番外編その3 過去の住人

番外編その3 第1話 <家> 過去の住人

「ねぇ家さん」

『どうしたんだフィン?この前探していた春画ならあっちだぞ?』

「え????」


 今日は良い朝だ。

 春の陽気に小鳥たちがたくさん私のまわりで囀っている。


 ピンクや白や黄色の花が咲いている。


 のんびりだな~。


「フィン様?(怒)」

「ちょっと家さん!ストップ!ローザ、違うから!」


 こっちは修羅場だな~。


 結婚して2か月。

 予想以上にのんびりな草食男子なフィンと予想以上に積極的な肉食女子だったローザはとても仲良く暮らしていた。

 もちろん昨年秋の選定会議直後に発足した魔道具研究所所長となったフィンは大忙しだし、ローザは慣れぬ社交を頑張っている。

 仲睦まじきは良きことかな。


 早く2人の子供の顔が見たいという国王や第4妃と私……?

 ん?いいだろう?

 私は2人の子を愛でる気満々だぞ?


 ん?なのに2人を喧嘩させてどうするだって?

 あぁそうだな。そろそろ止めないとまずそうだ。


「家さん!家さんてば!!」

『あぁ、すまんな。冗談だよローザ』

「本当ですか???」

 ここでもう1つ……いや、ここでもう1つの爆弾を投下するのはさすがにフィンが可哀そうだからやめておこう。


『あぁ。すまんな、ちょっと冗談でもと思っただけなのだ』

「まぁ家様!」

 まずい、怒ってるな。

 

『では朝食をどうぞ。今日は腕によりをかけたフルコースだ!』

 その美味しさに酔いしれるといい。


「家様、大変申し訳ないのですが、ちょっと朝からフルコースは……」


 ちょろいな。



 私はフィンとローザを大部屋のテーブルに座らせて料理を並べる。

 ローザの方は少な目だ。

 この部屋はもちろん次元を歪めてあるから、私の外見からしてありえないサイズになっている。


 王侯貴族が食事してもおかしくない立派なテーブルにクロス。

 周囲にはシックだが高級感のある調度品を並べている。


「初めて入るお部屋ですわ……」


 寝室と玄関以外にどの部屋を用意するかは私の気分次第だからな。


 

「この絵……」

『ん?』

 料理を終え、紅茶とデザートを出したところで、フィンが飾ってある絵に興味を持ったようだ。


『どうかしたのか?』

 絵に映っているのは腰まである長く美しい銀の髪を持つ幻想的な雰囲気の女性だ。


「ちょっと人間離れしてるな~と思ってね」

『なるほど。フィンはこういう女性が好みか?』

「家さん!」

「家様!!!」

 まずい、最初からこっちに来た。


『すまんすまん。人間離れしていて当然だ。この女性は人間ではないのだから』

「「え?」」

 懐かしいな。もうどれくらい前になるだろうか。


 彼女は私の住人だったのだ。

 彼女の愛する人間の男と一緒にな。


『彼女はかつて魔王だった魔族の女性だ』

「「えぇ???」」

 一緒に目を丸くしているフィンとローザ。仲いいな君たち。


「フィン、そろそろ仕事では?」

「えっ?あぁ、急がないと!」

「フィン様、お手伝いを」

「いいからローザはゆっくりしてて!行ってくるね!」

「いってらっしゃいませ」

 慌ただしく出て行った。今日は大事な会議があると言っていたが大丈夫だろうか?


『ローザ、では昔話につきあってくれ』

「えっ?はい、聞きたいです。魔王というのはその……」

 ほっとくと鍛錬とかを始めてしまうローザをのんびりさせるのも私の仕事だ。

 フィンから頼まれているからな。


 あれは私がゼルガルド大陸のとある森の中の広場が気に入って居座っていた頃の話だ。


「家様はゼルガルドにもいらっしゃったんですね」

『あぁ。当時はまだこの世界のことがよく分かっていなかったし、この前話したエイレンの子孫と別れた後で、少しのんびりしたかったんだよ』

 慌ただしい連中のおかげで全くのんびりはできなかったがな。


『まぁ、言ってみたら大陸中で戦争をしているような感じだったのに驚いたんだが、それでも移動していたらとても魔力が多い森を見つけてな。そこの中に穏やかな広場があったからそこに腰を付けたんだ。そしたらなんかめちゃくちゃ強い人間に見つかってな』

「人間ですか?家様が強いと言われるのなら、相当なのでしょうね」

 それはそうだろうな。

 なにせあいつは私のことを魔物だと思ったようで殺気を押さえずに近付いてきたんだが、本気で逃げようかと思ったし、逃げても叩き壊されるイメージしか持てなくて戦う前から声をかけたのだから。


『私が見た中では人間として最強だと思う。ふざけた軽い性格だったがな』

「そうだったのですね」

 声をかけたら魔物じゃないことに気付き、平謝りされたな。

 気安くて面白いやつだった。


 あるときから罰ゲームで敬語を使わされたのもいい思い出だ。

 そのせいで彼女はずっと私のことを丁寧な"お家"だと思っていたそうだが。

 くっくっく。


『その男のフィアンセが、彼女だ』

「魔王が、ですか?そんな強いとしても、人間と?」

『元"魔王"だがな。そこのネックレスをかけてくれ。それで彼らの記録が見えるだろうから』


 ローザは私の言う通り魔道具のネックレスを首から下げ、目を閉じる。

 当然のように言ったが、記憶が見れる魔道具とか怖がったりしないのだろうか?

まぁ、私への信頼か。

 そして、この魔道具はまだちゃんと動くようだな。


 私はローザが冷えないよう布をかけてやった。

 では、楽しんでくるといい。元"魔王"と、元"勇者"と、もう一つはいらない気がするけど元"聖女"の物語を。

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