番外編その2 第7話 <家> 思い出に浸る魔法の家

「おぉ~っと、家型魔道具による挟み込み攻撃なのか?なんだそれは?いや、しかし強力な攻撃にラヴェット選手が気絶~~~!ここで試合終了!優勝はエイレン選手だ~~~~~~~~~~!!!!!!!!!」

「「「「「「「「「「「「おぉぉぉおおおおぉぉおおおおぉぉおおおお~~~~~!!!!!」」」」」」」」」」」」

 沸き起こる歓声と拍手。


『やったな!優勝だぞ!!』

「あぁ、うん。ありがとう家さん。でもなんか凄いズルいような……」

『何を言ってるんだお前は!イヴェットの体が大切なんだろう?』

「うっ、うん。そうなんだけど」

 


「見事じゃった。素晴らしい魔道具だったぞエイレンよ」

 煮え切らないエイレンの前に降りてくるロワードリッヒ国王。


「あっ、ありがとうございます。陛下」

 すぐに国王への礼を取るエイレン。こういうところは真面目だよな。平民のくせに魔法師団とも取引してるし、伯爵家の娘を貰っているんだから、誰かに教わったんだろうな。知らんけど。


「うむ。ラヴェットは大丈夫かのぉ?」

 そして国王はラヴェットの様子を伺う。良い国王のようだ。今のような平和な世の中には合っているな。


 神官たちがラヴェットの治療をしている。




「それでは閉会式……いや、表彰式だ~~!!!」

 そうして始まる表彰式。


 おじいさんたちが闘技場に出てくる。

 偉い人たちなのだろうな。



「では、第3位の……」

 第3位から表彰されるようだ。準決勝で負けた2人の対戦はなく、2人ともに3位となるようだ。

 つきものが落ちたように大人しいスカーンと、準決勝でラヴェットに負けた妙齢の女性魔道具師が表彰される。


「第2位はラヴェット・グリーズバッハ!」

「はっ!」

 どうやらちゃんと回復してもらったようだ。まだエイレンに厳しい視線を向けているが、さすがに国王陛下の前で騒ぎ立てる気はないらしい。


「そして第1位……優勝はエイレン!!!!!」

 パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ!!!!!!

 大きな拍手が闘技場を包む。

 エイレンは相変わらず釈然としない表情だが、素直に表彰されている。


「実に素晴らしい戦いじゃった。年甲斐もなく興奮したのぅ。今後も素晴らしい魔道具を作ってくれることを期待しておるぞ!」

「はい、陛下。微力ながら力を尽くす所存です!」

「うむ。ではこれは商品だ。王国の宝物庫に眠っていたものじゃが、活用された方が魔道具も喜ぶじゃろう」

「ありがとうございます、陛下!」

 それはまさしく"魔力の指輪"だった。


「ラヴェットからお願いされたのじゃが、おぬしらの目的は同じじゃろう。良い結果じゃのう」

「!?!?」

 驚いて振り返るエイレンとあからさまに視線を逸らすラヴェット。

 お前たちはきっと仲良くなれる気がするぞ?





「陛下、ありがとうございました。私は一刻も早くこれを妻に渡したく……」

「うむ。行くがよい。また王都に来た際には王宮に立ち寄るように。よいな!」

「はいっ!」


 では行くとしよう。さすがに国王陛下の前で喋れることをばらすわけにはいかないので、念話でエイレンとだけ会話し、私は空に飛び立つ。



「すさまじい魔道具じゃのう。家が空を飛んでいくなど、夢のようじゃわい」



 後日、王宮を訪問した際に、次からは家で移動してくるように命令されたとかなんとか。

 魔法師団のワイバーンは経費がかかるから当然だったかもしれない。

 イヴェットも"魔力の指輪"のおかげで治ったわけだし……。




「イヴェット!ほら、これ。つけてみて!!」

「エイレン。無事で良かった」

 さすがにイヴェットに指輪を渡すときには嬉しさを弾けさせているエイレンに抱き着くイヴェット。

 うむ、良かったな。

 それ以上は寝室でやってくれ。


 イヴェットは良くなった。

 もともと枯渇する理由は魔力を体内にとどめておく部分が少し弱く、勝手な放出が玉に起きてしまうことによるものだった。

 それが"魔力の指輪"を装備しておけば、減ったら回復させてくれる。

 放出は止まっていないのでそこは引き続き研究するとエイレンが意気込んでいるが、少なくとも体調を崩すほど放出して枯渇することはなくなった。



 

 これにてこのお話は終わりだ。

 いかがだったかな?私の格闘技は。

 えっ?違うって?なんだよ。これは私が格闘技を見せつけるお話だぞ?



 その結果、エイレンとイヴェットが幸せになったんだから良かっただろ?


 もちろん、家型魔道具の素晴らしさに気付いた王宮からはもっと生産するように言われた。

 要求仕様が完全に準決勝や決勝での出来事を元に書かれていたから、エイレンは呆然としていた。

 その後泣きながら研究開発していたな。王宮からしたらもうすでにあるものだから、その研究開発を見せるわけにはいかない。

 文字通りのデスマーチだったから、イヴェットが心配していた。


 こらっエイレン。イヴェットを心配させるな!



 さらに魔道具研究所からはスカーンの名前で協力要請を受けた。

 どうやら彼はエイレンが魔道具研究所への就職を断った理由を誤解していたそうだ。

 妻を守るために優しい環境に身をおくためだったと知って、謝罪の言葉が書かれた手紙が届いた。

 

 しかし、私が飛んで移動できることがバレてしまったから、王都に来る際に協力してくれと書かれていた。



 ラヴェットは父親から怒られたらしい。

 優秀な魔道具師であるエイレンのことを認めているグリーズバッハ伯爵はイヴェットとの結婚に賛成だし、引き続き優れた魔道具を作って提供してもらう腹積もりだったからだ。当然エイレンが魔法師団に魔道具を収めていることはグリズバッハ伯爵の実績とされている。


 イヴェットも連れてグリズバッハ伯爵家を訪れた際に、エイレンに謝罪していたが、不機嫌そうなその顔に笑ってしまったのは内緒だ。

 プライド高そうだから。


 イヴェットによると優しい兄で、ずっと心配してくれたらしい。

 そんな妹を取られたと思っていると聞いたら、むしろ可愛らしい気がした。





 楽しかったなぁ、あの頃も。

 あの後戦争が起きて、代替わりした高圧的な国王の命令に嫌気がさして決裂するまでは良い日々だった。

 滅亡する王国から逃亡した際に友人たちは脱出させたし、エイレンとイヴェットを看取ったんだから良い時間だったと言える。


 利用されかけたことは反省して、その後しばらくの間は能力を隠していたからエイレンとイヴェットの子孫は移住していった。

 別れは辛かったが、今、彼らの子孫はどうしているだろうか。

 まぁ、あいつらの子孫だし楽しくやってるかな。きっと。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る