止まる。
そしてみんながまた庭園の入り口の方を向く。
次に現れたのは小太りの壮年の男性と、美しい金のドレスに身を包んだ艶やかな黒髪の女性……ローザだ。
この2人の婚約は私を喜ばせた。
ローザがフィンを好いているのなんて、初めて見たときからお見通しだ。
しかし、どこか抜けた感じのあるフィンに、しっかりもののローザは合う。
フィンのあれやこれやを聞いてハートマークを目に浮かべるローザを見るのは楽しかった。
だが、眠りながら魔道具を抱きしめてるフィン、なんていうエピソードがそんなに素敵な話なのだろうか?
まぁいい。
この2人はミカエル王子とエルメリア王子妃の結婚の少し後に婚約した。
どちらもはにかみながら両親とともに会食している姿はばっちり記憶にとどめてある。
なんなら絵も描ける。
いつかこの2人の子供に教えてやろう。
そんな2人は今日結婚する。
良かったな、フィン。
お前がミカエル王子を治し、国王に就けたことで成立したこの結婚だ。
もしフィンが国王になるのだったら身分差がありすぎて不可能だった。
こんなことも動いてよかったと思える出来事の1つだ。
皆幸せになった。
改めてよくやったな、フィン。
なにを怖がったのかわからなかったが、おずおずと私に相談した時のフィンの顔もよく覚えている。
人に頼れなかったフィンが相談し、協力し、助け合った結果が今だ。
動いてよかっただろう?
やれることをやってよかっただろう?
これからどんなことが起こるかなんてわからないけど、助け合えばきっとなんとかなるさ。
そうやって未来が紡がれていく。
そんな想いをめぐらしていると、2人がキスをしている。
観客たちは大賑わいだ。
あれも人柄かな。
ド真面目で固いフィンだが、仲良くなると結構陽気だし、ハメも外す。
酒には弱い。
魔道具研究所でもいろいろやらかしていて、だからこそ人気がある。
親しみやすいんだろう。
王子なのに寝癖がついた顔でコーヒー片手に遅刻するってなんなんだろうか。
国王陛下も第4妃もミカエル王子もエルメリア王子妃もみんな嬉しそうだ。
そうこうしていると花火が上がる。
とても派手で明るい花火だ。昼間でもよく見える。
これはなんと魔導騎士団と魔道具の共演だ。
魔道具を操っているのはルード。フィンのお祖父さんだ。
魔導騎士団の面々は多くが出席を希望したらしいが、残念ながら警備や庭園の広さの関係で入れなかった。
ここに入れたのは魔導騎士団長やガウェル中隊長、あとは高位の貴族の子弟だけ。
それでは収まりがつかなくて、明日魔導騎士団向けのお披露目が予定されている。
とても仲が悪かったはずなのに戦争のおかげで今はこんなに仲良し。
悲惨な戦争だったし、招き入れたアホどもにはしっかりとお仕置きをしたが、悪いことだけではなかった。
魔道具研究所の成果を魔導騎士団がこぞって利用しているらしい。
むしろ魔道具研究所に魔導騎士団長が入り浸っている。
花火によって神聖な式の終わりが告げられ、ここからは披露宴だ。
王城の大広間に会場を移してしまうことを心配していたが、この場にテーブルが並べられ、宴が始まる。
天気が良ければ外で、なんて言ってるアストガ侯爵の発言を聞きつけ、持てる魔法のすべてを使って雨雲を追いやったのは内緒だ。
いいだろう?
私だって見ていたい。
この幸せな光景を。そしてフィンの門出を。
花火の後はなんかたくさんの板や台が運ばれてくる。
そして入ってくる人々。
瞬く間に舞台がセットされ、なんと演劇が始まった。さすが王城の披露宴。やることが派手だ。
演じられるのは先の戦争を描いた物語。
やった。見たかったうちの1つが見れる。
演じられている商人が本人のように見えるが気のせいだよな?
私が飛び立つところは、なんと魔道具の家(3分の1サイズ)が使われていた。
どこに予算使ってるんだ?機能が飛び立つのと土砂を降らすだけというのがまた何とも言えない。
その後は舞踏……ダンスだ。
絢爛な大広間で催されるダンスも美しいのだろうが、美しい花々が揺れる開けた庭園で行うダンスもとても綺麗だった。
音楽も素晴らしい。
私はこの光景をしっかりと記憶に焼き付けていた。
いつか昔話として誰かに話してやるときが来るかもしれない。今日のこの日を。この日につながる物語を。
いや、いつかとは言わず、真っ先にあいつらの子供や孫にしてやろう。
そのくらいの権利は私にはあるだろう。
湖畔の家だったはずの私の中のどこに記憶する場所があるのかはわからないが、こうして満足を得ることができるというのはいいものだ。
ラーハーグ神に感謝を述べてもいいかなと思う瞬間は、こういう幸せな光景を見れる時だ。
エピローグっぽくなってしまったな。
私は良い生を過ごしているぞ……2級神。
幸せにな、フィン。
△△△△家のつぶやき△△△△
ここまでお読みいただきありがとうございました!
ん?私だって警護くらい使えるぞ?感謝を表したのだ。
これにてフィンの王位継承に纏わるお話は終了。次回は未定だ。
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きっと作者が飛び上がって喜びます。
いや、あいつ別の話書いてやがる!
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